鈴屋さんと大英雄っ!〈5〉
英雄編の5話目になります。
英雄編は少し長そうな話になりそうですが、そろそろ準備と作戦立案は終わりです。
ワンドリンク推奨、楽しんでもらえれば幸いです。
その日の夜には、鈴屋さんとシェリーさんは碧の月亭にもどってきた。
そして今この酒場は、これまで見たこともない活気で賑わっている。
何せ『窮鼠の傭兵団』の第一部隊長『赤帯のドレイク』、第二部隊長『黒目のレディアン』、第三部隊長『白毛のアルフィー』、第四部隊長『灰色のジュリー』、そして総大将『傭兵王のシェリー』と勢揃いしているのだ。
ちなみに我らが円卓には、鈴屋さん、ハチ子、アルフィー、シェリーさん、シメオネ、ラスターと、この町の冒険者&傭兵団の主戦力とも呼べる強者が並んでいる。
自然と酒場中の視線を集める形となったのは、当然のことだろう。
「で、どうすんだい、ロメオ」
シェリーさんがタバコを吹かしながら、天を仰ぐようにして真っ白な煙を吹き出す。
「そうだな。じゃあ結果報告も兼ねて、みんな聞いてくれ。俺達の考えた作戦は騎士団に伝えて、まずは受け入れられた」
俺はドブ侯爵にタル爆弾をどれくらい用意できるか相談したあと、騎士団にその話を持っていったことを完結に説明した。
タル爆弾作戦は概ね好意的に受け入れられたが、さすがの騎士団も火薬の手配までは出来ないようで、その辺は俺任せとなっている。
つまり、ドブ侯爵任せだ。
「ある程度の船と爆弾は、侯爵が用意してくれる。資金は騎士団……というか国持ちだし、気兼ねなく使わせてもらえると思う」
「あーちゃん、顔が広いんねぇ」
木製のテーブルに肘をつき、頬に手を当てながらアルフィーが目を細めてくる。
その表情は、どこか誇らしげに見える。
「いや、全部侯爵に丸投げだしな」
「でもね、あー君が動かなかったら、あの作戦やばかったんだよ。だってあの騎士英雄様は、バリスタも、鋼鉄のロープも、船だって用意できるかどうか怪しかったんだもん」
「作戦をたてるだけで、実行するためのパイプがないんじゃ仕方がないねぇ。よくやったよ、ロメオ」
「それ全部、侯爵のコネなんだけどね。とりあえず侯爵がドワーフたちに呼びかけて、決戦まで寝ずの作業で、できる限り用意してくれるらしい」
「それは……大変ですね」
「いやいや、ハチ子さん。ちゃんと国からお金をもらえるし、それはそれで特需になるし、本人たちも喜んでいたよ。戦争すると儲かる人がいるってやつさ」
そこまで話すと、シェリーさんが大きく頷いてみせた。
武器商人はともかく、傭兵なんてまさにそれだしな。
「あとは爆弾を使うタイミングと、俺達の頑張りにかかってくるんだと思う」
「そこで寝てるバカ猫が最大火力なん?」
アルフィーが、シメオネの頭をつんつんと突っつく。
シメオネには、こういった難しい話は子守唄になってしまうのだろう。
何も発言することなく寝息を立てていた。
ちなみにシメオネとアルフィーはこれが初顔合わせで、猫とネズミという間柄からか妙な緊張感がある。
「そうだね。妹はバカだが、ここの誰よりも強力な一撃を放てるだろうね」
そう言ってラスターが冷徹な視線を送ると、アルフィーは不敵な笑みでそれに応えていた。
ここの関係性は要注意が必要だな。
「実際には鈴屋さんのほうが火力は高いだろうし、ハチ子さんやシェリーさんも相当なものだろう。あとは……この場で一番の月魔法の使い手は誰だ?」
などと聞いてはみたものの「それは私だ!」と答えられる自信過剰な人間はいないようで、水を打ったように静まり返ってしまった。
しかし、しばらくすると何人かに指を差されて、怖ず怖ずと小さく手を挙げるものが現れた。
「一応……導師を名乗る資格は持ってます……」
金色の髪をした月魔術師の少女が小声で言う。
よく見たら、昼間も発言してくれた女の子だ。
「えっと、名前を聞いてもいいかな?」
少女は顔を赤くしながら、腰まで伸びた長い金髪の毛先をつまんでいじりながら「ラナ」とだけ答えた。
「ラナさんは、どの辺まで月魔法は習得してるんだ?」
「最近習得したのは……ライトニングバインドと、ブリザードスピア……です」
ほうほう。
このゲームのルールで鑑みれば、けっこうな上級魔法で、十分すぎる火力だな。
「いいね。ぜひとも作戦に組み込もう」
ラナが深々とお辞儀をする。
なんとも可愛らしくて初々しい。
そして俺は、なんとなく円卓へと視線を泳がせる。
地形を変えてしまうほどの超決戦兵器に、元教団1位のアサシン、凄腕の傭兵王とその一団、そして爆裂破壊娘。
いやこうして見ると、なんて怖い女性たちなのだろう。
この中だと、間違いなく俺が最弱だ。
「んで、シェリーさんと鈴屋さんのほうはどうだったの?」
「騎士英雄様かい? いけ好かないねぇ」
「バリスタを撃って引きあげて、あー君たちをぶつけて、ある程度削ったら樽爆弾と私でとどめを刺すって感じかなぁ」
「カカカ……結局、地上戦はやらないのな」
乾いた笑い。
誰が見ても、安全地帯から手柄の総取りだ。
まぁ、英雄様が苦戦でもしてたら士気にも関わるし、大人しくしてもらったほうがいいのかもしれない。
それでも、この場にいる冒険者や傭兵たちには面白くない話だろう。
グレイなんぞは、思いっきり舌打ちをしている。
「なぁに、あいつの手柄のために死ぬ必要はないさ。やばかったらトンズラすればいい……が、ラット・シーの住人は盟約とやらがあるから、そうもいかないんだろう?」
シェリーがタバコを吹かしながら、黙って頭を縦にふる。
「んじゃ〜そん時は、体制を立て直して、また仕切り直すって名目で撤退だ。なるべく被害が出ないように、連携を取れる者同士でグループを作って、互いにサポートして戦おう」
「いいね。ロメオの言う通りだ。あたしらは、その考えに賛成だよ」
傭兵王のお墨が付けば、話も早い。
おかげで、異を唱える者など一人もいなかった。
「決戦は明後日の赤い満月の夜、準備は侯爵と騎士団がしてくれる。俺たちは互いの戦力と、決戦となる港の地形と、大討伐の作戦を頭に叩き込んでおくことが準備になるはずだ。できる限り万全を期していくぞ!」
おぉっと大きな賛同の声を受け、俺は密かに胸の高鳴りを抑えられないでいた。
大討伐まであと少し、次回、決戦前夜をお待ち下さい。




