鈴屋さんと遺跡探索っ!〈1〉
執筆する時、余裕があれば喫茶店で半日近く居座って執筆しております。
主にコメダ珈琲店が今の巣です。長時間居座っても何も言われないので居心地がいいんです。
外では雪がちらついています。
みなさま温かいワンドリンク推奨、まったりとネカマの鈴屋さんをどうぞ。
とある日、とある朝、碧の月亭でのとあるツインテール。
「アーク、鈴ちゃん、遺跡に行こっ!」
全身を女性用プレートメイルに身を包んだ南無子が、バンっと円卓に両の手を置いて詰め寄ってくる。
美しい銀の輝きを放つプレートメイルは装飾も細やかに凝っており、なによりも太ももの高い位置で見せる芸術的な絶対領域から、製作者である南無子の並々ならぬこだわりを感じとれる。
だいたい銀製のフルプレートメイルとか、そこらの貴族騎士ですら買えないだろう。
いったい、幾らかかってんだ。
まぁ、それを自前で作り上げてしまうのだから、南無子の鍛冶スキルは、すでに現代の名工と呼べるレベルにまで達しているのかも知れない。
「急にどうしたの、南無っち」
鈴屋さんが、ホットミルクの入ったマグカップに口をつけながら、落ち着いた面持ちで言う。
「いいから、遺跡に行くのよ!」
「だからなんなんだよ、朝から急に」
半ば呆れながら、ちらりと隣に座るハチ子の方に視線を移す。
朝からでも凛とした雰囲気を醸し出す彼女は、野菜ジュースのようなものを飲みつつ俺の反応を伺っている。
「あーちゃんさぁ〜おかわり食べていぃ〜?」
ここ数日、当たり前のように同じ円卓に座り、肉汁が滴るステーキを食しているのが、ふわふわの白毛に水色の目をしたアルフィーである。
ちなみに南無子と顔を合わせるのは、これで二回目だ。
「……あんた、またいたの?」
南無子が半目で、攻撃的に言い放つ。
そう言えばハチ子がよく来るようになった時も、こんな反応してたな。
「ん〜? いるよ〜? あーちゃんとあたしは、組んず解れつの仲なん〜」
「……なっ!? ……鈴ちゃん、あんなこと言わせていいのっ!?」
「ん〜これくらいは平常運転かな〜」
「ゔぇぇぇっ!? ハチ子さんは、それでいいのっ!?」
「アーク殿のまわりでは、これくらいそよ風のようなものです」
二人は涼しい顔で、それぞれの飲み物に口をつける。
一方の俺はと言うと、これはなんの話なのかと眺めている状況だ。
「んで〜なんなん〜?」
むぐっと、南無子が口をへの字にさせる。
「い……遺跡! 冒険! お宝探しに行くの!」
「だから、なんでだよ?」
「ぼ、冒険者のあんたが、それを言うわけ?」
おや、随分と呆れていらっしゃる。
そう言えば、俺は冒険者だった。
「なんだよ、なんか欲しいものでもあんのかよ」
「……え……あ……まぁ、アレよ。なんか欲しいのよ」
……なんだそりゃ。やっぱり脈絡がなさすぎるな……
「アーク殿」
ハチ子が黙って、見つめてくる。
そう言えば、彼女も晴れて冒険者になれたわけだし、いわゆるベタな冒険ってしたことがないんだっけな。
その眼は行ってみたい、ということなのだろう。
「まぁそうだな、ハチ子さんの防具も何とかしたかったところだし……」
「え? 私がつくろうか?」
「いや、ありがたいけど……できれば、魔法の防具がいいなって」
「アーク殿、私はそんな贅沢……」
「まぁまぁ、どうせそう簡単に見つかりはしないさ。あればいいな程度に行ってみようぜ。それに、たまには冒険らしい冒険もいいだろ?」
「……じゃあ……」
南無子が目をキラキラとさせて両手を組み、口元に持ってくる。
「ここから一番近い古代遺跡だと“レジアン”になるけど、そこでいいか?」
「いいに決まってんじゃない!」
そして南無子は、心底嬉しそうに笑みを浮かべるのだった。
数日後、俺達は『港町レーナ』から一番近い古代遺跡『レジアン』の、地下3層で遺跡探索をしていた。
「すっかり変わってるなぁ……」
先頭で罠を警戒しながら、小さく呟く。
ゲームでのここは、遺跡探索を勉強するためのチュートリアル的な存在だったのだが……
「これはもう、知らない遺跡だな」
「そうだね。この間のこともあるし、あんまり前の記憶はあてにしないほうがいいね、あー君」
後ろから、鈴屋さんが小声で返す。
この間とは、『ゴーストシップ』の時のことを言っているのだろう。
俺の慢心で眼帯生活になってしまったのだから、忘れようもない。
「アルフィー、ここって何層まであるのか知ってる?」
「ん~、たしか八層まで潜った冒険者の話は聞いたことあるん~」
「……つまり、最下層はまだわからないってことかな?」
アルフィーが頷くのを確認し、鈴屋さんと顔を見合わせる。
「あー君……」
「……あぁ……」
……たしかチュートリアルでは、三層までしかなかったはず。こうなると、過去のプレイ経験は邪魔になるだけだな……
「ん~~~、しばらく罠はなさそうだな」
俺がそう言うと、アルフィーと南無子が並んで前に出てくる。
「ちょっと、なんであんたが前に出てくるのよ?」
「あたしは、あーちゃんの盾なんよ?」
「わ……私はタンクなの! 神官戦士なの!」
「そんなんわかってるん〜見るからに硬そうなん。でも、あたしもタンクで神官戦士なんよ?」
おぉ……わかりやすいライバル心だ。サッカーのポジション争いに、似たものを感じるな。
「あー君はもてますなぁ」
「いや、鈴屋さん、あれはどっちがベンチを温めるのか争ってるだけじゃないの?」
「へぇぇ~~」
鈴屋さんが、長いまつ毛ごとすすぅぅっと目を細めていく。
ものすごいジト目ですし可愛いですし本日も良きダンジョン日和ですありがとうございます、と呪文のように唱えてしまいそうだ。
「二人並んで、アーク殿の肉壁になればいいのでは?」
「ひどっ……ちょっと、アーク! ハチ子さん酷くないっ?」
「いや、俺も同意見なんだけど。より前衛が強固になるし、しかも、お前ら回復持ちだし」
「違うよ、あー君。そこは肉壁って単語にひっかからないと……ぷぷ」
と言いながら、肩を震わせて笑う鈴屋さんはやはり素敵です。
「まぁ〜、そこの控えめな体系のエルフや〜小枝みたいな元暗殺者に比べればぁ〜確かに、あたしって美味しそうな肉付きだとは思うん〜」
「控えめっ!?」
「小枝っっ!?」
たちまち顔を真っ赤にする鈴屋さんとハチ子に対し、アルフィーが白い太腿に艶かしく指を滑らせながら、ウインクをしてくる。
このヘイトテクは、タンクをする上でも重要なのだろう。
とりあえず、俺はそう考えることにした。
「ほら、二人とも、そんなこと言わせてていいの!?」
「……そ、そよ風です」
明らかに動揺してますよね、ハチ子さん。
「私も……これくらい、うん。あー君は、そんなところで判断しないもん」
「そうです。アーク殿は、もっとこう……そうですね……たしかに、たまに視線がエッチです」
「言われてみれば……たまに視線が、そこはかとなくイヤラシイ気がする……」
「何の話してんすか? 俺、そんな目でみてないからね?」
二人してジト目を向けてくる。
はい、嘘です。ミテマスネー。
「あ〜、楽しいとこなんなんけど〜〜敵さん来たみたい」
アルフィーがサーベルを抜いて、くるりと回す。
見ると暗闇に沈む通路の奥で、わずかに揺れる何かが見えた。
「あー君、先手必勝?」
「だーめだって、MP管理してくれよ。まずはタンク二人と俺で前衛、中衛は鈴屋さん、後衛ハチ子さんね」
ハチ子は黙って頷き、武器を弓にと持ち替える。
攻守ともにバランスのいいハチ子の役割は、鈴屋さんを守るか、俺と攻めに転じるかの二択だ。
後衛に入るなら、弓を持たせるべきだろうという俺の助言である。
「じゃあ、あーちゃんと……南無ちゃん? はりきって行ってみよー!」
「誰よ、南無ちゃんって!」
俺はタンク2人の息の合った掛け合いに、思わず笑みをこぼしつつ、テレポートダガーを抜いて後ろに続いて通路の奥へと進んだ。
あれ?ハーレムパーティになってしまった…と思った作者でした。(笑




