鈴屋さんとお祭っ!〈1〉
桜が咲いてます。
サクラ大戦が出るそうで。あぁ女神様からブリーチの漫画家さんにキャラデザ変わるそうでちょい気になってます。
そんな中、作中は初夏っぽい雰囲気で…お祭りでございます。
ワンドリンク片手に、どうぞ。
「よぅ~、あぁぁぁくさんよぅ?」
朝から我らが円卓に無礼極まりない態度で絡んできたのは、イケメン風金髪冒険者のグレイだ。
本当はチンピラ風と言いたいところだが、この馬鹿も今や中堅冒険者となり“イケメン剣士”として、一部のマニアックなファンにもてはやされているらしい。
あぁ、そうだとも。俺よりこいつのがモテてるんだ、こんちくしょう。
「おぉぃぃ、あぁくさんってばよぅぅ」
「んだよ………相変わらず馴れ馴れしいな、お前」
「ちょ、なんか冷たくないか、アークさん。鈴屋さんも、そう思わないかい?」
俺の辛辣な攻撃を無効にするためだろう。鈴屋さんにすがるとは、ズル賢い男だ。
「おはようございます、グレイさん♪」
そして朝から見せる美少女の笑顔である。見慣れた俺でも、グラリとくるものがある。
わかりやすく口元を緩めるグレイを見ていて、さすがは鈴屋さんだと言わざるを得まい。
ちなみにハチ子は紅茶を口元に運びながら、じっと俺を見つめてきている。まるで、排除しましょうか?と言ってきているようだ。
「いやぁ、ここは相変わらず美人ぞろいだねぇ。ハチ子さん、たまには俺と食事でもどう?」
「超・お断りします」
目も合わせず低めのトーンで答えるあたり、ほんとに嫌なのだろう。ただグレイに対してというより、俺以外の男に対しては大体こんな態度なので、実は男嫌いなのでは……と、思ってしまうことがある。
「そう言わずにさぁ~たまにはいいじゃんよぅ。今度のお祭りとか一緒にさ~。俺、なんなら他の娘の誘い断るぜ?」
「超・嫌です。なに調子に乗って話しかけてきてるんですか、気持ち悪い。刺しますよ?」
「相変わらずハチ子さんってクールビューティーだねぇ〜。とにかくさ、お酒でも」
「あの……話、聞いてますか?」
「いっぱい出店も、あるし楽しいぜ? 俺、おごっちゃうからさ~」
「いえ、ですから……」
「なぁに、一杯だけ、一杯だけでいいから。何もしないからさぁ~」
うわぁ、と俺と鈴屋さんはドン引きだ。
食事だけで何もしない……これほど信用の置けないテンプレはないからな。
「なんなら、最初はみんなと一緒でもいいからさ」
「最初はって……それはもう、下心が隠れてないじゃないですか」
「とにかくさ、一杯だけでいいから飲もうよ」
それでもしつこく食い下がるグレイに、ついにはハチ子も困った表情を浮かべ始める。
「な、いいよな、ハチ子さん」
「いえ、ですから……あぁくどのぅ……」
……すごいな、グレイ……ハチ子が助けを求めてきたぞ。
あれだけ辛辣に断るクールビューティーの牙城を、こうも容易く崩してしまうのだから、ある種その逞しさは見習うべきところなのかもしれない。
俺はやれやれと、助け舟を出すことにした。こういう奴とはまともに会話をしてはいけない。話題を変えるのが一番なのだ。
「なぁ、グレイ。お祭りってなによ?」
「えぇ? そりゃ、四年に一度の海竜祭のことに決まってんじゃん」
「あ~ちゃんたちはぁ、東方の出身なん。だからぁ、海竜祭のこと知らないんよね~」
アルフィーが頬張っていたモーニングステーキをごくんと飲み込んで、ようやく会話に参加してくる。
彼女はラット・シー生まれだ。そのお祭りのことも、よく知っているのだろう。
「おぉ、君は最近よく見る白毛のくぁわいこちゃん! 君はどう、俺とさ?」
「あはぁん、ありがとぅ。でもぅ〜君の種はいらないん〜」
「たね……?」
グレイが間抜け面を浮かべて、大げさに首をかしげる。
どうやらアルフィーの振り方がトリッキーすぎて、振られたことに気づいていないようだ。
「あたしはぁ、あーちゃんの種がほしぃんよぅ」
「たねってなんだ……?」
「理解せんでいい。あとアルフィーも、朝から変なこと言ってんな」
いやマジで、アルフィーもそれなりに可愛いから反応に困るのだ。
ここで変に俺の顔が緩もうものなら、鈴屋さんとハチ子から容赦のないジト目が飛んでくるからな。
「いいから、とりあえずそのお祭りについて詳しく教えろよ」
そうして俺は半ば強引に話題を変えて、グレイの暴走を止めることにしたのだった。
──海竜祭。
その昔、港町レーナを襲った災厄「海竜ダライアス」の魂を鎮める祭りだ。
魂を鎮めるとは言っているが、実のところレーナを襲った海竜は撃退に成功しただけで討伐の確認まではできていない。故にこの海の何処かで、まだ生きているのかもしれず、その海竜の怒りを鎮めるという意味も含めたお祭りのようだ。
四年に一度行われる理由は、ダライアスの徘徊周期が四年とされているからだ。その数字を叩き出したのが月魔術学院の有名な学者様らしいが、説明を聞いたところで俺にはさっぱり理解できないものだった。
「つまり四年に一度のお祭りが、今や馬鹿騒ぎイベントに変わり果ててしまったということか」
なんとなく、渋谷の交差点を思い出す。
どこの世界でもお祭りというものは、平民にとって日頃のうっぷんを晴らす場なのだろう。
「四年に一度の盛大なガス抜きとか……海竜の怒りを余計に買ってしまいそうな気がするが……」
昼間から祭りの準備が着々と進められている港を眺める。
実際にどれほどのものか港まで見に来たのだが、グレイの言う通り本当に大規模な祭りらしい。
「ん〜〜でも今や、一大イベントなん。うちらラット・シーの住人も、出店で稼ぎ時なんよ〜」
「アルフィーも働くのか?」
「ん〜あたしはぁ……シェリーの姉御にぃ……あーちゃんとぅ……デートしてこいって言われてきたからさぁ」
あのアフロ……また酒の肴にする気だな。
案の定、白と黒のワンピース乙女が顔を赤くしながら目を大きく見開いていく。
「いや、それ、誰かに言われてするものなの?」
「あぁ、でも先にあたしが、デートしたいって言ってきたんだけどね〜」
そう言いながら、先ほど露店で買った串焼きの肉を一つ頬張り始める。
ちょっとした修羅場のような空気の中でも、本人は素知らぬ顔だ。
「あー君、あー君」
「……ふぁぃ、なんでしょう?」
「これって、よくあるお祭りデートイベなのかな?」
「デートイベ……」
その言葉の意味するところを、俺はよく知っている。
お祭りといえばゲームやアニメで、物語の中盤に差し掛かると必ずあるといっていいほどの定番イベントだ。
おおよそ、この手のイベントは『誰と過ごすのか』を明確に選択することが目的となる。
つまり鈴屋さんは、こう言っているのだ。
誰と過ごすのか、と──
その真っ直ぐに向けられた清流よりも澄んだ瞳が、俺をかるく混乱させる。
「どうかしたのですか、アーク殿?」
そして、そのようなことについて無知識なハチ子が軽く首を傾げてくる。
彼女が泡沫の夢だとしても、鈴屋さんが本当にネカマであるならば、ある意味この娘を選ぶことの方が健全なのだが……だがしかし……だからといって、鈴屋さんを蔑ろに出来るわけもない。
……と、なると……
「うん、ちょっと考えがあって……おい、アルフィー」
「なん……?」
アルフィーが肉を咥えたまま、視線だけを向けてくる。
「商売の話だ。ラット・シーの力を借りたい」
そう。この問題を、うやむやにしつつ解決する方法を、俺はすでに思いついていた。
趣味と実益を兼ねた、俺の秘策が──
【今回の注釈】
・ダライアス………モニターを横に3つ連結する専用筐体をつかった横スクロールシューティングゲーム。敵がなぜか海の生き物を模したメカで難易度も高いというイメージ




