鈴屋さんとお祭っ!〈6〉
お待たせしました。
少々次の話を脳内で練っておりました。
書きたい内容がなんとなく決まったので、そこに向けて…と、その前にお祭の最後になります。
短いですが、どうぞ。
いくつかの出店で食べ物や飲み物を手早く買い揃えると、鈴屋さんのもとへと歩を急がせる。
しかし出店の雰囲気こそ祭の醍醐味でもあるだろうに……容姿が良すぎてまともに回れないというのも、ある種の不幸ではある。
そう言えば、ハチ子も路地裏で待っていた。
あれも、そういうことなのだろう。ハチ子もまた、放っておかれるような女性ではないはずだ。
屋根の上に戻ると、鈴屋さんはどこで用意したのか、キャンピングシートのようなものを広げ、ちょこんと女の子座りをして待っていた。
「おかいも〜」
エルフ美少女が見せる人懐っこい笑顔は、やはりパンチ力抜群だ。
今さらこの中身が男かもしれないと、考えること自体が困難極まりない。
それほどまでに鈴屋さんのネカマプレイは徹底していたし、極まっているのだ。
「ただいも〜」
いたって冷静に返してみるが、正直なところ、あまりに愛らしくて正視できないでいる俺がいた。
「なに買ってきたの?」
「んあぁっと……スティック野菜のディップソースと、コロコロ角切りステーキ、べったりチーズ焼きパンと、パインアップルの角切りと……それからホットミルク」
話しながらも次々とシートの上に並べていく。
屋台飯のフルコースである。
「いっぱい買ってきたね〜」
「素晴らしくバランスのいいチョイスだねって、褒めてくれてもいいと思うんダゼ?」
「どっちかって言うと、お洒落かよっ! って突っ込みを入れてみたいんダゼ?」
楽しそうに口元を抑えて、クスクスと吹き出す。
そして棒状に切られた野菜を、ディップソースにちょんちょんとつけて食べはじめた。
「んおぃしぃぃ〜〜〜」
右手で頬をつき、目を閉じながら、ふるふると頭を揺らせる。
……うん、女子だ。やはり、どっからどうみても可愛い女の子だ……
嫌味のない、狙いすぎていない自然な可愛さで溢れている。
女の子耐性のない俺みたいなモテナイ君は、ただただ見惚れてしまう。
「あー君も食べてみてよ」
「あ、うん。じゃあ……」
鈴屋さんに手渡されたスティック状の人参を、ディップソースにつけて口の中に放り込む。
たちまちサワークリームのさわやかな酸味とコクが、口の中いっぱいに広がっていった。
「これは美味いなっ」
「でしょ!」
そして心底嬉しそうな笑顔を見せる。
……うん、可愛い。普通にニヤニヤしちゃう……
ふと、ラミア戦の魅了魔法を思い出す。
あの時の俺は一瞬で自分の意識を支配され、その後は意識を失った状態で完全に操られていた。
鈴屋さんの場合、さっきの貴族のように一目惚れさせることもあれば、じっくりと時間をかけて相手を惚れさせてから、いいようにこき使ったりもする。
ただ、どちらもラミアの魅了魔法のような強制的な精神支配と違い、自分の意思で鈴屋さんに従ってしまうというところが重要だ。
普通に、自然に好きになってしまうのだ。
……さて俺は、どう判断すればいいのだろう……
南無さんに突きつけられたことは、「それでも、これまで通り好きと思えるのか否か」だ。
もっと生々しく言うのなら、今すぐ手をつないでラブラブできるのかってことである。
そんな俺の今更な葛藤を知ってか知らずか、鈴屋さんが心配そうな目をして覗き込んできた。
「あー君?」
ガラスのように綺麗なその水色の瞳には、戸惑う自分の姿が映っていた。
俺は考えを見透かされそうだと感じて、思わず目を逸らしてしまう。
「どうかしたの、あー君?」
「あぁ。鈴屋さんさ、元の世界に戻ったら何食べたい?」
深く考えずに出した、苦し紛れの質問だった。
しかし鈴屋さんは、珍しく言葉をつまらせる。
「な、なぁに、突然」
「いや、ここの飯も美味しいけどさ。やっぱり元の世界の料理も恋しくならないかなって」
「私はこの世界のほうが美味しいと思ってるケド……」
「でもさ、ハンバーガーみたいなジャンキーなのとかさ。俺なんかは、たまには蕎麦とかも食べたくなるんだよね」
そしてまた、一瞬だけ沈黙が生まれた。
「ん〜。もうこっちの生活が慣れちゃって……今は、ここのが好きかな」
「それはなんとなく、わかるかも」
……と、話を合わせてみるが、果たして本当にそんなものなのだろうか。
男子たるもの、カップ麺やポテチ、ハンバーガーやラーメンといったジャンキーな食べ物が恋しくなるはずだ。
やっぱり本当は女の子なのだろうか。
「あー君」
ん? ……と顔を向けると、鈴屋さんが真剣な面持ちで、まっすぐと見つめてきていた。
「鈴屋さん、顔が近いです。マジでドキドキするからヤメてクダサイ」
しかし彼女は離れようとしない。
何も言わずに、じっと見つめてくる。
「な、なに?」
「うん、やっぱり変」
「……なにが?」
「なんか、よそよそしいと言うか……あー君、私のこと避けてる?」
鋭すぎて返答に詰まり、ごくんと音を鳴らして唾を飲み込む。
「俺が? なんで?」
「なんとなく、だけどね」
なんとなくで当ててしまえるのは女の勘だが……しかし女子力が高いネカマであるならば、或いはそれもあり得るのだろうか。
「もしもあー君が、私よりハチ子さんがいいと思ってるんだったら……」
「ちょ、ちょっと、待った。話が飛躍してるって! 俺は鈴屋さん一筋だぞ」
そう言いながらも、俺は頭の中で「本当にそれでいいのか」と、自問してしまう。
鈴屋さんは、そんな俺の一瞬の葛藤を読み取ったのだろう。
それはそれは悲しそうな、胸がきゅっと締まるような切ない表情で、目を細めては寂しげに笑うのだった。
「私はね、あー君が……」
鈴屋さんが表情に影を落としつつ、何か思いつめた言葉を告げようとした、その時だった。
突然、ドンッっと海の方向から、重く大きな音が聞こえてきたのだ。
「何だっ!?」
大砲でも打ち込まれたのかと思えるほどの大きな音に、俺は思わず跳ねるようにして立ち上がり、海の方に目を移す。
そこには尋常ではない大きな水柱が、真っ直ぐと空に向かって伸び、消えていく様子が見えた。
次回からは、そりゃあんなフラグ立ったら、出てきますよねって話です。




