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鈴屋さんとお祭っ!〈5〉

鈴屋さんのパートです。

鈴屋さんは2回に分けることにしました。

少し短めですが、ワンドリンク片手にどうぞ。


「遅いよ、あー君!」

 そう言って目の前で可愛らしい『ぷんすこアクション』を披露しているのは、鈴屋さんで間違いない。

「なにしてたの?」

 何をしていたのかと問われれば、知っているはずだろうよ、と返したくなるのものだが、間違ってもそんなことは言わない。ここは、知らないふりが正解だろう。


「アルフィーの用事を済ませてきて……途中でハチ子さんとばったり会って……で、ちょっと出店を見てたんだ。ごめんね」

「まぁいいけど……」

 鈴屋さんが、不満ありありの表情を浮かべたまま隣に並んでくる。

 それにしても浴衣のエルフ少女という、ファンタジーここに極まれりなコラボが大変麗しい。

 こうも容易く通行人の熱い眼差しを一手に引き受けてしまえるのだから、流石としか言いようがない。

「いつもにも増して、すごい注目度だね。ちょっとしたアイドルみたい」

 しかし当の本人はそれほど嬉しくないのか、肩をすくめる素振りを見せながら、少し硬い笑顔をつくる。


 そうこうしていると、いかにも貴族の坊やといった風体の男が鈴屋さんの目の前で片膝をつき、高らかに声を上げ始めた。

「これはこれは、麗しきエルフ族のご令嬢。ぜひとも、このセルヴィス卿エメリッヒの賓客として、私の屋敷に迎えさせてくれまいか」

「……うわぁ、くれまいか、ときたよ」

 しかしエメリッヒは俺の悪態など気にもとめず、どこからともなく高そうな指輪を取り出し、それを鈴屋さんの手に握らせる。

 いつでもプレゼントできるように、ストックでもしてあるのだろうか。

 とりあえず、いけ好かないのは確かだ。

 しかし、こういう時の俺は相変わらず空気のようだ。もしかして、本当に俺のこと見えてない的なやつじゃないだろうな。映画やアニメで、そんなのあったなぁと思い出す。


「これは、お近づきの印に」

「ありがとうございます。でも先約がありますので……」

「おぉ、麗しき君と共に過ごせるとは、なんとも羨ましい限り。その者が本当に、あなたに相応しいお相手であればよいのですが」

 ぴくんと鈴屋さんの長い耳が動く。

「とにかく、そういうことですので、これは受け取れません」

「いやいや、このセルヴィス卿エメリッヒ、一度女性にプレゼントしたものを手元に戻すような真似はできませんよ」

 エメリッヒは鼻につく気障な笑顔を見せると、胸に手を当てて大げさに頭を垂れる。まるでオペラや演劇のワンシーンでも見ているようだが、俺に言わせれば喜劇そのものだ。生で見るとこれほど痛々しいものはない。


「気が向いたら私の屋敷へ遊びに来てください。その指輪を見せれば賓客として迎え入れるように、話しは通しておきますよ」 

 そう言うと、エメリッヒは俺に一瞥をくれて人混みの中に消えていった。

 最後の視線はまるで虫でも見るような目つきだ。一応空気ではなく、おじゃま虫程度には認識してくれていたようだ。

 鈴屋さんは律儀にも、その姿が見えなくなるまで小さく手を振ると、最後にため息をひとつついた。

 なんというか、営業お疲れ様です……と肩をすくめてみせる。


「今日、あれで何人目なの?」

「わかんないけど、五十人くらいはきたと思う」

「そのわりに手ぶらじゃん? プレゼントも全部、断ってたの?」

「うん、そうなんだけど……花束とかね、高価な宝石とか、魔法の品とか、こんなところで渡されても困るって言ったら、みんな冒険者ギルドに預けてくるって言って聞かないの」

「うはぁ、それってネカマプレイで最高! ってやつじゃないスか」

「あー君、本気で言ってるの?」

「……すみません、冗談です」

 よほど心外だったのだろうか、ちょっとムッとしているようにも見える。

 昔なら「えへへ、そうでしょ? あとで山分けしようね!」とか言ってくれたものだが、心境の変化なのだろうか。そう言えば、最近はあまりネカマ恩恵プレイをしていないような気もする。

 そんな素振りを見せられると、“中身は女なんだけど、それを言えない理由があるの。察してよね?”と言われているように感じてしまう。

 とは言え、察することを求められている以上は直球で聞けないし、少し前のように女だと決めつけてしまうのもまた、問題の先送りとなるだろう。

 正直、暗礁に乗り上げた気分だ。


「あー君?」

「……んん? あぁ……いや、何でもないよ。それよりさ、 なんか食べる?」

「ん〜〜」

 鈴屋さんは答える代わりに、可愛らしく唸りながら屋根の上へと視線をおくる。

 あぁ、なるほど。

 このまま通りを歩けば、また見知らぬ輩に口説かれることとなる。流石にそれは、辟易としているのだろう。


「了解〜。んじゃ、失礼するよ」

 俺は優しく笑顔を見せると彼女の細い腰に手を回し、テレポートダガーを屋根上に向けて投げつけた。

 トリガーの言葉とともに景色が切り替わり、軽やかに屋根の上に着地する。

「ありがと、あー君」

「どういたしまして。なんか適当に買ってくるから待ってて」

 俺はそう言って、再び眼下の通りへと身を翻した。

【今回の注釈】

・俺のこと見えてない的な映画やアニメ………シックスセンスや青豚ですね

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