表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
136/504

鈴屋さんと大英雄っ!〈10〉

お持たせしました。

お盆前にあげたかったのですが、なかなか時間が取れず…で、書きためておりました。


それではラナの活躍を、ワンドリンク片手にお楽しみください。

 俺はテレポートダガーで『地上決戦組』が待つ倉庫にもどると、手短に現状と作戦の修正を説明し、再び港に戻っていた。

「アーク殿!」

 ハチ子が切迫した声で駆け寄ってくる。

 理由はすぐに理解できた。

 港から200メートルほど沖へと離れた場所にある、ドワーフ隊と巨大な海竜の戦場が激化していたのだ。

 荒ぶる波に翻弄されながら、ありったけの投擲武器を投げ、投擲武器をなくしたドワーフは、戦斧を手に自ら海へと飛び込んでいた。

「くそ、わかっちゃいたが…」

「戦況は芳しくありません。やはり海での戦闘はダライアスに軍配が上がります」

 せめて海軍でもいてくれればよかったのだが、いないものを当てにしても仕方がないというものだ。

「どうしますか、アーク殿?」

「弓に『絶界雷』をかけるから、ハチ子さんはそれで攻撃をしてくれ!」

「了解しました、アーク殿」

「あとは…少し早いけど頼めるか、ラナ?」

 俺が連れてきたのはラナだけだ。遠距離で火力となると彼女しかいない。

 隣では三角帽子を目深にかぶり、地面をトントンと大きな杖で叩く少女の姿があった。

「もう少し近づかないと魔法が届きません」

 そして、小さな声でごめんなさいと付け加える。

「船か…じゃあ」

 俺はそう言って、先程の赤ひげのドワーフを探す。

「おい、さっきのドワーフの爺さん!」

「なんじゃ、やかましいぞ、若造!」

 馬とバリスタの矢を力任せに繋げながら、赤ひげのドワーフが叫び返してきた。

 鎧を着ていないところを見ると、技師なのだろう。

「船を借りたい!」

「…船じゃと〜」

 ドワーフはいくつもの三つ編みに編み込まれたひげを触りながら一考し、やがて深く頷いた。

 さきほどの作戦を思い出したのだろう。

「ギルじゃ。言っておくが、わしはまだ46歳じゃ!」

「んなことはいいから、船はないのかよ!」

「はんっ、ついてこい、若造!」

 ギルはそう叫ぶと港の方に向けてドタドタと走り出した。

 黙ってその後をついていくと、ギルは港に停泊していた小さめの船に飛び乗る。

「わしが漕ぐ、お前らはしっかり攻撃せい!」

 そう言いながら、ギルは船尾にある長いオールを漕ぎ始める。その力強いひと漕ぎで、船は大きく前へと進み始めた。 

「ちょ…早いって!」

 慌ててラナの方に視線を送る。

 うん、間違いなくそのローブでは飛び乗れないだろう。

「悪い、失礼するよ」

 文句なら後で聞いてやるからと付け加えて、小さな体つきの彼女を抱き抱える。

 ラナはキャッと可愛らしい悲鳴をあげ、両手で杖を抱え込むようにして身をすぼめる。

 俺は構わずそのまま飛び移り、ひどく揺れる船上へと優しくおろした。

「ど、どうも…ありがとう…ございます」

 俺は彼女を支えながらそれに頷いて応えると、ハチ子の方を見上げる。

「飛び乗れ、ハチ子さん!」

「…お姫様抱っこ…」

「へ?」

「なんでもないです!」

 ハチ子がなぜか口を小さくとがらせて、ワンピースを抑えながら軽やかに飛び移ってきた。思わず、ふわりと舞うワンピースの裾に目を奪われる。

「おぉ…際どい…」

「あ、あ、アーク殿っ、そんなことより属性付与を!」

「任せろっ!」

 すぐさまハチ子の弓を指でなぞり、絶界雷を発動させる。弓はすぐにパリッと音を立てて、青白い稲妻を走らせ始めた。

 弓矢の属性付与は、弓にバフをかけることにより、その弓から放たれる矢にも属性が付与されるようになっている。その辺はいかにもゲーム的で、ご都合主義な効果だ。

「雷属性の付与…しかも詠唱なしで……遺失魔法か何かですか?」

「説明はあとだ。ラナ、魔法は使えるか?」

「あの…揺れが酷くて集中が難しそうです…」

 そうだろうよ。正直、俺も立っているのがやっとだからな。

 ダライアスが起こす波は思っていた以上に強く、どうあっても船は大きく揺れてしまう。この揺れの中で呪文を詠唱することは難しいだろう。

「OK、俺が支える。とりあえず、明かりの魔法だけでも頼めるか?」

 ラナは不安気にうなずくと、杖で船底をトントンと叩いた。

 そしてゆっくりと深呼吸をひとつし、詠唱を始める。

『月よ、魔力の泉より、闇を染める光を今ここに』

 詠唱された呪文に反応し、杖が赤く光り始める。その月の周期の色で光を灯す、月魔法の月光ライティングだ。

 杖から放たれる強い光に照らされて、俺の背後に濃い影が生まれる。

「よしっ、術式 影縛り!」

 俺は背中に装備していた、8本のダガーのうちの1本を、自らの影に向かって投げつけた。

 効果はすぐだ。俺の下半身が石のように固まっていく感覚が生まれる。

「…何を?」

「束縛の術だ。これでどんな荒波が来ても、俺の足は、あのダガーに固定される!」

 と言ったところで理解できないだろうが、今は説明をしているときではない。

「あと、先に謝っとく。ごめん!」

 俺は、言葉に意味が理解できずに目を丸くしている、ラナの腰に手を回し、そのまま後ろから抱きしめた。

 もちろん「鈴屋さん見てないよね? これは違うからね」と、頭の中で言い訳をしながらだ。

「なっ…なっ、なにしてるんですカァッ!」

「アーク殿、ハチ子も怒る時は怒りますよ!」

「馬鹿、違うって、これで支えるから呪文詠唱しろっての!」

「余計に、集中できませんょっ!」

「アーク殿、わたしだって支えてほしいです!」

「お前は体幹良すぎて、超平気じゃねぇか!」

「…お前って…」

 やめろ、赤くなるな。話がややこしくなる一方じゃないか。

「小僧どもっ、早く攻撃せんか!」

「わかってるよ! ラナ、魔法をっ!」

「〜〜〜〜〜〜〜〜っ!」

 ラナは顔を真赤にして涙目になりながら、何度も杖で船底を叩いていく。どうやら恥ずか死ぬ直前のようで、もうなんか見ているだけで色々と可愛らしい。ただ、俺のやってることといえば、ほぼハラスメント行為なので、いつか天罰が下るのではと冷や汗混じりである。

「こんなこと、前のパーティでもされたことないですっ!」

「いいから早く!」

 ラナは、唇をきゅっと結んだ後、集中するためか目を閉じる。

『…月よ、魔力の水面に跳ねる赤の雫を今ここに!』

 呪文に反応し、杖の先から大きな赤色の光弾が生まれ、ダライアスに向かって凄まじい速さで放たれる。

 たしかあれは、月魔法で最も基本となる攻撃魔法「月光弾エナジーボルト」だ。その月の周期の色でエネルギー弾を放つため、今回は赤色なのだろう。

 赤い光弾はダライアスの首元に当たると、バグンッ!と大きな音を立てて爆発した。

「おぉ…」

 基本魔法であの攻撃力って、相当魔力高いんじゃないのか、この子。

 すかさずその首元に、雷の矢が刺さっていく。

 ハチ子の弓の腕前も相当だ。

『キュゥルルルルルルルルルッ!』

 ダライアスが高い声で鳴き、巨躯をよじらせる。その度に大きな波が生まれて、船が上下左右へと暴れまわる。

 その揺れもさることながら、間近で見るダライアスは絶望感そのものだ。ワイバーンなど比べ物にもならない。

「アークさまっ!」

「こらえろぅぅぅっ!」

 俺は必死にラナを抱きしめて、波を凌ぎきろうとした。

 しかしその時、竜種の恐ろしい攻撃が牙をむく。

『キョォォォォォォォォゥ!』

 鳴き声のあと、その口から海流のブレスが放たれた。

 それは水圧を凝縮したレーザーカッターのようなもので、近寄る船を両断してしまうほどの破壊力だった。

「やべぇ、あれはやべぇ…」

 危険なのはブレスだけではない。暴れる尾も、うねる波も、そして飛び散る船の破片も、全てが俺たちに襲いかかってくるのだ。

「ハチ子さんは剣線でギルを守って!」

 俺はそれだけを告げると、ラナのことを身を挺して庇う。

 しかし、一際大きな木片が、俺の肩とラナの頭に直撃してしまった。

「キャァァァッ!」

 俺は痛みに顔を歪めならも、悲鳴を上げて座り込むラナを守るべくさらに抱き寄せる。

「大丈夫かっ!?」

 ラナは、頭のどこかを切ったのか、幾筋かの血を流していた。やがて血はみるみると顔の左側を覆っていく。

 しかし彼女は真っ青な顔をしながらも、健気に何度もうなずいて見せていた。

「くそっ、たしかシーサーペントって、エルダードラゴンより全然格下の竜だよな。こんなん、マヂで倒せんのかよ!」

「臆するな、若造! あんなもの図体が大きいだけじゃ! 攻撃し続ければいつかは倒せるわいっ!」

 腹の底に響くような、ギルの鼓舞が心強い。

「たしかに…あぁ、その通りだ! ダメージは通ってんだ。いつかは倒せる!」

「アークさま、でも…わたし、怖いです…」

「大丈夫だ、俺がついてる。いざとなったらテレポートで逃げることも出来る。だから安心してぶっ放せ!」

 ラナは少し震えながらも、こくこくと首を縦に振る。

 そうだ。彼女は冒険者なのだ。怪我をしても戦える強さは、すでに備わっているのだ。

「少し、全力でいきます!」

 そう言って立ち上がると、自分よりも大きな樫の木を両手で掲げる。

さかきの杖よ、その力を解き放て!」

 直後、ラナの体が青白く光り始める。

 …これは…特殊バフ? 杖の効果か?

『月よ、魔力の…』

 その時、なぜかラナの声が二重になって聞こえた気がした。しかしそれが幻聴ではないと、次の瞬間に、はっきりと理解する。

『吹雪で全てを凍らせよ!』

『氷槍の雨で穿ちぬけ!』

 月夜の空に氷の槍が何本も生まれ、猛烈な吹雪に巻き込まれてダライアスに襲いかかる。槍はダライアスの巨躯に次々と突き刺さり、強烈な吹雪は海面をも凍らせていった。

 さすがに魔力を使いすぎたのか、ラナの体から力が抜けていく。

「なんだ? なにをした?」

「…さかきの杖の秘められた力…『二重詠唱』で、2つの魔法を同時に行使しました…」

 なるほど、レア杖の力で、特殊なスキルを一時的に開放したってことか。この子、本当に強いな。

「…簡単に説明すれば、月魔法の月吹雪アイスストームと、月雪槍ブリザードスピアを同時に詠唱して、月雪槍乱舞アイスストームスピアという特殊な複合魔法を発動させてます…」

「…同時詠唱…天使系のボスが使ってきてたな、たしか。味方が使ってるのは初めて見たぜ」

「…これは…秘密でおねがいします。複合魔法は私の研究している大事な分野なのです…」

 俺は黙ってうなずきながらも、月魔法の強さに只々圧倒される思いをしていた。

【今回の注釈】


・赤い光弾………ジリオンです。知るわけないですね、すみません。ここから連想されるのは、ジリオン=セガ商品化アニメ系列=ボーグマン=菊池通隆=麻宮騎亜=サイレントメビウス=コンパイラって感じです。いま並べた連想を、秒で理解できた人はすごいと思います。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] えと、注釈の内容ほぼ通じたりしますw 知り合いがあれで、ジリオンとかみてたのかな? ちょっと記憶あやふやですが、歳ばれませんかこれw
2020/03/04 07:09 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ