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何もない…何も
いや…ただ…形が無いだけ?
何もないのではなくて、ただ、見えないだけ?感じないだけ?
「何なの!何なのよ!…わたしが!私が何か悪いことでもしたの!何なのよ!全部…消えてしまったの?消えてなくなって…全部無くなって私だけ…誰か!誰か!誰か!誰か!誰か!誰か!誰か!誰か!誰か!誰か!誰か!誰か!誰か!誰か!誰か!誰か!誰か!誰か!誰か!誰か!誰か!誰か!誰か!…嫌がらないこ、拒ばないからだから!ねぇ!誰か!誰か!お願い誰か!…私を、私を一人にしないで!お願い!誰か!」
何も無い世界に声は響くわけもなく、今自分の姿がどうなっているかもわからなかった。
静寂が闇が無を形作る世界の中で、それは当然のように訪れた。
私の意識が薄らいでいくのがわかった。
それを理解したとき、私は恐怖とともに、安堵というか、嬉しさみたいなものを感じていた。
『…良かった…このまま何も無い世界に一人ぼっちにならないで…』
そんな奇妙な安堵感の中、明日、観に行くつもりでいた映画の事をふと思い出した。
『映画観たかったなぁ…』
「……お……ぶ…おい、君!だい…ぶか!おい、君大丈夫か!」
私は、眼を覚ました。
背中に何か硬く冷たいものを感じた。
生暖かく埃っぽい空気が肺の中を満たし、思わず咳き込んだ。
「ごほ、ごほ」