表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
120/504

鈴屋さんとお祭っ!〈4〉

連休中にいっぱい書くつもりが、いっぱい休んでしまいました。(笑)

せめて連休明けに、ウルトラライトな鈴屋さんをどうぞ。

 ラット・シーの出店は、主に街の南側に集中していた。

 俺はアルフィーを出店エリアまで送り届けると、鈴屋さんたちが待っているであろう港の方へと足早に向かう。

 しかし、この人混みときたらどうだ。屋根の上を移動したほうが、よほど快適だろう。

 そんな喧騒と人の流れをかき分け、うねりに飲み込まれないようにしながら、やっとの思いで路地裏へと抜け出す。

 そこには、まるで俺が来ることをわかっていたかのように、暗い紺色の髪をした女性が待っていた。

 凛とした表情に、美しい蝶の絵が描かれた浴衣がよく似合う。

 もう、どう見ても日本人にしか見えない。


「アーク殿」

 路地裏の壁に背を預け、ひとり寂しそうに待っていたハチ子が、甘えるような表情を見せて瞳を潤わせていく。

「一人でどうしたの? 鈴屋さんは?」

 鈴屋さん達と待ち合わせていたのは、港の通りにあるお店のはずだ。

 わざわざ迎えに来たのだろうかと、首をかしげてみる。

「いえ、ここは私の番なので」

「番? 番ってなんの?」

 さっぱり言葉の意図が読み取れず、思わず聞き返してしまう。

「あのですね……先日、鈴屋から提案がありまして……アーク殿は、きっとみなで一緒に行動をするだろうと……」

「あぁ、うん。まぁ、そのつもりだったけど」

「それで鈴屋がですね、アルフィーと、私と、鈴屋の順で、二人きりになれる時間をつくらないかと、提案をしてきたのです」

 こちらの様子を窺っているのか、言葉を選ぶように区切りながら話してくる。

 どうやら俺には最初から「みんなと仲良く過ごす」なんていう、ヘタレな選択肢はなかったようだ。

 しかも修羅場回避ルートまで確保しておいてくれるなんて……できた女房ですか、鈴屋さん。


「えっと……じゃあ、さっきのは最初からアルフィーと二人きりになる予定だったってこと?」

「はい。騙しているようで心苦しかったのですが、捜し物を理由にアルフィーの部屋へ行くというシナリオでした」

 なんだよ、マジかよ、すっかり騙されたぞ、俺は。

 どうりで、お目当ての羊皮紙がなかなか見つからないはずだ。

 最初から探す気なんてなかったんだからな。


「……怒っていますか?」

 いくらか罪悪感を感じているのだろう。やや沈んだ顔つきになっている。

 この三人の中で、おそらく君が一番真面目ですよ、ハチ子さん。

「んにゃ、全然怒ってないよ。怒る要素なんてないし」

「だとよいのですが……あの……アーク殿」

 ハチ子が言いづらそうに視線をそらす。

「何もされませんでしたか?」

「なに?」

 思わず聞き返す。

 何かされ……そうか、アルフィーにってことか。

「いや、何をされるって言うんだよ?」

「仮にも女性の部屋で二人きり……しかも、あのアルフィーと……」

 ハチ子は複雑な表情を浮かべて、真剣な眼差しを向けてくる。

 俺はむしろ、あのアルフィー相手に何を心配するというのか問いたい気分だ。


「そんなもん、何もあるわけないだろ?」

 そして苦笑する。

 いやほんと、心配性のハチ子らしい杞憂ってやつだ。

「しかしアルフィーは、とても積極的です」

「たしかにそうだけどよ……俺からすれば、ハチ子さんもけっこう積極的だと思うぜ?」

「わっ、私はそんなこと!」

「いやでもさ、ほら、昔はよく俺の腕にしがみついてきたりしてなかったっけ?」

「それは任務半分ですっ! 今はそんなことできませんっ!」

 えらい剣幕で真っ赤になって否定する浴衣美人に、俺は萌えずにはいられない。

 そう言われてみれば、たしかに最近はべたべたしてこなくなった気がする。

「なんで前はできたのに、今はできないの?」

「それは……」

 そして、なぜかすごく残念そうに溜め息をひとつ。

 アレだ。鈴屋さんがよくする、呆れてるってやつだ。

「えぇっと、もしかして女心ってやつ?」

「……もう、いいです」

 ハチ子は項垂れながら首を小さく横に振り、するりと腕を絡ませてくる。

 一方の俺はというと、ハチ子の言葉と行動に繋がりが感じられず、混乱するばかりだった。

「あぁ~、ハチ子さん?」

「アーク殿、できれば何も聞かないでください」

 そう言われてしまうと、本当に何も聞けない。

 もしかしたら本当にグレイのほうが、女心を理解しているのではと思ってしまう。


「せっかくだし、出店でも見ていくか?」

「はい、ぜひに……」

 そして今度は、どこか嬉しそうだ。

 本人が嬉しいのならいいことなのだろうと、半ば無理やりに自分を納得させて、再び出店のある通りにもどる。

 しかし通りは先ほどよりも人混みが増していて、最早この流れに身をゆだねるしか移動する術がなさそうだった。

 例えるならそれは、通勤ラッシュの山手線だ。

「ひでぇな、こりゃ。ハチ子さん、大丈夫?」

 ハチ子はしっかりと腕にしがみつきながらも、俺の胸に顔を埋める形となっていた。

 そして呼吸をするために、ぐいぐいと額を押し当てながら上へ上へと移動し、ぷはっと顔をあげてくる。

「……ふぁっ、息が……あぁく、どの……足が……」

「足?」

「足が、地面についてないんです」

 つまりサンドイッチ状態で浮いてしまっているのだろう。

「あぁ~満員電車あるあるだね」

「なんですか、それは……」

 そう言いながらも、さらに体をぐいぐいと動かしながら這い上がってくる。

 もう立つことを、あきらめたのだろう。

 そして……


「あのぅ。ハチ子さん?」

「…………」


 ハチ子は腕を組むこともあきらめ、代わりに俺の首へと両手をまわしてきたのだ。

 今や密着度は二百パーセントである。

「もんのすごぃ情熱的な抱擁でして……ところにより鼻血の雨が降るでひょぅ」

「き、緊急事態ですっ!」

「さっき、今はもうできないって言ってなかった?」

「緊急事態なんですって!」

 そんな苺よりも真っ赤になって言われると、やべぇ可愛いッスしか浮かばないじゃないか、やべぇ可愛いッス!

「恥ずかしすぎてシニタイ……」

 とどめのような可愛いつぶやきに、俺は気持ちまでも流されてしまいそうだった。

次回は鈴屋さんの番ですね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ