表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
118/504

鈴屋さんとお祭っ!〈2〉

あまり進みませんでしたが更新です。

お祭まで後すこし。

 海竜祭まであと二十日と迫った昼下がり、俺は自室の椅子にドカッと座り、腕を組んで扉の方を凝視していた。

 その眼差しはさながら、これからアイドルのオーディションを行う審査員のごとく真剣そのものだ。


 ……オーライ、クールにいこう……


 もはや、どこかで読んだ漫画の台詞による自己暗示だが、精神抵抗を上げるバフの効果があると信じたい。

 心の奥底は冷静に凪を保っている。それもこれも、これから起こるイベントに備えての事だ。

 そうして待っていると、やがて扉がコンコンとノックされた。

「あー君、いるの?」


 さぁきたぞ、試練の時だ。

 俺は決して同じ轍は踏まない。あの時と同じ過ちは繰り返さない。

 すぅ、と呼吸を一度大きく吸いこんで、ゆっくりと肺から送り出す。

 そして、できるだけ肩の力を抜いて自然に答えてみせた。


「いるよ〜」

 すると木製の扉が、ガチャリと小さな音をたて、ゆっくりと開かれていった。

 最初におずおずと入ってきたのは、ハチ子だった。どうやら、鈴屋さんに背中を押されているらしい。

 いや、それよりも、だ。問題はそんなことではない。

 俺はその姿を見て、思わず感嘆の溜め息をもらしてしまっていた。


「おぉ……いぃ……」

「ふぁっ!? ……そんな……」 

 ハチ子が僅かに頬を赤らめて視線をそらす。

 いやしかし、いいものはいいのだ。

 なぜならそこには、黒い生地に美しい蝶の絵が描かれた、浴衣姿のハチ子が立っているのだから。

 まさに大和撫子という言葉が相応しい、素敵が具現化したかのような存在だ。


「ハチ子さんが作ったの?」

「はい、一応さいしょの一着は……その後は、ラット・シーにお任せしてまして、これは試作中のものです」

 着物や浴衣が存在しない、この世界の住人であるハチ子には、どこか気恥ずかしいものなのかもしれない。

 それでも、これだけの物が作れるのだ。

 もし現実世界にハチ子がいれば、ファッションデザイナーにでもなってたんじゃなかろうか。


「さすがは、ラット・シー製だなぁ……すごい完成度。ハチ子さん、もしかして知らない文化の服は恥ずかしい?」

「多少の戸惑いはありますが……これ、浴衣でしたか? とても美しくて、好ましいです」

「うん、よく似合ってるね」

 凛とした美しさのあるハチ子が、少しはにかんで見せた。

 もう立派な和美人だ。


 そしてその背後から、ちらちらと様子をうかがうように現れたのは鈴屋さんである。

 鈴屋さんは水色の髪を、それ自分でやったの? とツッコミを入れたくなるような複雑な巻き方で結い、白地に朝顔の花の絵が入った爽やかな浴衣に身を包んでいた。


「……どう……かな?」

 少し視線をそらし、白く細い指先でうなじに触れる。

 正直、それはもう言葉にならない美しさだ。

 清楚可憐、純粋無垢、颯爽とし、気品すら感じる完璧な存在。女性の美ってぇのは決して露出度に比例するわけではないのだと、あらためて実感させられる。

「あー君?」

「や……え……っと……素敵です」

「ありがと……」

 たちまち鈴屋さんも、頬を朱に染めあげる。

 そして、どうやら俺は本当にやられているようだ。正直、胸の高鳴りが収まりそうにない。

 もう一度、問いたい。君は本当にネカマなんだよね、と。


「すごいね、もう完璧に浴衣だよ。あんないい加減な設計図で、よく作れたな」

「一応、私が細かく説明したからね」

「そうだったのか。すごいな、鈴屋さん。そんな知識、どこで仕入れるんだよ」

「浴衣って可愛いから、どうやって着るのかなとか、前に色々調べたことがあるの」

 どれほど勉強家なのだ。

 その女子力の高さが努力の賜物だと思うと、涙ぐましいものがある。


「あーちゃん、あたしも入っていい?」

「あぁ〜なんだ、アルフィーも着たのかよ。正直、もうお腹いっぱいで今さらアルフィーの……どぅぇえい!?」

 まったく期待する要素のない相手に、ちくしょう、俺の凪はあえなく崩された!

「あはぁん、あーちゃん、わかりやすすぎぃ〜」

 いや、それは本当にごもっともで、返す言葉もない。

 というか、言い訳させてほしい。

 こいつの浴衣は、完全邪道な方向へのアレンジだ。そのセンスには驚嘆に値する。


「ほれ〜感想ぅ言ってみ? ねぇ、言ってみぃよぅ?」

 こいつ、完全に俺のスケベ心を熟知してやがる。

 アルフィーの浴衣姿はまさに邪道そのもの。

 白い浴衣の下半身部分はミニスカートのように短く、惜しげもなく、その白い脚線をあらわにしている。

 上は上で、メロンがはだけそうなほどゆるく着崩していて、両肩が完全に出てしまっていた。


「なぁなぁ、どうなん? どうなんよぅ〜?」

「お前は、なにか。俺の恥ずかしいフェチを、白日のもとに晒したいのか?」

「んふぅ〜あたしだってね、あーちゃんの視線の先ぐらい追いかけてるんよ」

 やだ、なにそれ、ちょっと嬉しい。こいつほんとに何者なの。


「あー君、いま、今日いちで喜んでた……」

「アーク殿……それは、あんまりです。それならそうと言ってもらえれば、私だって……」

 言って、ダガーで浴衣を切ろうとする。

「ちょ、待て待て、ハチ子さん、切らないでいいから!」

「今さらおそいん。今回はあたしが一番、あーちゃんを喜ばせたかんね〜」

 それを即座に否定できない俺に対し、鈴屋さんとハチ子の追撃が行われたのは言うまでもない。



挿絵(By みてみん)

次回はお祭です。

大変なことが…


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ