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鈴屋さんと遺跡探索っ!〈9〉

遺跡探索終了になります。

ワンドリンク片手にどうぞ。

 この宝箱は最初からあったのだろうか……と、片膝をついて鍵穴を覗き込みながらふと考える。

 部屋に入った時、このド派手な宝箱はなかったはずだ。


 ……やはりこの世界はゲームの中……なのか?


「あー君、開けられそう?」

 鈴屋さんが水色の髪をさらりと落としながら、無防備に顔を近づけてのぞき込んでくる。

 この無防備さも計算だとしたら凄いのだが、そこまで考えてなさそうなのが鈴屋さんだ。

「ん~~魔法的な鍵ではなさそうだけど、開錠の難易度は高めかも……それよりも、さ……鈴屋さん」

「なぁに?」

「あんまり、かがまれると控えめな鈴屋さんがポロリしそうですよ?」

「ばっ、馬鹿なのかな?」

 うるさい、男なんて生き物は往々にしてそんなものなのだ。

 注意喚起しているのだから、感謝してほしいものだね。

「そういうのは指摘せずに、黙って目をそらすのが紳士ってものだよ?」

「そんなもんですかねぇ」

 顔を赤くしながら胸元を両手で押さえつける鈴屋さんを堪能しつつ、再び宝箱へと集中力を注ぐ。


「鈴屋さんさぁ……この宝箱、最初からあった?」

「最初から?」

「うん。なんつぅか、ゲーム的な感じで急に出てきた?」

「ん~あんまり覚えてないけど……最初から、あったんじゃない?」

 そうか……と呟く。

 実際、俺もはっきりとは覚えていないので、それ以上は追及しない。

 時折この世界ではゲーム的な、何か違和感を感じることがある。

 突然消えた山小屋やネヴィルさんがいい例だ。ついでにいうと、レイシーには未だに、そのことを触れられないでいた。

 時折感じる、この違和感こそが元の世界に帰るための重要な手がかりになりそうなのだが、俺の中ではその思考を停止させる癖がいつからかあった。

 忘却もまた大事な処世術なのよ、と自分に言い聞かせるのは、問題を先送りにして大事なことから目をそらしているだけのような気もするが、今はそれでよしとしている。


「うん、罠はない。んじゃぁ、開錠してみるよ」

 話しながらピッキングツールを取り出し、鍵穴に針金を2本、カチャカチャと差し込んでいく。

「よぅし……こいよ~……こいよ~」

 針金の先から感じる僅かなアタリを逃さず、脳内で断面図を展開していく。そして、押さえるべき箇所と順番を確定していき、力加減を探る。

 もはや鍵開けも、お手の物だ。

「……もうちょい……もうちょい……」

 いくつもの扉をノックし、もう一方の針金を滑らせる。

「よし、徹った!」

 ガチャリ、と大きめの音が鳴る。どうやら、開錠に成功したようだ。

 こいうところは、ゲーム的じゃないんだよな。

 ゲームだと、スキルレベルと確率で難易度判定され、開くかどうかが決まるという楽ちん仕様だ。

 もしかしたら、これって元の世界に戻ってもできちゃうんじゃないかとよく思う。


「さすが、あー君♪」

「カカカ。これで失敗して開けられなかったら、俺は泣くよ」

「あー君は何もしてないからいいけど、こっちはちゃんと戦ってドロップしたんだから。もしそうなったら、泣きたいのはこっちです〜」

「へぇへぇ……そいつはごもっともでございます」

 ぼやきながら、宝箱の蓋を両手で押し開ける。

 蓋だけでも相当な重量だ。

「いっちば〜ん!」

 鈴屋さんが可愛らしい声を上げながら、宝箱の縁に手をかけて覗き込む。

 俺も、それに続いて中を見てみる。そして、しばし言葉を失った。

「……これだけ?」

 中には、箱の大きさに対して何とも申し訳なさそうに、黒色の服のような物が一枚入っているだけだった。

「マジかよ……この大きさに、これだけって……」

 とりあえず手を伸ばして、それを取り出してみる。

 そして、う〜んと唸りながら広げてみた。 


「これは……黒いワンピース、かな? 鑑別(セージ)のスキルがないから何とも言えないけど……魔法の品……だよね、さすがに」

「あれ? あー君、これ精霊が宿ってるよ?」

「……精霊?」

 鈴屋さんが、すすぅっと目を細めて注視する。

 目で見ている……ようだが、実際にはシャーマンの基本スキル「センス・オーラ」で精霊を感知しているのだろう。

 たしか五感とは違う特別な感覚で精霊を感じ取る……とかだっけな。

 月魔法の魔力付与(エンチャント)じゃなく、本当に精霊が宿っているのなら、鈴屋さんでも鑑別できるはずだ。

 武器や防具に精霊を定着させるのは、かなり難しい。

 鈴屋さんの言うことが本当なら、希少な装備になるが……

「シェイド、だね。闇の精霊の……」

「ほほぅ。闇の精霊……黒……ワンピース……決まりだな」

「……仕方ないなぁ」

 どうやら、俺の考えていることを察してくれたようだ。

 さすが、我が相方様である。


「お〜い、ハチ子さん」

 さっそく、アルフィーたちと休憩を取っている麗しき元アサシン嬢に手招きをする。

 向こうでは、南無と南無子についてアルフィーに適当な説明をして盛り上がっていたようだ。

 正直、どう説明すればアルフィーが納得するのか、甚だ疑問ではあるのだが…

「はい! なんでしょう、アーク殿!」

 ハチ子はぴょこんと可愛らしく立ち上がると、軽くお尻を払いながら小走りで駆け寄ってきた。

 最近キャラが変わった気がしてならないのは、気のせいだろうか。

 すっかりアサシンだった頃の面影はなくなり、俺の顔を見上げてくるその表情も優しくて明るい。


「いやさ、戦利品なんだけど。ちょうど、ハチ子さんにピッタリの防具が出たから……どうかな?」

「私に……ですか? ……しかし、私だけにというわけには……」

「あぁ、そうだな。みんなも、いいよな?」

 申し訳なさそうなハチ子に対し、みながすぐに頷いて応える。

 基本的に冒険で得たドロップ品は、パーティ内で公平に分配するものだ。

 しかしRPGゲームでは、誰が持つと一番効果的なのかを優先する。

 それはこの世界においても、パーティの戦力増強が目的であれば大いにアリなわけで、そしてこの場合はハチ子で問題ないはずである。

 そもそも、ハチ子の防具を探しに来たのだし文句もあるまい。


「私はただ冒険がしたかっただけだし、ハチ子さんでいいんじゃない?」

「南無子はオーケーだな。アルフィーは?」

「あぁ〜あたしもいいよ〜ハッチィにあげて〜。大体ぃ〜そんな丈の短いワンピース、さすがのあたしも、ちぃとばかし恥ずかしいん〜」

 こいつに恥ずかしいという感情があったことに、俺は驚きだ。

「……ハッチィ……いつからそんな名に……。みなさんがよろしければ、有り難く使わせていただきます」

 深々と頭を下げるハチ子にワンピースを手渡す。

 きっと彼女に似合うだろう。大体、いつもワンピース姿だしな。


「今回、アーク殿からのプレゼントは、これでふたつめですね」

「え……あ……あぁ〜〜、ほんとだ。そうなるね」

「はぁ? ちょっと、アーク。ふたつめって何よ。聞いてないんだけど」

 眉を寄せて怪訝な表情を浮かべる南無子に対し、ハチ子が憂いの表情を浮かべながら、右手の薬指にはめられた指輪を見せる。

 すると女性陣の目が、どんどん大きく見開かれていき……


『はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?』


 と、大きな声を揃えて驚いていった。

「あ、あ、あ、あ、アーク、あんたねぇ……」

「な、なんでしょう?」

「あー君……」

「……はぃ?」

「あーちゃん、それ意味わかってるん?」

「えっと……左手の薬指が、結婚指輪なんだよね? だから、右手の薬指にはめたんだけど…」

「あーちゃん、右手の薬指はねぇ〜婚約指輪をはめるんよ?」


 ……なん……だと……?


「いやそれ、ここの風習ですよねっ!?」

 すがるような思いで聞いてみるが、南無子と鈴屋さんの呆れ顔が最悪の答えを物語っていた。

「あのねぇ、アーク。あっちでも、婚約指輪は右手にするものなのよ?」

 愕然とする。

 男とは、どうしてこんなにも無自覚で無知識で、デリカシーのない生き物なのだろうか。

 それとも、これは俺だけなのだろうか。

 女性陣の呆れ顔に対して、俺は何も言葉を返せない。

 そもそもハチ子には、なんて言えばいいのだろう……と視線を移す。

 しかし当の本人は、おかしそうに小さく笑っているだけだった。


「ふふっ……大丈夫ですよ、アーク殿。無自覚なのは、わかっていたましたから。だから、これに婚約の効果なんて期待していませんよ。でもこれは、このままもらっておきますね」

「は、はい……どうぞ……」

「……あー君ってほんと、サイテー」

「はい、重々自覚しております……」

「ふふっ……でも……おかげで、私の初の冒険は、最っ高のものになりましたよ、アーク殿♪」

 そう言って彼女は、いたずらっぽく笑い、嬉しそうに指輪を眺めるのだった。

遺跡探索編はハチ子さんの防具を獲得するためだけのお話でしたが、けっこう長くなってしまいました。

次回は少し大事なお話を……お楽しみに!

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