鈴屋さんと取り立て代行っ!〈3〉
風邪ひきました…が、インフルではないのですぐに復活です。インフル流行ってるのでみなさんもお気をつけて。
さらりと終わる話です。ワンドリンク片手にどうぞ。
「言ってる意味が、よくわからないんですけど?」
張り詰めた空気の中、鈴屋さんが最強の暗殺者に気持ちの上で一歩踏み込む。
しかしフェリシモは、冷笑を崩さない。
明らかに、この空気を楽しんでいるようだった。
「そのまんまの意味だよぅ〜? キミのような完璧ちゃんはぁ〜逆に不自然だってことさぁ〜」
「……フェリシモさんには、私が男に見えてるってことですか?」
俺の位置からでは、鈴屋さんの表情は読み取れない。
しかし僅かに、声が震えているように感じた。
「あはぁ〜それは失言だったかしらぁ〜たしかに女の娘に見えてるけどぅ……ボロがないのよぅ。ほらぁ、少年みたいなぁ不完全さが無さすぎぃ〜」
「……それ、とりあえず俺は褒められてないよな?」
肩をすくめながら、苦笑する。
……鈴屋さんに助け舟など不要だろうが、黙ってはいられなかった。
「フェリシモさん、それはいたって……そうだな、簡単なことだよ」
「簡単〜?」
「あぁ。俺が未熟で不完全なのは当たり前だ。俺は心も体も、まだまだ未熟だからな。で、彼女が完璧に見えるのは、ただ単純にその通りだからさ」
「つまりぃ〜、本当に完璧な存在だとでも言うのかいぃ?」
首をかしげるフェリシモに対し、一度だけ頷いてみせる。
「みんなが知っている鈴屋さんは、誰よりも強くて……誰よりも可愛くて、非の打ち所がない美少女で間違いないさ。だけどな、俺は鈴屋さんが誰よりも弱いことを知ってんだよ」
「……あー君……」
……おっと、そこでその潤んだ瞳は反則ですよ、鈴屋さん。俺の顔が緩むからな……
「なんのことはない。あんたらが完璧な鈴屋さんしか、知らないだけなんだよ」
「……なるほどぅ〜。私が見抜けてないだけでぇ〜少年には見せているってことかぁ〜。それは、まぁまぁ納得のいく答えだねぇ〜」
「……んで、返してくれるのか? 返しちまえば、教団とは綺麗さっぱり縁が切れるんだぜ?」
「んん〜〜そうだねぇ〜」
フェリシモが指先で、妖しく濡れた唇をなぞりながら宙を見る。
やがてなにか思いついたのか、大きく目を見開き身を乗り出してきた。
そのこぼれそうなダブルメロンは視線誘導の罠ですか、と俺はすかさず目をそらす。
「あの犬は、どうしたんだいぃ〜?」
「……犬……? あぁ、ハチ子さんのことか。彼女は、迷わず返したぜ?」
フェリシモが再びあぐらをかいて座り、顎に細く長い指先を当てて何度か頷く。
「なるほど、なるほどぅ〜……では、しょうねぇん〜。ひとつ、頼まれごとをしてくれないかいぃ?」
「……頼み事? 俺に?」
「あぁ〜コートは返そうじゃないかぁ。だけど九龍牌は返さなぃ〜。これまでの功績に対する駄賃さぁ。それを扉の向こうの男に、伝えてくれないかぃ〜?」
「……おいおい、俺はあいつから交渉役で雇われてるんだぜ?」
「これも立派な、交渉じゃないかぁ」
「いや、まぁそうだけど……そんなの納得するのか?」
「するさぁ〜。しょぅねぇん〜キミは今や立派な抑止力なのだよぅ? たしかに、ネズミ共の力あってのものだがぁ〜この抑止力は、まさに少年を中心に働いているのだよぅ。もっと自信を持ちたまえ〜」
「そうかも、しれないけど……それと、この交渉は、また別の話だろ?」
「大丈夫さぁ〜手ぶらで帰るわけじゃなくぅ、交渉に少年を使ったという事実もあるんだぁ〜。あの男の面目は、十分すぎるほど立つさぁ〜」
「……そんなものかね」
「あぁ〜。それにぃ、任務失敗であの男まで粛清したら、いくらなんでも教団の戦力はガタ落ちぃ〜。できやしないんだよぅ、そんなことぅ〜」
たしかに言っていることは、一理あるが……
「なんだぁい〜。私に貸しが、また一つできるんだよぅ? これは依頼なのだよ、しょうねぇん」
「えっ、貸しでいいの?」
「お金で良ければそうするけれどぅ……少年には貸しという形のほうが、何かと都合がいいんじゃないのかいぃ〜?」
「カカカ。たしかに、それはでかい報酬だ。引き受けない手はないね」
俺はそう言って、満足そうに笑みを浮かべるフェリシモと、交渉成立の握手を交わした。
結論から言おう。
交渉は見事に成立した。
ゼクスはコートを受け取ると報酬の銀貨を支払い、何事もなかったかのように去っていった。
そもそもスケアクロウの目から見ても、任務の完遂は不可能だと認識されていたのだろう。
教団のトップ二人からの回収だからな……当然といえば当然だ。
それでもハチ子から九龍牌を、フェリシモからはコートを回収したのだ。
俺という仲介を使ったのも、任務遂行のために出来うる策を弄したと言えよう。
これで教団問題はすべて解決、世は事もなし、となったはずだ。
「とりあえず、終わったのかな。よかった……超怖かったぜ」
安堵と共に、思わず心情を吐露する。
「……そだね」
しかし鈴屋さんは、浮かない表情だ。
ちなみに、これで完全に自由の身となったハチ子は、お祝いのワインでも……と商店通りの方へ寄り道中だ。
「どうしたの?」
思わず聞いてみる。
聞くべきか悩むよりも、聞いたほうが早いと判断したのだが、当の鈴屋さんは話すべきか悩んでいるようだった。
「んーん」
鈴屋さんが、首を横に振る。
「フェリシモさんの話?」
今度は黙って、小さく頷く。
「なんで? 気にしてるの?」
今度は頷かない。
俺は思わず彼女の頭の上に手をおいて、クシャッと力強くひとなでした。
「そういうトコだよ。一人で悩んで……今の鈴屋さんは、完璧からなんて程遠いね」
「…………」
「それも演技だと言われたら、もうお手上げだけどさ。ちゃんと、そういう一面も俺は見れてるから」
「……演技じゃないもん……こんなの、あー君にしか見せれないもん……」
「あぁ、知ってるさ」
カカカと、笑ってみせる。
「……あー君……私ってウソっぽい?」
「ん~、演じてるかってこと? ネカマプレイのスイッチが入っている時と、俺とこうしている時は、明らかに違うからなぁ……ウソっぽい……は、ないかな」
「ほんとに?」
答える代わりにもう一度強く頭をなでると、鈴屋さんは目をしばたたかせて少しだけ微笑む。
「ん……それならいいの!」
その時見せた彼女の笑顔が、俺には到底つくり物になど見えなかった。
次回はギャグ系を~と思ってます。




