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鈴屋さんと大英雄っ!〈6〉

そういえば月魔術師が一人も出ていないことに気づき、ここにきての登場です。

簡単な説明などはラジナニででも…

それでは最後の決戦準備、息抜きのついでにでもどうぞ。

 決戦前日の昼下がり、準備は着々と進められていた。

 レーナの港に停泊している商船や漁船では、出来る限りの補強作業が今も行われている。

 この辺りは騎士団の働きが大きい。レーナの領主も、相手が『騎士英雄』ならば、全力でサポートをしてくれるのだろう。

 そういった面では、エメリッヒも役には立っているようだ。


 一方、ドブ侯爵も目覚ましい活躍を見せている。

 さすがはドワーフ侯爵、その顔の広さは本物だ。

 何せ、かの有名な『ガガン鉱山』のドワーフ王『ガラローク7世』の力を借りて、武具やバリスタ、樽爆弾の製作を手配しているのだから、これにはレーナ領主や『騎士英雄』も驚きだろう。

 火薬の確保に限界があるものの、こちらは明日の昼には届くことになるだろう。


 そんな中、俺たちにできることといえば、現地で下見をしながらの作戦概要をチェックすることぐらいだった。

 正直、地上決戦組の俺達は出たとこ勝負なところがある。

 ある程度のシナリオはあるが、その場で臨機応変に変えていかないといけないだろう。

 あの『騎士英雄』様にそんな能力はないと思うが、シェリーさんなら期待できそうだ。


 また地上戦での要であるシメオネとラスターは、ハチ子や窮鼠の傭兵団団長とともに、連携の取り方を話し合っている。猫と鼠の共同戦線に一抹の不安はあるが、ハチ子が一緒ならば、きっとなんとかしてくれるだろう。

 鈴屋さんとシェリーさんは相変わらず騎士団に引っ張り出されている。正直に、おもしろくない、だ。


 そしてあまった俺は、ひとり呑気に港を歩きながら、何となく作戦の流れを思い浮かべていた。

 頭の中では、昔やりこんだオンラインアクションRPG『モンスターバスター』の水竜戦の立ち回りを参考にしていた。

 実際には全く別物でも、ある程度の心構えにはなるだろう。

 黒竜との戦闘でも、そこまで的はずれな動きをしていなかったしな。

 そんな最中だった。

 不意に俺の名前を呼ばれた気がした。


「アーク……さま」

 それは、今にも消え入りそうな若い女性の声だった。

 返事をすることもなく、顔だけを向ける。

 そこには深い紺色のローブに身を包んだ、小柄な月魔術師がいた。自分の身長よりも高い樫の木の杖を、両手で大事そうに握っているのが妙に印象的だ。

 いかにも絵本で出てきそうな魔術師らしい三角帽を目深に被っていて、その表情がまったく読み取れない。

「えっと…?」

 しかし月魔術師は、より一層、顔をうつむかせて動かない。

 もし他人にこれだけ説明すると「いかにも陰鬱な魔術師の風体だ」と言われてしまうのだろうが、次の一文を付け加えると、その印象は大きく覆るだろう。

 彼女の帽子からは美しい金色の髪が、腰まで真っ直ぐに伸びていた。

 ただそれだけで華が生まれるのだから不思議だ。

 ストレートロングは手入れが大変なの、という鈴屋さんの口癖が頭によぎる。

 なるほど、きっとこれは日々の努力の賜物なのだろう。


「君は?」

「導師のラナ……です。二度ほど……話をしてます」

 そこで鈍い俺でもようやく気付いた。

 作戦会議の時に見かけた、印象の薄い月魔術師の娘だ。

「あぁ~覚えてるよ。というかさ、そんなに顔隠してちゃわかんないぜ?」

「こ、これは……私、極度の対人恐怖症だから……で」

 おぉぅ、恥ずかしがり屋さんか。

 そう言えば会議の時も、そんな感じだったな。

「そうか。まぁ、俺なんかに気を遣う要素なんてないから。呼び名だって、アークでいいし」

 ラナが、そんなっ……と可愛らしい声を上げる。


 ……初々しい、嗚呼初々しい……初々しい……


「アークさまは、碧の月亭でも有名な冒険者様です……あの『赤の疾風』様と、こうして話していることが不思議なくらいで……」

「やめて、ほんとにその呼び名は恥ずかしい。俺なんて普通のありふれた、どこにでもいる無名の冒険者だよ」

「アークさまは……風よりも速く敵を瞬殺する……隻眼の魔法剣士として有名……なんですよ?」

 大袈裟なと笑い飛ばす。

 というか、俺は魔法剣士にカテゴライズされているのか。

 間違ってはいないが剣士ではないよなぁ。


「あの……」

 ラナが、初めて顔を上げる。

 この世界でも稀にみる、整った顔立ちの美少女がそこにいた。

 かすかに潤んだ琥珀色の瞳が、神秘的な輝きを放っている。

 あと何年かすれば、鈴屋さんすら脅かしかねない逸材だ。

 なぜに俺は『碧の月亭』で、この娘の存在に気づけなかったのだろう……と一瞬考えるが、こうして帽子で顔を隠し存在感も消していたのだ。

黒子に徹していた彼女に、気づけるはずもない。


「作戦……私は何をすればいいのですか?」

「ああっと、キミの冒険者グループは?」

 ラナが三角帽子の唾を右手でつまんで、再び表情を隠す。

「お恥ずかしい話なのですが……他の町に逃げてしまいました」

 それは、今にも消えてしまいそうな小さな声だった。

「えっ……キミは置いてかれたの?」

「私には学院がありますので……そもそもレーナの学院の導師ですし、簡単に離れるわけにも」


 それで、たった一人であの会議に参加していたのか……この引っ込み思案で、気の弱い女の子がたった一人だけで。

 この子は、どれほど心細い思いをしていたのだろう。

 そう考えると、胸の内がひどく熱くなっていった。


「そうか。じゃあ、俺のパーティにくるか? 今後の事はともかく、今回だけでもさ」

「そんな! 私みたいな根暗な月魔術士が、アークさまみたいな華やかなパーティに入るなんて!」

 思わず吹き出してしまう。

 俺はいったい、どうんな風に見られているんだ。

「華やかって、そんなんじゃないから。何なら俺、弱いしね。キミより絶対弱いしね」

 しかしラナは、三角帽子をブルンブルンとふって否定する。

「どちらにしろ、月魔術師がソロなんて無理だろ? 俺も鈴屋さんがいなくて困ってたところだし……とりあえず、な?」

「でも……」

 ラナは何か呟いて、しばらく大きな杖で地面をコツンコツンと叩いていたが、やがてわずかに頷いてみせた。

 こうして俺は、この作戦の最期の切り札を手に入れ、決戦の夜を迎えたのだ。

次回より決戦日の夜となります。

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