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鈴屋さんと遺跡探索っ!〈6〉

花粉絶頂ですね。ファンタジー世界には花粉症がなくて羨ましい。

後書きの【今回の注釈】が減ってきていますが、よく考えたら「ラジナニ」でその辺も拾っていることに気づきました。あれ、けっこうな文字数になっていたので丁度良かったのかもしれません。

それではダンジョン探索という名の、ラブコメ話……ワンドリンク片手に、どうぞお楽しみください。

 テレポートした先は、通路のようだった。

 数メートル先は闇そのもので、冷たい空気がいらぬ恐怖心を誘う。

 見た感じ、人が通った形跡もない。間違いなく未踏エリアだろう。


 ……いったん、もどるべきか……


 自問する。ここで何かあったら、間違いなく鈴屋さんに説教をくらうことになるだろう。

 が、しかしだ。

 男とは往々にして懲りない生き物なのである。学習能力のない猿といっても、過言ではないはずだ。

 つまり俺は目の前の冒険に対する好奇心に対し、勝てそうになかった。

 ほんの少しだけ……と、悪魔の甘い囁きに導かれて通路の奥へと足を進める。


「アーク殿……」

 きゅっとハチ子が、赤いマフラーの端を握りしめてくる。その強張った表情は、例の幽霊船で見たものと同じだった。

「ハチ子さん……もしかして怖いの?」

 こくこくと、無言で頭を縦に振る。

 暗がりを怖がるアサシンってどうなの……とツッコミを入れたくなるが、冒険でのソレはまた違うものなのかもしれない。なにせ、この闇の中に紛れているのは、得体の知れない恐ろしいモンスターなのだ。

 怖いくらいが丁度いいだろう。

「安全圏の確保程度に……索敵しながら調べていこう」

 自分への戒めを含めて、深入りはしないようハチ子に告げる。

 俺は先頭で罠がないかを調べ、ハチ子は少し後ろで索敵だ。

 そうしてほんの少し進んだところで、俺はある異変に気が付いていた。

 片膝をついて通路を調べ、次に壁を指先でゆっくりと滑らせる。

 やはり……と、俺はひとり頷く。


「どうかしましたか、アーク殿?」

「ん? あぁ……壁が少し濡れているなって」

「気になりますか?」

「そうだな。あとは、この……」

 ひょいと床に転がっていた指輪を拾い上げる。

「……指輪……ですか?」

「たぶん、フォーリングコントロールのコモンマジックだな。前に見たことがある」

「フォーリン?」

「ラブ?」

「……はぃ?」

 キョトンとするハチ子に、元の世界のネタは駄目だったと、今さらながら恥ずかしくなる。


「えぇっとね……フォーリングコントロールは、落下スピードをコントロールすることができる月魔法で……これはその魔法が封じ込められた魔導器だな。月魔法ギルドに行けば普通に売られていて……確か銀貨2000枚くらいだったかな」

「それは……なかなかに、高価な代物ですね」

「まぁね。コモンマジックは共通語で発動するから、うちみたいな月魔法使いがいないパーティには重宝するけど、忍術や精霊魔法で代用できるものも多いから、わざわざ買うこともないんだよな。まぁ、せっかくだし……」

 話しながらハチ子の右手を手に取り、その薬指に指輪をはめる。

「ハチ子さんにやるよ。俺はトリガーがあるし、鈴屋さんは風の精霊で何とでもなるしな」

 しかしハチ子は、顔を真っ赤にして黙ったまま動かない。

 そして、じぃぃぃぃ~~っと、右手にはめられた指輪を見つめている。


 ……あれ? 結婚指輪って左手の薬指なはずだし……大丈夫だよな?


「ハチ子さん?」

「……あ……ぁく……どの……」

 ハチ子の美しい黒い瞳が、ウルウルと濡れていくのがわかる。

「えっとさ……俺の元の世界では、左手の薬指に結婚指輪をはめるっていう風習があって……一応、それしちゃまずいかなと思って右手にしたんだけど……なんかまずかった?」

「……いえ……だとしたらこの世界と、その風習は同じです……」

「それなら、いいんだけど」

 しかしハチ子は、相変わらず顔を真っ赤にして、右手の指輪を見つめ続けている。

 そんなに嬉しいのだろうか……なんにしても喜んでくれたなら、いいんだけど。


「あ……それで、な。俺が気になっているのは、さっきから鉄片が、やたら無造作に転がっていることなんだけど」

「鉄片ですか?」

 ハチ子が足元をきょろきょろと見始める。

 そこには俺の言葉通り、もとは鎧や剣のものだったと思われる鉄片が、いくつも落ちていた。

「確かに……でも、気にするほどのことでも……」

「いやいや〜ここはたぶん、未踏破エリアのはずだ。鉄の破片なんていう人工的な物や魔法の指輪が落ちているなんて、ちょっと変だろ? そこで、ひとつ仮説をたてたんだが……」

 立ち上がり、左手で壁を触る。

「この壁が濡れているのって、さっきのモンスターのせいじゃないかと思うんだ。で、この鉄片は溶かしきれなかった食べ残しとかで」

 そこまで話すと、真っ赤だったハチ子の顔色が真っ青に変わっていく。

 思わず「信号機みたいですね」と突っ込みを入れそうになるが、それもまた元いた世界の話なので飲み込んだ。

 鈴屋さんや南無子にしか通じないネタは注意せねば、な……


「つまり……あの割れ目から我々の階層に入り込んでは冒険者を襲って……?」

「そうだ。あの穴を抜けれられるくらいに獲物を溶かした後、ここでゆっくりとディナーを楽しんだんだろうよ。その辺に落ちている鉄片は、完全には溶かしきれなかった、とかじゃないかな」

「……では、この指輪は?」

「まぁ、普通に売られているコモンマジックの指輪とはいえ、一応は魔法の品だからな。やっぱり、消化できなかったんだろうさ」

 麗しの元アサシン嬢が、ひぃぃぃぃ……と、さらにドン引きしていく。

「あっ……もしかして遺品系はだめ? ぶっちゃけ冒険で手に入る魔法の品なんて、だいたい誰かが手にしたものなんだけどよ」

 彼女が、右手の指輪を凝視する。

 これは気が回らなかった。

 これからは、そういうのも確認してから渡さなきゃだな。

 紳士たるもの、こういった戒めを一つひとつ積み重ねていくことが、とても大切なのだ。


「なんなら、売ってもいいんだぞ。コモンマジックは中古でも、値崩れしないし」

「なっ……!! こ、これはいいんです! このままでっ!」

 そして、この権幕である。

 初の冒険で手に入れた魔法の品だし、嬉しかったのかもしれない。

「とにかく、鈴屋さん達を連れて本格的に探索を始めよう。通路に、こんなものが転がってるんだ。まだまだ、お宝があるかもしれない」

 俺は、再び顔を真っ赤にするハチ子に疑問を感じつつも元来た道を戻っていった。

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