魔界の現状
「この世界には
人間と魔族の二つの種族が暮らしているの」
そう言ってファムは机に向かうと
机の引き出しから部屋に放り込まれた時と別の
新しい地図を出すと二つの地図を机の上に並べた
引き出しから取り出した地図は
さっき見た地図と比べると
巨大な大陸が一つだけ書かれていて
大きさは魔界の地図の半分ほどだ
「こっちが人間の住んでいる国よ
数年前から私たち魔族と
ごく少数だけど交流もあったの」
ファムは小さな方の地図を指差して
優しい表情を浮かべる
「魔族が人間に魔法を教える代わりに
人間は魔族に優れた加工技術や
よく効く薬の作り方を教えてくれたわ」
その時のことを思い出しているのか
ファムの表情が明るくなっていく
「昔は、二つの国はすごく離れてて
交流も大変だったんだけど
魔族の王がサタン様になってからは
魔王様の転移魔法を応用した《転移門》で
国と国を繋いでお互いに行き来が楽になって
積極的に人間と魔族が関わるようになったわ」
だがそこまで話したところで
突然楽しげに話していたファムの顔が曇りだした
「でも人間の国の王が
新しい王に代わってから人間達のようすが
突然おかしくなったの
いきなり魔王様の《転移門》を使って
魔界に大勢の戦士達を
送り込んで来たと思ったら
圧倒的な数の力で
瞬く間に大陸の一つを占拠してしまった
幸いなことに人間達は魔族よりも
魔界の動物や植物に興味があったみたいで
追いかけられたりせずに
魔族達はほぼ無傷で大陸から避難できたわ」
そして地図の
赤いバツの書かれた大陸を指差す
どうやらこの赤いバツの書かれた大陸が
人間達に侵略された大陸らしい
「人間達に何があったのかは分からないけど
まずは奪われた大陸を取り戻すのが最優先よ!
ここにはたくさんの魔族達の
思い出が詰まっているの」
そういうとファムは悔しそうに拳を握って
俺の顔を真っすぐに見つめてきた
「出雲優、あなたには大陸奪還の
手伝いをしてほしいの」
「ちょっと待ってくれ
そこでなんで俺が出てくるんだ?」
当然の質問にファムは
俺の目を見ながら真剣な眼差しで答える
「それは、・・・
あなたが人間を恨んでるからよ」
「「は?」」
いきなり訳の分からないことを言われ
俺と京子の声が重なる
俺達の動揺を無視して
ファムが話の続きを話す
「人間達から大陸を取り戻すには
人間の目線でものを見ることのできる人材が
必要だと思った私は魔王様に進言して
別の世界から人間を連れてくることにしたの
そして行った世界で見つけたのがあなたよ」
ファムは俺から目を離さずに続ける
「あなたの世界の人間に
この辺りで一番人間を嫌っているのは誰?って
聞いたらあなたの名前が出てきたのよ」
「さてはあの時朝の通学路にいた
女子生徒ね・・・
やっぱりあの時
説教しておけばよかったわ・・・」
俺の隣で京子が何やらブツブツ呟いている
目から光が消えている
・・・とても怖い
「人間を嫌っている方が
私達の役に立つだろうと思って
あなたを連れてきたって訳よ」
「なるほどな・・・
事情は大体分かった、ちなみに俺は別に
人間を嫌ってるわけじゃないんだが
それでもいいのか?」
「えぇ、それは京子と話してるあなたを
見て気付いてるわよ
そんなことより、私はあなたが
個人的にとても気に入ったわ」
俺が正直に言うと
ファムが気にしていないように
手を振りながら俺に向かって答える
「他に質問はあるかしら?」
「じゃあ・・・」
ファムの質問に
俺は家で話を聞いたときに
気になったことを聞いてみた
「俺の家で言っていた
《ろくな食事もできない》ってのは?」
「ッッッ!!!」
その質問にファムはビクッと肩を揺らすと
なにも言わずに部屋のドアに向かって
ダッシュで部屋を出ていこうとする
「「待って(ください)!!」」
すると突然ファムの左右に立っていた
シェリーとメアが
がっしりとファムの肩を掴んで詰め寄る
「ファム様!!
私の料理に何か問題がありましたか!?」
「ろくな食事もできないなんて
ひどいよファム様!!」
二人に気圧されながら
ファムが反論する
「だってメアの料理は
雑でおいしくないし
シェリーは普通に料理下手だし・・・」
それを聞いたシェリーは
稲妻に打たれたようにその場に崩れ落ちると
狼のような耳をペタンとふせて
その場でいじけ始めた
「私はファム様の
お役に立ちたかっただけですのに・・・」
「まぁ、元気だしなよシェリー
私達は他にもできることがあるから」
メアがシェリーの肩をたたいて優しく慰める
仲の良い二人だな・・・
「さては俺を連れてきたのは
食事が目的か・・・」
「そ、そういう理由もないこともないけど・・・
あなたには人間として魔族に
人間の生活や習慣を教えさせるために
ここに呼んだのよ!!」
ファムが慌てて反論するが
説得力は皆無だった
そんなファムに呆れながら
隣に立っている京子に今後のことを聞いてみる
「京子はどうする?
話を聞くかぎり京子は
今回のことに巻き込まれただけみたいだし
京子は元の世界に帰っても・・・」
「私は優くんと一緒なら
他はどうでもいいよ
どうせ魔族を助けたいとか
言いだすんでしょ?」
「京子・・・」
俺が京子の言葉に感動して
頼もしく思っていると
「ねぇ、今キュンときた?
私のこと好きになった?」
すぐに京子はワクワクした顔で
俺の顔を下から覗き込んできた
「・・・台無しだな、
まぁ確かに事情を聞いたからには
放ってはおけない」
「ほんとに!?」
俺がげんなりした顔で京子の質問に答えると
それを聞いていたファムが
嬉しそうに俺に詰め寄ってくる
「ありがとう!!
じゃあ早速食事にしましょう!」
「本当に食事以外の
目的があるんだろうな・・・」