3/6
3
文字や記号で埋め尽くされた世界
その全てが動いている。
思わず、両手で顔を覆い隠そうして、私は手を止める。
手が、私の手が…文字になっている…
慌てて、自分の体を見回せば、それすらも文字や記号の集合体になっていた。
愕然としながら、思わず指先と思われる部分を凝視すると、文字や記号が小さな粒子の様なもので構成されている事に気づいた。
もう片方の手で、それに触れてみると…音もなくサラサラと崩れて行く。
同時に指先に激痛がはしる。
「ひぃひぃ…いだ、痛い…いぃやゃ、嫌ーー!!」
私は大声で叫ぶと、文字や記号がドロドロと溶けるように形を変えて行き世界が、元の形に戻って行く。
そして何事もなかったように世界が元に戻る。
唯一、私の左の人差し指だけが、水飴のように溶けて地面に滴り落ちそうになっていた。
私は無意識に右手で溶けた指をすくいとるような仕草をした。
気付いたときには、痛みも無くなり、指が元に戻っていた。
何事もなかったように世界が元に戻っていた。
そして、平凡な毎日が続いて行く…はずだった。