鈴屋さんと大英雄っ!〈4〉
まだまだまだまだ準備段階です。
ラブコメ控えめですみません。
久々にあー君が活躍しそうな予感…
俺たちは、自分の生活拠点と思われるグループで集まり、その場で話し合いを始めていた。
面子のほとんどが碧の月亭でよくみる顔ぶれで、約十パーティ(総勢五十〜六十人)くらいはいるだろう。レーナにはこの規模の酒場がいくつもあるので、自然と酒場ごとにグループができているようだった。
残念ながらこの場に鈴屋さんはいないが、今はシェリーさんに任せるしかない。
エメリッヒが説明した『海竜ダライアス大討伐作戦』の概要は、非常にシンプルなものだ。
まず、赤い満月の夜に再び姿を現すであろうダライアスを迎え討つために、海上で挑むのはあまりに不利だと判断。
そこで、攻城戦等で使用するバリスタ(据え置き式の大型弩砲)を用意し、これをダライアスの胴体へと打ち込む。
矢には鉄線が編み込まれた強度の高いワイヤーが繋げられていて、それを何百頭もの農耕馬で引く。
ダライアスを港まで引きずりあげたのち、騎士団・傭兵団・冒険者部隊が連携して地上戦で討伐する。
ざっと言えば、こんなもんだ。
作戦自体は決して悪くはないとは思うが……
「……まさに決死の作戦ですね」
誰かが、そう呟いた。
そうだ。この作戦は確実性があまりに欠けている。
まず、地上戦に持ち込むことが可能かどうかがわからない。
そして、うまく地上戦に持ち込んだところで、アレと正面からまともに戦えるのか、という問題だ。
「地上戦に持ち込む考えは、悪くないと思う。ただ、その後が博打すぎるな」
俺の言葉に、概ね皆が同意する。
「どうせ、あたしら窮鼠の傭兵団と、冒険者グループに突進させて、騎士団は最後に美味しいところをもってく気ぃなんよ」
「アルフィーの言う通りです。あの騎士団……戦況によっては、我々を見捨てて撤退しかねませんね。どうしますか、アーク殿?」
そして、何故か俺に注目が集まる。
「どうする、と言われてもなぁ……」
「正直、碧の月亭で一番強いのはアークさんたちなんだ。なんでもいいから、アークさんの考えを聞かせてくれよ」
V系おちゃらけ剣士のグレイですら、真面目な表情でそんなことを聞いてくる。
俺の見解、ねぇ……と、頭をかきながら一考する。
「そうだな……俺の知り合いの中で、鈴屋さんを超える火力持ちはいないしなぁ」
「じゃぁやっぱり、鈴やん呼び戻すしかないん?」
「んあぁ……残念だけど鈴屋さんは、あの『騎士英雄』様のトドメの一撃要因だと思う」
英雄が英雄らしく、また一つ武勲を得るための保険だろう。
あわよくば鈴屋さんと、よろしくやろうという魂胆まで見え見えだ。
俺は一呼吸を置いて、もう一度よく考える。
必要とするものは、切り札と呼べる瞬間的な超火力だ。鈴屋さん以外で、それを生み出すにはどうすればいいのか。
「レーナの月魔術師ギルドに、メテオストライクを使える高レベルの魔導師はいないのか?」
メテオストライクは、月魔法の中でも最高の火力を誇る魔法だ。ファンタジーではお馴染みの隕石落としだが、この世界では月から石を召喚し、相手に叩き込むという設定になっている。その威力たるや、半径200mほどのクレーターを作るほどだ。瞬間的な火力ならこれを超えるものはないだろう。
「……それは、たぶん難しいかと思います。メテオストライクは最も高度な月魔法です……レーナの『学院』には、そのような高レベルの導師様いないです」
あまり話したことのない、金色の髪をした月魔術師の少女が怖ず怖ずと答える。
「王都の『学院』に要請しても、来てはくれない感じ?」
「おそらくは、自分の実験室から出てこないです。それに『導師様が率先して討伐に協力した』なんていう前例は、これまでにありませんし……」
そして、申し訳なさそうに頭を下げる。
「いや、君が謝ることじゃないよ。そうなると俺たちは、いよいよ無謀な削り要因になるね。どちらにしろ、火力が必要だな」
「だとすれば、シメオネは役に立つと思うね」
ラスターが目を閉じたまま、ポツリと言う。
「もちろん個人の戦闘能力で、最大の火力はシメオネだと俺も思う。俺たちは、シメオネを活かすような戦い方をしなくてはならない……が、それだけだと、たぶん被害がですぎる」
「……では、どうするんだい?」
「火力……しこたま火薬を用意するってのはどうだ?」
俺は頭の中で、昔遊んだアクションゲームを思い浮かべていた。
ゲーム内では持ち込み数に制限があったが、数を用意できれば、間違いなく最高の火力となるはずだ。
「火薬を詰め込んだ大樽をしこたま用意して、ぶつけるのさ」
「……しかし、そんなものどうやって揃える。あの『騎士英雄』ですら、調達は容易くないと思うけどね」
「俺の知り合いに、爵位持ちのドワーフがいるから聞いてみるよ。穴掘り種族は、石や火薬には詳しはずだからな」
おぉ……と、小さい歓声があがる。
魔法が駄目なら、近代戦闘の定石でもある火薬に頼るのが正しい判断だろう。
「じゃあ、樽爆弾がどれくらい用意できるのか確認をとって、騎士団に進言してくるよ」
俺はやれやれと立ち上がると、ドブ侯爵のもとへ行く準備を整え始める。
なんだか、あの人にちょくちょく頼ってるよな、俺。
「頼むぜ、リーダー?」
グレイのチャラい一言に、一瞬動きを止めて「やめてくれ」と眉を寄せた。
何を言い出すのだ、こいつは……
「私もアーク殿が適任だと思いますよ?」
そして、ハチ子まで変なことを言う。
「何、みんなして頷いてんだよ。損な役割を押し付けてるだけじゃねぇか、それ……」
「いやいやぁ〜、あーちゃんでいいんよ。あたしも……というか、うちの傭兵団も、あーちゃんがリーダーなら納得させられるん」
「……俺はもとより、君を手伝えと姉さんに言われてきている。指揮をとるのは君だ」
「なんだよそれ、まとめてめんどーだな……」
そして、大きめのため息をわざとらしくし……
「わかったよ。仮、だからな?」
そう言って俺は、このグループのリーダーという損な役回りを渋々承諾をすることになった。