表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
127/504

鈴屋さんと大英雄っ!〈3〉

英雄編、第3話です。

まだまだ討伐戦準備中です。

 エメリッヒの説明が一通り終わると、その場で大討伐参加者の名簿作りが始まった。

 俺と鈴屋さんも騎士団が用意した羊皮紙に名前と職種を書き込んでいると、案の定エメリッヒが横から口を出してくる。

「鈴屋……というのですね。珍しいが、実に凛とした良い名前だ」

 これほど堂々と公私混同で個人情報を盗み見するとは、ますます気に食わない奴だ。現実世界なら一発アウトだぞ、この野郎…と内心で悪態をつく。

「サモナーとは、また耳に馴染みのない職種ですね。エルフのご令嬢なだけあって、さぞや強力な精霊魔法を使うのでしょう」

「まぁな。鈴屋さんの召喚魔法は、月魔法で最高の攻撃魔法“メテオストライク”より強力だぜ」

「あー君、やめてよ……」

 エメリッヒから、冷たい視線が投げかけられてくる。完全に敵視されているようだ。

 しかし、それでも俺は「俺の方が鈴屋さんのことを知っている」という、ちっぽけなアドバンテージを見せたくて仕方がなかったのだ。

 ある種のマーキング行為である。

 しかしそれは、迂闊な一手だった。


「そうか、それはきっと大討伐作戦の要となるだろう。ぜひ私の部隊に入っていただき、私の側でこの作戦に従事してほしい」

「え……ちょっと、それは……それなら、あー君も一緒じゃないと困ります」

 おぉぅ、それ、ちょっと嬉しいデスね……って、そういう言葉の積み重ねで、俺はやられていくのだ。

「アーク? あぁ、このいかにも俗物な名前は、お前のことだったのか。ニンジャ……とはなんだ? 適当なことを書いておけば、重宝されるとでも思っているのか、お前は?」

 見事なまでに、侮蔑を込めた見下す視線だ。

 あぁ、まったくもって気に入らない。

 それでも、こいつが『英雄』としてもてはやされ、確固たる地位を築き上げている現状、ここで噛みつくわけにはいかない。それは、あまりに分が悪すぎるというものだろう。

 地位と権力を持つ者たちの前では、一介の冒険者である俺に太刀打するすべはないのだ。

 鈴屋さんとハチ子も、それを理解しているのだろう。

 グッと言葉を飲み込んで堪えているのが、その表情から読み取れる。

 しかし果敢にも、俺の名誉を守ろうとしてくれる人物が声を上げた。

 それは、白毛のアルフィー、その人だった。


「あんなぁ、あーちゃんたちは東方の出身なん。あんたが知らないだけで、めっぽう強いんよ。それになぁ、人の亭主候補を悪く言われるのは、あたし的には~ちぃとばかし我慢ならないんよ?」

 アルフィーが細くくびれた腰に手を当てて、鋭い眼光でエメリッヒを睨みつける。

 そしていつも通り、一言余計である。


「アーク、きみはシメオネを泣かせたいのかい?」

 ほらみろ……ラスターが、怖いお姉さまに言いつけるぞって顔をしているじゃないか。

 あの姉さまは、ほんとに怖いんだからな……


「とにかく、あーちゃんの強さは、この白毛のアルフィーが保証するん」

「白毛の……? あぁ、窮鼠の傭兵団で、女性だけの部隊を統率しているという。なるほど、そのような男を夫に選ぶとは、噂通り娼婦の類でもあるのかな?」


 あぁ……ちょっと、これは駄目だな……


「あんたなぁ」

 できるだけ声を押し殺す。

 俺の“冷静”は、それが精一杯だった。

「謝れよ。アルフィーたちは、そんなんじゃない」

 あーちゃん……と、アルフィーが見上げてくる。

 あの陽気で不敵で、ふてぶてしい白毛の戦士が、悔しそうに唇を少し噛んでいた。

 それだけで胸の内が、どんどんと熱くなっていくのがわかる。


「口を慎みたまえよ、冒険者風情が」

「こいつらは昨日の襲撃で、住処のほとんどが流されたんだぞ? もう少し配慮の一つでも見せたらどうだ。あんたは、誉れ高い『騎士英雄』様なんだろ?」

「だからなんだ。鼠は鼠らしく、我々の見えないところで暮らしていればいい。どうせ数を増やすことしか、能がないのだからな」


「てめぇっ!」

 刹那、脳内で熱い火花がカッと弾けた。

 そして次の瞬間、俺はエメリッヒの肩を強く掴んで、拳を振りかざしていた。

「ダメっ、あー君!」

 その拳を振り下ろす前に、鈴屋さんが腕にしがみついて止める。


「ふん、蛮族が」

「この野郎っ」

 さらに俺が詰め寄ろうとすると、今度はシェリーさんが俺の頭をはたきながら、間に割って入ってきた。

「頭を冷やしな、ロメオ」

 いつもの笑顔を向けるシェリーさんを見て、俺は初めて自分の愚行に気づいた。

 なぜなら今の俺の行動は、これほどの侮辱を受けても尚、笑顔を見せる歴戦の傭兵王の器に、泥を塗る事となるからだ。


「あなたが、窮鼠の傭兵団の団長さんですね。あなたの傭兵団は、主戦力のひとつです。向こうのテントまで来てくれますか?」

「あぁ、了解だよ」

 シェリーさんは、アフロ頭をバリバリと掻きながら大きなため息をすると、部下たちに待機命令を出していく。

 そして俺の耳元で「ありがとうよ、ロメオ」とだけ呟き、テントの方へと向かっていった。


「他の冒険者たちは伝達が迅速にとれるように、十人~三十人の規模でまとまりを作って、リーダーを決めていてくれ。大討伐に関する良案が浮かんだ場合は、いつでも相談してくれるといい」

 エメリッヒはそう告げると、鈴屋さんの前で胸に手を当てて軽く頭を下げる。

「あなたも、ぜひご同行していただきたい。この作戦の要として、ね?」

「わ、私は……」

 助けを求めるようにして俺の方を見る鈴屋さんに、しかし俺は先ほどのこともあり、一瞬、食って掛かることを躊躇してしまった。

 エメリッヒはその隙をついて鈴屋さんの手を握り、半ば強引にテントの方へと連れて行ってしまう。


「ちょ……」

「アーク殿!」

 遅れて追おうとする俺の服の袖を、ハチ子が控えめにつまんで止める。

 そして、無言で首を小さく横に振った。

「あーちゃん、大丈夫。あっちにはシェリーの姉御もついてるん」

 だけどよ……と呟くが、今度はアルフィーが首を振る。

「今は我慢の時間だかんね」

 そしてやはり、シェリーさんと同じように「ありがとうね」と耳元で呟くのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ