鈴屋さんと遺跡探索っ!〈2〉
こんばんは、治らない風邪に苦しめられております。
SAOアリシ始まる時間にアップして、はたして気づいてもらえるのか…(笑)…と思いつつアップします。
感想にてよいご指摘を頂き、自分でも思うところがあった箇所なので、今回はアップする前にさらに加筆してました。
これまでアップしたものも、時間があれば見直して加筆していきたいと思います。
それでは、週末の鈴屋さんをどうぞ。
楽しんでもらえれば幸いです。
フルプレートの南無子は、盾を持たない。
その代わりに持っているのが、鉄製の両手棍だ。
棍……と言えば、いかにも殺生を嫌う僧兵っぽい“相手への労りがある武器”に聞こえがちだが、実際はそんな事はない。
何せその棍の両端には、見るからに凶悪な刺とげがついているのだ。
ゲーム内では釘バットと揶揄されたネタ武器だが、実に笑えない攻撃力を誇っている。
その横に並ぶようにして立つアルフィーは、サーベルとスモールシールドを巧みに使うオーソドックスな戦士スタイルだ。
そしてその鉄壁すぎる防御技術は、前回の討伐戦で折り紙付きだ。
いつもは神官がいないだけに、今回はなんとも頼もしく感じる。
しかも二人ともタンク役なのだから、やはり安心感が違う。
実際に今も薄暗い通路で相対するモンスター五体の攻撃を弾きながら、ジリジリと押し返している。
ちなみに視界は、鈴屋さんが召喚した光の精霊ウィル・オ・ウィスプのおかげで、しっかりと確保されている。毎度毎度、こういうサポートも地味にありがたい。
そして俺とハチ子は正直することがなかった。それほどに壁二枚が有能なのだ。
「アーク殿、アレは何というモンスターなのですか?」
弓に矢をかけたままで、ハチ子が質問してくる。
彼女はまだ冒険者としての経験が少ないため、モンスターの知識も乏しい。
これほど強くても冒険は初心者なのだから、変なギャップ萌えが生まれるな。
「あぁ~たしか、リビングデッド・メイルだっけかな。鎧に悪霊が憑依した的な……」
「……悪霊……」
鈴屋さんとハチ子が、眉を寄せながら顔を見合わせる。あの船での出来事を、思い出しているのだろう。
ああいったシーンで女の子らしさを垣間見ると男としては嬉しいもので、俺はどこか不謹慎だと感じながらも、あの時の二人の姿を記憶の奥底で大切に保管している。
ついでにロリバージョンも……いや、そういった趣味はなくとも可愛いものは可愛いのだ、と言い訳はしておこう。
「大丈夫だよ、リビングデッド・メイルは物理で倒せるから。だいたい南無子がその気になれば、デストロイ・アンデッドで一発浄化できるしな」
神官にとってアンデッドは、いわば専門分野でもある。
それこそ『ノーライフキング・リッチ』や『ヴァンパイア・ロード』のような高位のアンデッドでもない限り、南無子の魔力なら一発で浄化が可能なはずだ。
もちろん今それをしていないのは、相手が物理で倒せるからだろう。
魔力の温存は、神官にとって最重要項目である。
……にしても、これは……
「あー君、すごいね。あの二人」
鈴屋さんが、感心した面持ちで呟く。
無理もない。
二人の壁は、数で勝る相手の攻撃を一切ひるむことなく弾き返し、それどころか、標的をすり潰すように前進していく。
「……すげぇ。戦車みたいだ。これ、七枚揃えば、まじでロー・アイアスだな」
「またそんな、ヲタネタぁ〜」
可愛らしいジト目と溜め息で呆れてますけど、ヲタネタだと理解してる時点で、あなたも同じ穴の狢ですよ。
「なぁに、あー君?」
「なんでもないです」
さらに可愛らしく、薄い唇をとがらせる。
あまりの鋭さに、心が読めてるんじゃなかろうかと疑ってしまいそうだ。
「アーク殿ぅ~、アルフィーの体が僅かに光っているようなのですが……アレは何ですか?」
「あぁ〜あれは確か神聖魔法のディバイン・アーマーだな。鋼と戦争の神『ジュレオ』を信仰しないと使用できない、結構上位の物理防御魔法だよ」
「カッチカチに硬くなるんだよね」
え、やだ、エッチ……と思わず小声で漏らすと、少し間を開けたのち、鈴屋さんの顔がみるみると真っ赤に熟れていった。
「アーク殿、今のはちょっとハチ子的にも……」
珍しくクールビューティーハチ子までもが「今のはダメです」と目で訴えかけてくる。
「すみません……」
「もぅ~。あー君が馬鹿なこと言ってる間に、モンスター倒しちゃったみたいだよ?」
「えっ?」
驚いて視線を前方に戻す。
そこには全てのリビングデッド・メイルを粉砕した破戒僧とシールドマスターの二人が、思い思いに勝利のポーズをとっていた。
「どう、どう? 私、強くない?」
「……お、おぅ。アンデッドを撲殺とか、まさに破戒僧南無三だな」
「あーちゃん、あたしも褒めてほしん〜」
「うん、まぁ、まとめて凄すぎて言葉にならないレベルです」
二人同時に満足気に笑う。
さて、このライバル視バチバチなタンク二枚を、どうまとめればいいのか、俺は今から頭が痛い。
上手く活用できれば最強の盾なのだが……
「私なんか、三体も倒したもんね!」
「あたしは無傷なんよ? なんなら、あたし一人でも無傷で全部倒せたかんね」
「わ、私だってその気になれば無傷で全部倒せるしっ!」
「あはぁ〜ん、それはぁ~デストロイアンデッドでも使うんよね? そんなん、神官なら当たり前なん〜」
アルフィーが、またも見事なヘイト顔で挑発する。
火の付きやすい南無子には、有効すぎる。
これでは最強の盾への道のりが、無駄に険しくなるばかりだ。
「……あ、あの……仲良く……」
「アークは黙ってて!」
「あーちゃん、ちぃとばかし静かにしててくれるん?」
「あ……は、はぃ」
すごすごと後ろに戻ると、鈴屋さんが困ったような表情で迎えてくれた。
しかしその表情があの二人に向けたものなのか、それとも俺の頼りなさに向けたものなのかまでは読み取れない。
「……ったく、なんであそこまで揉めるんだか……」
「ん〜〜、あー君さ。例えばここに、もう一人シーフ職の男の人がいたとして張り合ったりしない?」
……シーフの男……張り合う、とは鈴屋さんたちの前でいいところを見せようとしてってことか?
あぁ……まぁ、うん……
「変なライバル心出るかも」
「だよね。そういうことじゃない? 南無っちは、まさか自分の代役が現れるとは思ってなくて……アルフィーさんは、うちにタンク役がいるとは、思ってなかったんじゃないかな?」
「なるほどねぇ……」
腕を組みながら、深く頷いて見せる。
……ってことはやっぱりポジション争いなんだから……二枚起用できる布陣を考えるべきか……
そこで鈴屋さんが、もう一度大き目のため息をついた。
「あー君が、はっきり選べばすぐに解決するよ?」
「……ふぇ? 選ぶ?」
思わず出した間抜けな返事に、鈴屋さんが水色の髪をさらりと揺らせながら頷く。
「そうですね。鈴屋の言う通りです。この際、はっきりどっちがいいのか選んでください」
「そうだよ、あー君。はっきりしてよ」
……なんだろう……この違和感は……
俺に向けて言ってるような……
「アーク殿は結局、どっちがいいんですか?」
「どっちがいいの? あー君!」
「……いや、あの……これ、南無さんとアルフィーの話だよね?」
二人して、むぅ〜〜っと口を噤む。
……違うのかっ……だとしたら……察しない……俺はあえて察しないぞ……
「アークっ!!」
思わぬ方向から、絶妙なタイミングで助け舟を出してきたのは南無子だった。
「どうしたっ!?」
「あっ……ちょっと、あー君、話はまだっ!」
鈴屋さんの呼び止める声がするが、俺はその場から逃げたい一心で踵を返し、前衛組の方へと向かう。
「アークっ! アルフィーがっ!」
「……おぉ……おぉお、なんだこれっ?」
そこには巨大なゼラチン状のモンスターが、のどを押さえてもがき苦しむアルフィーを丸ごと飲み込んでいたのだった。
【今回の注釈】
・ロー・アイアス………Fateでアーチャーと衛宮士郎が『投影』して使用する防御用宝具で正式名称は「熾天覆う七つの円環」。完全展開すれば7枚の花弁を咲かせ、その一枚一枚が城壁並みの防御力を誇る。アーチャーの投影元を知りたいシリーズですね。干将・莫耶もそうですが、卵が先か、鶏が先かってやつです