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【原作小説版・完結済】ネカマの鈴屋さん【コミカライズ版・販売中】  作者: Ni:
鈴屋さんとっ!

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鈴屋さんと赤いマフラー!

第10話です。

ホットミルクでも飲みながらまったりどうぞ。

 とある日の夕方、俺たちは遺跡に出没したトロールを退治し『碧の月亭』にもどってきていた。


「うはぁ……腹へったぁ」 


 お腹をさすりながら、自分たちの席に向かう。

 俺たちは毎日同じ席に座っていたため、特別に指定席を頂いている。

 まぁ、ちょっとばっかし有名になりつつあるのも理由のひとつだろう。

 テーブルには、昔懐かしい相合傘的なものが彫り込まれていて、俺と鈴屋さんの名前が刻まれている。

 危うく「誰だよ、もうっ!」的な事を言いながら、顔を真っ赤にして削り消すなんていう甘酸っぱいエピソードが生まれそうだったが、鈴屋さんの「いいじゃん、このまま指定席にしちゃえば」で、何も言えなくなってしまった。

 ちなみに犯人はグレイで、その後すぐに鈴屋さんのサラマンダーによって、買いたてのマントを消し炭にされたのは言うまでもない。

 ここまで2人で一緒にいると色々と噂も出てくるのだが、それによって鈴屋さんの営業妨害になることはなく、彼女は相変わらずのもてっぷりだ。

 次々と運ばれてくる料理も「あちらのカウンターに座っている剣士様からです」の一言が添えられていて、ほぼ毎日タダ飯にありつけるという素晴らしい生活を満喫している。

 だがしかし、俺はというと、どうにも素直に喜べない。

 なんか、こう……ヒモっぽい感じがしてしまうのだ。

 それでも目の前の料理をぺろりと平らげてしまうのだから、俺の尊厳はどこか旅に出ているのかと、疑い始めていた時の事である。


「アーク!」


 唐突に名前を呼ばれて、ぼんやりと鈴屋さんの方に向けていた視線を、声の主の方に移す。

 見れば、真っ黒なツインテールに、黒のミニスカートと、膝上までの長さがある黒いブーツをはいた、健康的な女子が立っていた。

 まったく見覚えはないが、その絶対領域が俺のハートをつかんで離さない。ここはあえて、知った風に手を上げよう。


「よう、元気か?」

「……あれ、あんまり驚かないのね」


 ツインテール女子はそう言いながら不満げに腰に手を当て、髪をかき上げる。

 うん、かわいい。

 ちなみに鈴屋さんはと言うと、あからさまに訝し気な目で俺を見ていた。


「なによ、拍子抜けね。まぁ、私とアークの仲ならすぐにばれるかぁ。もうちょっと、感動してほしかったけどね~」


 彼女はそう言うと、俺と鈴屋さんの間の席に座り、そのままテーブルの料理に手を伸ばす。

 ちなみにいま彼女が座っている席は、通称「チャレンジシート」と呼ばれている。

 通常そこは、鈴屋さんを口説こうとする男が座る席な訳だが、誰が座っても軽くあしらわれてしまうため、いつの日からかそんな名前がついていた。

 そんな曰くつきの席に座り、勝手に料理を食べるという蛮行に俺は思わず声を失う。

 なんという、恐れを知らない女子なのだ。


「あー君、説明」


 あ……その台詞……また怒ってる。

 そんな鈴屋さんの反応を見てツインテール女子が目を丸くする。

 やがて何かを思いついたのか、えらくニヤニヤとし始めた。


「あぁ~くぅ~」


 そんなどえらい甘え声をだしながら、俺の腕に絡みついてきたのだ。

 大丈夫、俺は顔色一つ変えていない。

 いたって冷静だ。

 その証拠に、まったくもって悪い気がしない。

 しかし「アーク」と呼ぶあたり、こっちに来てから知り合った人だろうか。

 ……駄目だ……何度あの絶対領域を見ても思い出せない……


「……あー君。さっきから、どこ見てるの?」


 うん、怒ってる。目を細めても、かわいい。

 ……いやでもね、鈴屋さん。今さら「君の名は?」なんてキメ顔で聞けるわけないじゃん……


「えぇっと……今日は、どうしたんだ?」


 ツインテール女子が、真っすぐに見つめてくる。

 顔が近いですしとてもいい香りですし御馳走さまです。


「アークはぁ、もう忘れたかしら?」

「……ええっと……なにを?」


 彼女は俺のマフラーに手を伸ばし、自分の首にも巻き付ける。

 ……何これ、恋人巻き的な?

 ……実際に見たことはないけど……現実に存在してたの、これ……


「赤いマフラー2人でしてぇ、一緒にお風呂行くって言ったのにぃ〜」


 パキンッ……と、甲高い音がした。

 確認するまでもない。鈴屋さんが、マグカップを割った音だ。

 若すぎるぞツインテール、何も怖くないってのかよ!

 俺はもう、鈴屋さんの方に目を向ける勇気がないからな!


「あーくくん、ちょっといいかな? 2階でお話しよっか」


 ……怖い怖い……怖いって……


「待て待て待て……白状します。まず、君は誰!」

「……なによ、やっぱりアークも気づいてないんじゃない。私よ、私!」


 いやだからわかんないってば……すさまじいオレオレ詐欺だな……

 見かねた鈴屋さんが、ツインテール女子の首に巻かれたマフラーをはずす。


「あなた……あんまりうちのあー君に、くっつかないでもらえるかな?」


 うちのって言った! 今、うちのって言った!


「えー、鈴ちゃんまで……まだわかんないの?」

「……すず……ちゃん?」


 そこで、ようやく俺は気づいた。


「あーーーーっ、まさか、南無さんかっ!?」

「……あっ! まさか、あー君の丸薬?」

「ピンポーン! 2人まとめてご名答ぅ~!」


 そう言って南無さんは、小悪魔笑顔でウインクをしてみせた。


「んなの、わかるわけないじゃん!」

「だったら、わかってるフリとかしないでよ」


 いや、それはおっしゃる通りです。

 ……でもこれで、鈴屋さんの誤解も……


「……ふぅん、で、2人で混浴行く約束してたんだ。私があげたマフラーを2人で巻いて……へぇぇぇ〜……」


 ……って、解けてないですよ、南無さんっ!


「鈴ちゃんって、意外にヤキモチ焼きね」

「……誰が誰に、何をやいてるって言うのかな?」

「冗談よ、冗談。安心して鈴ちゃん、そんな約束してないから~」


 それでも怪しむ鈴屋さんを説得するのに、それから軽く小一時間はかかってしまった。




 そんなこんなで3人はいま、公衆浴場まできていた。


「南無さん、もしかして今まで男風呂入ってたの?」

「……んなわけないでしょ……アホなの、あんた?」


 え……ってことは、ずっと風呂に入らず? でもさっきはいい匂いがしたような……


「……あー君、変態顔になってるよ」


 エスパーですか、鈴屋さん。どこから読み取れるの、ソレ。


「……川よ」

「えっ?」

「だから……毎朝、川ですませてたのっ!」


 ……どこまで不幸なの、この娘……


「でも、あーくんが丸薬作ってくれたからさぁ〜」

「南無っち、それは駄目」

「……あ、あぁ……っと……アークが丸薬作ってくれたからさぁ~」


 鈴屋さんも容赦ないな……まだちょっと不機嫌のようで。


「私、やっと……念願の女湯に入れるのね……」


 南無さんは嬉し涙を流しながら、ふるふると身震いをしている。

 セリフだけ聞いてるとなかなかの変態だが、南無さんが言えば言葉に重みがある。


「そっか、まぁ堪能してきてよ。じゃあ一時間後に外でいいかな?」


 オッケー! と南無さん。

 勇み足で女湯に向かうのを見送りつつ、俺たちはいつも通り混浴へと向かう。


「……って、ちょっと待って! 鈴ちゃん、どこ行くの?」

「? ……お風呂だけど?」

「いや、だってそっち混浴……」

「うん……?」


 何これ面白い。

 ちょっと静観しとこう。


「……えぇっと鈴ちゃん、女湯に行かないの?」

「うん、あー君が混浴じゃないと駄目だって。だから初めてきたあの日から、私達ずっと混浴だよ?」


 ……まぁ嘘は言っていないけど、順調に誤解は生んでいるようだ……

 その証拠に、南無っちが凄い目で俺を見ている。


「……す、鈴ちゃんは、それでいいの?」

「だって私、ネカマだし。女湯はいったら倫理的に駄目だろって、あー君が言うし」

「……ちょっと、アーク。あんたそれを理由に、鈴ちゃんを混浴に引きずり込んだって言うの?」

「いやだって、倫理的に……」


 おぉ、お得意のあんぐり顔。

 女の姿になってもするのね、それ。


「……鈴ちゃん、今からでも遅くないわ。私と女湯いこ?」


 しかし、鈴屋さんは首を横に振る。


「ありがとう、南無っち。でも、もういいの。私はもう汚れちゃったから……」

「あ、あ、あ、アークぅぅっ!」

「待てぃ! 話が暴走し過ぎだ。俺はちゃんと扉の外で待ってるし、何もしていない!」

「……本当に?」

「誓って言う、俺は清廉潔白だ。覗くどころか、ラッキースケベも発動させてない。むしろ“混浴を毎日締め出される哀れな男子”として、プチ有名なくらいだ」


 今度は、うわぁといった表情で鈴屋さんの方を見る。

 鈴屋さんはと言うと、てへぺろこつんアクションで相変わらず可愛さマックスだった。




 いつも通り……そう、先ほどの言葉通りに、俺は廊下で胡坐をかいていた。

 鈴屋さんは、最初に比べて、だんだんとお風呂の時間も長くなっている。

 そのため俺も、日に日に目立つ一方だった。

 たまに通り過ぎるカップルが同情にも似た目で見てくるが、もはや気にもならない。


「見ろよ、あいつ。まだいるぜ。毎日締め出されて、かわいそうに……」


 しかし今日に限って、わざらしく大きな声で言われた。

 くそっ。わざとかよ、当てつけやがって……


「なぁ、君さ。騙されてるだけだって、いい加減気づけよ。あんな奇麗な娘が、お前みたいな目つきの悪いガキを相手にするわけがないだろ?」


 気にしない気にしない。むしろ俺は鈴屋さんが覗かれないように見張っているのだ。


「……ちょっと、やめなよ。可哀そうだって……」


 ……あ、それは駄目っぽい……ちょっと泣きそう……

 そこで唐突にガタンッ!と、背を預けていた扉が開かれた。

 そこにはバスタオル一枚の姿で、唇をきゅっと結んだ鈴屋さんが立っていた。

 綺麗な水色の髪は濡れたままで、泡もまだ残っている。

 しかしその無言で怒る迫力に、カップルも言葉を飲み込んでいた。


「あー君、一緒にはいろ!」


 鈴屋さんは2人を一瞥し、俺のマフラーを引っ張るようにして脱衣所に引きずり込む。

 俺はなすがままに脱衣所に転がされて、扉をガタンッと閉める鈴屋さんを見つめていた。

 しばらく呆然としていたが、そのあまりにも魅力的な後ろ姿から視線を外す。


「……えっと、まさか本当に、一緒には……入らないよね?」


 一応確認すると、鈴屋さんはややあってから小さく頷いた。


「ごめんね、あー君。でもそこに居ていいから……あの……終わるまで向こうむいててもらっていぃ?」


 ……あぁ、そうですよね……そうじゃないとむしろ俺が大混乱です。

 とりあえずマフラーで目隠し状態にして、扉の方に体を向けて正座し直す。


「……あー君……嫌な思いさせてごめんね」


 湯舟の中から届いたその優しい声に少し心が震えたが、気持ちを強くもてと自分に言い聞かせる。


「あぁ、うん大丈夫だよ。むしろさっきのは、ちょっと痛快だったかも」


 言って、かかかっと笑ってのける。


「ねぇ、鈴屋さん……」

「なぁに、あー君」


 さっきのカップルの言葉が、妙に頭に残っていた。


「……俺って、目つき悪い?」


 しばらく沈黙が続き、やがて「そんなことないよ」とかえってくる。


「そんなのキャラメイクだし、気にしなくても……」

「……あぁ……まぁそうなんだけどさ。俺、リアルもこんな感じなのよ」

「そうなの?」

「キャラメイクとか、昔は凝ってたけどさ……それこそクスエニ風にしようって頑張った時期もあるけど。何個もキャラも作ってるうちに、段々タルくなってきてさ……どのゲームでも、俺風なのを作るようになったんだよね。今はもう、ぱぱっと作れちゃうよ。……まぁそんなわけで、実はこれ、けっこうな再現度なのよ。だから、あいつらの言うことはリアル俺に言ってるようなもんなのさ」

「……ふぅん」


 鈴屋さんが湯舟の中で、ぶくぶくと何かを言う。


「え、なに?」

「……ん~ん、なんでもない。私たち、よく似てるね」

「へ? だって鈴屋さんのキャラメイクって、一日物でしょ?」

「いざ自分に似せようとしたら、凄い大変だったもん。今までそんなことやったこともなかったし……」

「あぁ、そっか、自分に似せつつ女に変えなきゃいけないって難しそうだね……って、じゃあ、すっげぇ美形なの? まぢでか……なんて、うらやま勝ち組……」


 しかし鈴屋さんは、湯舟でぶくぶくするだけだった。


「……そのさ、さっきの……鈴屋さんは気にしないでいいからね」


 かなり長い間があき、やがて「うん」とだけ小さく聞こえてきた。


「あー君、あのね……私…………」


 鈴屋さんが何かを言いかけたその時だ。


『きゃぁぁぁぁあぁぁぁぁーーーーーーーーーー!』


 耳をつんざく女性の悲鳴が外から聞こえてきた。


「な、なに……?」


 鈴屋さんが、不安そうな声を上げる。

 俺は横に置いていたダガーを握り、目隠ししていたマフラーを口元にさげて立ち上がった。


「ちょっと見てくる。鈴屋さんはここにいて」


 俺はそう言うと、声が聞こえた方向に廊下を駆け出す。

 そしてロビーにたどり着いたとき、何が起きたのか俺は全てを理解した。

 ……思わず目頭が熱くなる思いだ……

 そこには真っ裸にタオル一枚で、石鹸を投げつけられている筋肉髭坊主の姿があった。




 連続トリガーで号泣する破戒僧を救い出し、そのまま風呂屋の屋根上に逃げ込むと、今度は一番近い雑貨屋で大き目のローブを買って、また屋根上にもどる。

 南無さんは、それはもう素晴らしい男泣きを見せていた。

 かける言葉が見つからない……この世に彼女ほど不幸な人はいないだろう。

 黙ってローブを渡すと横に座る。


「たぶん魔法無効化エリアがどっかに仕込まれてたんじゃないかな……シェイプチェンジの魔法系は悪用されるからさ……」

「ひどいよ……私が、何をしたって言うの……」


 いや、まったくその通りです。

 南無さんはローブをもぞもぞとしながら着ると、くっつくようにして横に座る。


「ありがとう、アーク……」

「いや……俺もこの可能性に気づくべきだったし……ごめん…」


 震えるようにして泣く南無さんが不憫で仕方なかった。

 これから彼女は、どうやって風呂に入ればいいんだろう……と、しばらく考えを巡らせる。

 ……温泉を掘る……どう考えても無理だ。

 自家製の風呂を作るか……でも作り方なんて……あっ!


「南無さん、風呂、作ろう!」


 突拍子もない申し出に、南無さんが目を丸くしている。


「いや、俺さ、田舎暮らしだったからさ、本物の五右衛門風呂を見たことあんだよ。もう使われてなかったけどさ、大体どんなのかは知ってるぜ。それに南無さん、鉄の鍛冶師じゃん。絶対作れるよ!」

「…………ほんとに?」

「おぅさ、失敗上等、トライ&エラーだ。成功するまで、付き合うぜ!」


 だから泣くなよ、と笑って見せる。


「……てか南無さん、まだずぶ濡れじゃん。いくらなんでも風邪ひくぞ」


 言いながらマフラーを貸そうとすると、南無さんがぐっと押し返してきた。


「アーク、ありがとうね…………でもそのマフラー、絶対に他の人に渡しちゃだめだよ」

「なんでさ?」

「アークさ……その時のイベントのこと、ちゃんと覚えてる?」


 ……妙な事を言う。覚えてるも何も……


「俺が早々に風邪ひいて、ぜんっぜんインできなかったやつだよね」

「……そう……イベント賞品1位がサモナーのマントで、2~5位が赤影のマフラーだったやつ……」

「そうそう、まさか鈴屋さんがゲットしちゃうなんてね。鈴屋さん、3位だっけ……惜しかったよね。もう少しでサモナーのマントゲットできたのにさ」


 そこで南無さんが、はぁと大きなため息をひとつする。


「……鈴ちゃんが、有名な廃プレイヤーたちを利用して順位を稼いでたのは知ってる?」

「うん、もちろん。さすがだぜ、鈴屋さん。廃プレイヤーにローテさせながら、ほとんど寝ないで狩りしてたんだろ?」

「……じゃあ、イベ終了前日の順位、鈴ちゃんが1位だったのは知ってる?」

「え……それは初耳……へぇ、すげぇな、ほんとにサモナーのマントゲットしかけてたのか」


 そこでまた、溜め息をひとつされる。


「アーク……お風呂作りのお礼代わりに、今回だけ教えてあげる。鈴ちゃんはね、最終日の終了間際に“体調崩した”って嘘をついて、ログアウトしたのよ」

「……へ……?」

「だ・か・ら、鈴ちゃんは、最後にわざと順位を落としたって言ってるのよ」


 えっと、どういうこと?

 ……思考が全く追いつかないんだけど……


「この鈍感ニンジャ! 鈴ちゃんはね、イベが始まった初日から狙っていたの! アークのために、そのマフラーをっ!」


 ……え?


「鈴ちゃんは、サモナーのマントなんて最初から眼中になかったのよ……ほんと馬鹿……」


 いやいやいや……だってあのサモナーのマントだよ?

 世界に一個しかない、超絶性能のウルトラ・レア・アイテムだよ?

 あれを取れてたのに、わざと順位を落とした?

 ……だってさ、あの時……


“寝ないでがんばったけど、さすがにサモナーのマントは手が届かなかったよ~。ニンジャ用の装備なんて私いらないから、あー君にあげるね”


 ……って言ってたじゃん、いつも通り語尾にハートをつけてさ……


「あの後ね、わざとじゃないかって、協力してた廃プレイヤーに陰口まで言われてたのよ。まぁ、それはすぐにおさまったけどね」


 ……なんだよ、それ……


「なのにさぁ、アークったら、いかにも古い忍者みたいでダサいって言ってさ。なかなかそれつけなかったでしょ?」


 ……なんだよそれ……超だせぇじゃん……俺……


「アーク、聞いてる?」

「……南無さん…………すまね……ちょっと……今すぐ行かなきゃ……」

「えぇ? 私どうやって下りるの?」

「向こうに掃除用の梯子があったから!」


 そう言うと、屋根から飛び降りる。

 しゅたんっと片膝をついて着地をすると、ちょうど目の前に鈴屋さんが現れた。


「きゃ……な、なに、あー君?」


 それはまさに姫の目の前で片膝をつくニンジャのソレだった。

 そのままの姿勢で顔だけを上げる。


「どうしたの、あー君。あんまりにも遅いから出てきちゃったよ。さっきの悲鳴はなんだったの?」


 胸が詰まって何も言えなかった。

 まともに目を見ることなんて、できるわけがなかった。

 俺は黙って……視線を外しながら横に並ぶ。


「……鈴屋さん……」

「ん? なぁに、あー君」


 俺は黙って、マフラーの片方を鈴屋さんに巻く。

 不意を突かれたのか、鈴屋さんも驚いて拒否できなかったようだ。


「……あ、あの……あー君?」

「……いいから」


 声が震えてしまっていた。


「どうしたの、あー君。お風呂入らないの?」

「……いいから、今日は帰ろ。いっぱい話さなきゃいけないことがあるんだ」


 鈴屋さんは火照った顔を隠すように真っ赤なマフラーを引き上げて、小さく頷く。


「強引だなぁ、あー君はぁ」


 それでもそのマフラーの下で鈴屋さんは笑顔を見せている、そんな気がしていた。

【今回の注釈】

・あちらのカウンターに座っている剣士様からです……これを思い切り断るという空挺ドラゴンズのワンシーンはよかったです。鈴屋さんは美味しくいただきます

・真っ黒なツインテールに、黒のミニスカート+膝上までの黒いブーツ……遠坂凛ですすみません。ブーツなのはストッキングがこの世界にないからです

・チャレンジシート……実在しました。けっきょく誰も口説き落とせなかったようです

・赤いマフラー2人でしてぇ~~~何も怖くないってのかよ……有名な歌。通して聴いたことはないですごめんなさい

・何個もキャラも作ってるうちに段々タルくなって……自分あるある。ある時から面倒になって自分をベースにつくってます

・魔法無効化エリア……あまり範囲が広くないため、扉や出入り口に仕込まれているようです

・五右衛門風呂……いまだに使ってる人がいます。入り方に工夫アリ

・廃プレイヤーローテ……とあるMMORPGであった、寝てる間に廃プレイヤーに引きずってもらうか、垢まわしという手段で上位賞品を毎回独占するガチ勢の戦法。エンジョイ勢には無縁の領域



南無さんと南無子です

挿絵(By みてみん)

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