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鈴屋さんと大英雄っ!〈9〉

暑いです。

劇中も祭を行っていますが、これほどは暑くありません。(笑)

それでは英雄編9話、冷たいワンドリンク推奨でまったりとどうぞ。

 アプサラスの基本攻撃は、ゆっくりと手を持ち上げて無数の水の槍を作り出し、下ろすと同時に放たれる飛び道具の一斉掃射である。

 どこぞの金ぴか英雄王を彷彿させる攻撃だ。あっちの英雄王は、同等以上の一斉掃射で相殺する以外に勝ち目がなかったが、アプサラスの場合は攻略法がしっかりとある。

 手を上げたら物陰に隠れ、攻撃がやんだら一気に間合いを詰めるの繰り返しだ。

 つまり、テレポートダガーとの相性がいい敵なのだ。

 俺は片膝をついて、右手でニンジャ刀をズラリと抜き、ダガーを握る左手で刀身をなぞる。

「…絶界雷」

 術名に反応して、刀身に青白い稲妻がパリッと音を鳴らし迸る。

 水系の敵には、やはり雷バフが効果的だろう。

「ハチ子さん、こないだのアレを試そう」

 荷馬車に背を預け、エイム動作さながらに上半身をひねり、顔だけを出してアプサラスの様子を窺いながら、ダガーを投げる準備をする。

「了解しました、アーク殿」

 ハチ子もすぐに何のことか理解したのだろう。打てば響く、阿吽の信頼関係を実感する。

 再びアプサラスの攻撃音が鳴り響き、その音が止む。

 それを合図に荷馬車から体半分を乗り出し、アプサラスに向けてダガーを投げつけた。

「…トリガー」

 ハチ子が呟いた瞬間、その姿が消える。

 俺はそれを確認するとニンジャ刀を構えて、練習通りに頭の中でカウントをとっていく。

 ……3……2……1…

「トリガーっ!」

 今度は俺がそれを叫んだ。

 一瞬後、景色が差し替わる。

 そのあまりの変化に、脳が状況を把握できず、軽い目眩のようなものを覚えるが、すぐにそこがアプサラスの背後上空だと理解した。

 そしてアプサラスに対峙するハチ子の姿を確認する。

「カカ…成功♪ 成功♪ さすがハチ子さんだぜ♪」

 概ね、予想通りの展開だ。

 この連携、仕組み自体は簡単である。

 俺がダガーを投げてハチ子が転移をし、今度はハチ子がダガーを投げて俺が転移する。

 以前にハチ子とテレポートダガーでどんな連携がとれるのか、色々と試したときに浮かんだ戦術のうちの一つだ。

 本来テレポートダガーは、ゲーム内で「恋人契約」をした「プレイヤー同士」でしか使用できないはずなのだが、なぜかハチ子も使用できる。これについての理由は、未だにわからない。

 そもそも、だ。俺がゲーム内で「恋人契約」をしたのは、鈴屋さん唯一人である。

 さらに言えば、ハチ子はプレイヤーではなく“泡沫の夢”と呼ばれるNPC的な存在だ。使用条件は満たしていないし、満たせないはずなのだ。

 試しに鈴屋さんが投げると使用できたし、シメオネが投げた時は使用できなかった。

 そんなこともあって、ハチ子はプレイヤーなのでは…と考えたこともある。

 しかし時折見せる切ない表情が、それを否定していた。やはり彼女は“泡沫の夢”なのだろう。

「数え五斬!」

 と、叫んだのはハチ子だ。

 これまた、この世界の住人には使えないはずのニンジャスキルである。

 いわゆるスキル発動ではなく、見よう見まねでやっているのだから驚愕だ。さすがに術式は発動しないが、体術系のニンジャスキルは、いくつか無理矢理に習得している。

 青白い残像を残し放たれる五連撃は、幾重にも必殺の剣線を残し、アプサラスの身体を刻んでいく。

 もはや、必殺技レベルの火力だろう。

 ハチ子の猛攻に、アプサラスがたまらず手を振り上げる。

「させねぇよ!」

 俺はダガーとニンジャ刀を構えると、落下しながらも身体をコマのように回転させていく。

 そしてそのまま背後から襲いかかった。

イカヅチ落とし!」

 雷バフつきで颶風・回転斬りをすると、技の性質そのものが変化するという、複合スキルだ。

 ハチ子の強力な攻撃に気を取られていたアプサラスは、俺の不意打ちをまともに受け、脳天から腰まで稲妻を落とすように切り裂かれていく。

「リターン!」

 ハチ子がそう叫ぶと、俺の手元からダガーが消えた。

 俺は即座にトリガーを発動させ、ダガーを握るハチ子のもとへと転移する。

 これも緊急退避するために編み出した連携だ。

「カカカ、重畳、重畳〜♪」

 気持ちが良いほど連携がうまくいき、思わず上機嫌な俺に対し、ハチ子が顔を赤くして見上げてくる。

「あの…あーくどの…」

「どうした? もっと喜べよ。かなりすごい連携だったぜ?」

「あの…」

「……?」

 そこでやっと、なぜ彼女が戸惑っているのか、その理由に気づく。

 俺はテレポートダガーを握るハチ子の右手を、上からニギニギしていたのだ。

 不可抗力である。

 不可抗力である。

 大事なことなので、心の中で二度言い訳しておく。

 だって、ハチ子が握ってるダガーに転移したらそうなっちゃうからね!

「手ぐらい、いいだろ?」

 と、脳内で軽く混乱していた俺は、何故かあらぬ方向に向けて渾身のボケを口走ってしまった。

 ハチ子は驚いたように目を見開き、やがて小さく頷く。

「…はい…」

 えっと…ここは、「いいわけないじゃないですか!」ってツッコミがほしいのだが… 

「いや、あの、ハチ子さん。今のは俺の渾身のボケでして…」

「……?」

「いや、だから…えっとね」

 

“ナニシテルノカナー”


「うひゃぃ!」

 耳元にダイレクトで聞こえた馴染み深い女神の愛らしい声に、思わず奇声を上げて辺りを見回す。

 見てる、見てるのね、今も!

「あーくどの?」

「あ、いや、なんでもないです」

 そしてハチ子には聞こえていないのか。もはや無線回線だな。


“あー君、人が頑張ってるときに、アナタハナニシテルノカナー”


 再度、怒れる女神が棒読みで囁きかけてくる。

 俺は慌ててハチ子の手を離すと、冷や汗を垂らしながらコクコクと頷いた。

 ハチ子が少し不思議そうに見つめてきているが、今は説明できそうにない。

「トドメ、行ってきます!」

 俺はどこかで聞いているであろう鈴屋さんにそう叫ぶと、アプサラスに向けて駆け出した。

 遅れてハチ子もついてくるが、その出番はないだろう。

 なぜなら瀕死のアプサラスに、雷バフ付きの数え五斬を耐えきれるほどの生命力は残ってないはずだからだ。

「ひとつ!」

 叫びながら、横一文字に雷光の一筋を描く。

「ふたつ!」

 そのまま剣先を折り返し、再度横一文で切り崩す。

 アプサラスは、苦痛で身をよじらせるようにしながらも、ゆっくりと手を上げていく。

 その背後には無数の水の槍が生まれていた。

「みっつ! よっつ!」

 俺は構わずに袈裟斬りをし、さらにVの字を描きながら斬り上げる。

 削りきれるのか、そのタイミングはギリギリだ。しかし、いくしかない!

「いつつ!」

 数え五斬の最後の一撃、体を回転させながらの斬り下ろしが、見事、アプサラスの体を両断していく。

 しかしアプサラスの手も振り下ろされる。

「させません!」

 それとほぼ同時にハチ子が目の前に飛び込んで来て、剣閃で結界を作り出す。

 本当に惚れ惚れする連携だ。

 ハチ子のおかげで水の槍は、バチバチバチッと大きな音を鳴らしながら弾けて消えていった。

 そして力尽きたアプサラスは、そのまま精霊界へと送還されてしまった。

 俺は小さくガッツポーズをすると、頭を横に振りながら被害状況を確認していく。


“あー君、4時の方角に70メートル!”


 考えていることをいち早く理解してくれている鈴屋さんもまた、流石である。

 頼もしき司令官の指示に従い振り向いてみると、バリスタの周りでドワーフたちが騒いでいる様子が見えた。 

「どうした!」

 俺の問いに対し、赤ひげのドワーフがバリスタをバンバンと叩きながら声を荒げる。 

「どうしたもこうしたもないわい! バリスタ3号と5号がさっきの攻撃でこのザマじゃわい!」

 見れば、巨大なバリスタが無残に破壊されていた。

 使役された精霊が自分の意志で狙うはずがない。十中八九、ダライアスの指示だろう。

 だとしたらあの竜は、なかなかに厄介だ。

「今から修理は無理だ。馬は他のバリスタにつなぐぞ」

「それではロープの強度がもたんわいっ!」

 確かに、それでは負担が大きすぎるか……なら…

「予定より早いが、俺も戦闘に参加してダライアスを弱らせる。負担は減るはずだから、それでなんとかしてくれ!」

「はん、若造っ、どうなっても知らんぞ!」

 赤ひげのドワーフが半ばやけくそ気味に、バリスタの弓に繋がれていたロープを外し、馬を引き連れて移動し始める。

「アーク殿…」

「大丈夫、想定内さ。出たとこ勝負だが、一応の策はある。やるぞ、ハチ子さん!」

 俺は気合を入れ直し、ハチ子に作戦を説明し始めた。

【今回の注釈】


・どこぞの金ぴか英雄王………Fateのギルガメッシュです。ギルといえば関智一様で、シュタゲではダルを、エヴァではトウジを、PSYCHO-PASSでは狡噛を、昭和元禄落語心中では与太郎で落語まで披露した、まさに七変化声優。

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