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鈴屋さんと大英雄っ!〈12〉

英雄編、12話目です。

スキを見ては、なんとかラブコメ挟んでます。

ワンドリンク片手に、気軽にお楽しみください。

「あーちゃん!」

 いち早く駆けつけたのはアルフィーだ。さすがは窮鼠の傭兵団で最も足の早いとされる、第三部隊の隊長なだけはある。

「手紙は見たか?」

「見たよ〜。治癒魔法が得意な娘を、ラナちゃんのとこに行かせたから安心して〜」

 アルフィーはウインクをひとつして、右手に持つサーベルをクルクルと回し始める。

 そしてワイヤーに繋がれた巨大な海竜を見上げて、不敵な笑みを浮かべた。

「あぁ〜、でかいねぇ。たぎるねぇ…」

 その横顔はまさに歴戦の戦士の顔だ。その目には一点たりとも、恐怖の色がない。

「油断するなよ。あんな化物の攻撃、普通はパリィできないんだからな?」

「なにぃ〜、あーちゃん心配してくれるん?」

「そりゃ、するさ」

 俺はそう言って、アルフィーの顎先をクイッとつまみ上げる。

「えっ……」

 不意を突かれたアルフィーは、普段見せない恥じらいを含んだ表情を浮かべていた。

 しかし俺は構うことなく、そのまま人差し指で彼女の艷やかな唇に触れる。

「あぁ…ちゃん?」

 滑らせる指先からは、暖かで柔らかい感触が伝わってきた。

 そして、その指先を自分の鼻に近づけ……


 …くんかくんか…


「あ、あーちゃん?」

 首を傾げて戸惑うアルフィーに、俺は笑顔を見せる。

「……な、なに?」

「うん、完全に肉の臭い……って、この大事な戦いの前になに食ってんだ、お前は!」

 笑顔から一転、呆れ顔で怒鳴りつけてやった。

「エー、ナンデワカッタンー」

「唇がやたらとテカテカしてんだよっ! 人が決死の思いで戦ってる時に、お前はっ!」

「モウー、イマノン、チィトバカシ、ドキドキシター」

「棒読みで何言ってやがるっ! 本っ当に、そんなんで大丈夫なんだろうな?」

「なに~心配ってそっち? もう~誰に言うてるんよ、あーちゃん」

 ふっと鼻で笑い、指を1本立ててウインクを添える。

「今、お腹にいいのもらったら、吐いちゃう♡ 食べ過ぎで♡」

「あほかぁぁぁっ!」

 俺は反射的に、固く握った拳を白毛頭にゴスッと落とした。

 我ながら素晴らしい反応速度だと思う。

「いったぁぁぁい〜〜!」

 頭を両手で抑えて悶絶するアルフィーに、一点たりとも同情の余地はない。

「このシリアスな場面で、アホなこと言ってるんじゃねぇよ!」

「あーちゃん、そこは優しくお腹をさすって“おっ…今動いた!”とか、そういう洒落のひとつでも言うてよ〜」

「言うかよっ!」

「なんなら、そこから手が滑って、思いっきり胸もんでもいいんよ?」

「滑るかよっ!」

 と、言いつつも、その胸元に目がいってしまうのは、男の悲しい性だ。

 そして思わず見てしまった俺の視線に、しっかりと気づくのが、女という生き物である。

 アルフィーは腰を曲げて少し前かがみになり、両腕で己の胸を挟むようにしながら、上目遣いで俺の顔を覗き込んできた。

 そして、この一撃である。

「あたしのん、嫌いじゃないみたい…ね?」

「……う……ぐぅ……」

 思わず言葉をつまらせてしまう。

 いや、まて、今は大事な戦闘中……

「おいおい、お二人さん。仲がいいのは結構なことだが、そういうのはベッドの上でやるもんだぜ?」

「ぬぁ、ドレイクさん! いつの間に…」

「さすが、ドレイクの旦那ぁ、いいこと言うねぇ!」

 もはや、ため息しか出ない。

 お前らは、目の前のこの化物を、ちゃんと見てるのか?

「…フハハハッ! まぁ、冗談はさておき…………おう野郎ども、仕事の時間だ!」

 ドレイクが、威厳のある声で叫び、巨大な槍を天に掲げる。

「あれは金と名誉の塊だ! 鱗の一片も残すな! 存分に食い散らかせぇいっ!」


『おおおおおおおおおぉぉぉおおおっ!』


 百人を超える傭兵団の雄叫びが、戦場全体を鼓舞しているようだった。

 その迫力たるや、先程のドワーフたちの声を超える勢いだ。

「窮鼠の傭兵団、全軍突撃っ!」

 ドレイクの号令とともに、窮鼠の傭兵団が一斉に襲いかかる。

 そして遅れをとった冒険者部隊も、次々と攻撃に加わっていった。

 津波のように押し寄せる怒涛の攻撃に、ダライアスが体を回転させて、ワイヤーを引きちぎり応戦する。

 ダライアスの尻尾攻撃は非常に強力で、その巨躯が竜巻のように回転するたびに、何十人もの戦士が空中を舞うようにして吹き飛ばされていた。

「怯むな、止まるな、考えるなぁっ!」

 ドレイクが雄叫びを上げて、槍を両手で握り突進をかける。

 その豪快な一撃は、見事にダライアスの鱗を貫通するが、やはり決定打には程遠い。

 どんなに人数が多くても、やつを追い詰めるには常識はずれの一撃が必要だ。

「アークさみゃ!」

 そしてその一撃を持つ、最強のカードが登場した。

「来たか、シメオネ!」

 元気印のネコ娘は、踊るようなステップを踏んで俺の横に並ぶ。

 ついでに、さらに後方ではラスターの姿もあった。

「作戦の変更はあるかにゃ?」

「いや、大きくは変わらない。ある程度削ったら、錬気しまくって究極の一撃をぶっ放せ!」

「了解したにゃ!」

 シメオネは拳を振り上げて応えると、8の字を描くように体を揺らしステップを加速させる。

 超回避行動を取りながらの練気モードだ。このモードのシメオネに攻撃を当てることは、俺でも難しい。

「あーちゃん、あたしは?」

「とりあえず、ラナが来るまでは俺と一緒にいろ。ラナが到着したらハチ子さんと入れ替わりで彼女を守ってくれ」

「りょ〜かい〜。んじゃあ、来る前に倒しちゃおぅかなぁ〜」

「カカカ、言うねぇ…」

 ニヤリと笑うアルフィーに、だがそう簡単にはいかないだろうよ…と、心の中で呟く。

 なぜならば、俺はその時すでに気づいていたのだ。

 ラナの二重詠唱でダライアスに与えたはずの傷が、今はすっかり治っていることに。

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