ー幕間ー 騎士王の予感
時間はメイの屋敷の事件から
少し前に戻る
優とソフィーから別れ
王に報告をしに行った《騎士王》の話
ここは城の最上部
限られた立場の人間しか
入ることが許されない【玉座の間】
煌びやかな宝石や装飾品で着飾った
貴族と呼ばれる人間達が
玉座に腰掛ける男の横に付き従っている
玉座に座っている男は
短く整った金髪をオールバックにしており
貴族達よりも遥かに美しい装飾の施された杖や
宝石をはめ込んだ指輪をしている
男は玉座に腰掛けたまま
狼のように鋭い視線を
男の元へ訪ねてきた《騎士王》に向ける
そんな【玉座の間】に
苛立ったようなギルバートの声が響く
「なぁ、なんとかならねぇのか?」
周りから大勢の視線を浴びながら
ギルバートは堂々とした態度で男に話しかける
「・・・無理だな」
だが男は少し沈黙した後
ギルバートの頼みを正面からきっぱりと断る
「そこをなんとか・・・」
「無理なもんは無理だ」
「くっ・・・」
玉座に腰掛けた男は
またしてもギルバートの頼みを拒否する
「お前の気持ちは分かるが
今は街の復旧作業が最優先だ。
ただでさえ物資が不足しているんだ
・・・分かってくれ」
男にそう言われると
ギルバートは悔しそうに唇を噛み
黙って男に背を向けると玉座の間から出て行く
「悪いな・・・」
玉座に座る男の声が背後から聞こえた気がした
「クソッ・・・
あの分からず屋が」
城の長い廊下を歩きながら
ギルバートは一人で悪態をつく
「どうしたの?
そんなにイライラして」
「ん?
あぁ、アンリか」
突然後ろから聞こえた声に振り返ると
いつの間にか背後に純白のドレスをきた
金髪の美少女が立っていた
「お前の兄貴に
門前払いを食らったんだよ」
前国王の後を継ぎ現在24歳で
この国の頂点に立つ男
【ロイ・グレイフォード】の妹
【アンリ・グレイフォード】
堅実で慎重な兄とは違い
活発な性格で
よく小さな頃から王家の勉強を
サボって《騎士団》に遊びにきていた
そのせいか《騎士団》にいた
口の悪い奴らの影響で口調が少し荒々しいが
これでも実質この国のNo.2だ
「あぁ・・・
兄さんは頭が固いから」
「まったくだ!
何が街の復旧作業だ
そこに住む人たちのことを考えろ!!」
今、俺達の国は
魔族による戦闘で倒壊した
建物や公共施設を新たに立て直すために
資源の豊富な魔界へ騎士団の一部を派遣している
すると当然そこで働く騎士達への
食料や医療機器の提供が必要になってくる
よって
現在、避難所に使える金が
一時的だがかなり制限されている
街中で子どもたちが遊んでいたのも
避難所での生活に飽きてしまったからだろう
本来なら娯楽品などを
送るべきなんだろうが・・・
「あの野郎・・・」
現国王のロイは第一目的は
物資の調達だと言って譲らない
「魔族からの報復攻撃も考えられるってのに
騎士団を戻そうともしねぇ」
「でも、まだ動きは無いし、
そもそもあの大陸から
魔族は逃げたって聞いてるけど?」
「魔族には《転送魔法》があるからな・・・
何が起こるか分からねぇ」
「心配しすぎじゃない?」
ギルバートの言葉を
アンリは軽く受け止める
「だといいんだがな・・・
妙な胸騒ぎがするんだ」
「・・・」
ギルバートが押し黙ると
アンリは不安そうにギルバートを見る
「えっと・・・ギル!!」
「何だよ?」
重苦しい雰囲気が嫌だったのか
アンリが手を叩いて楽しそうに話し出す
「今度、隣国に遊びにいかない?」
「あ゛?
お前この緊急時に何言ってんだ」
「いや、その・・・ね!!」
「何が『ね!!』だ」
何とか重苦しい雰囲気は消せたが
今度はアンリがギルバートに怒られだした
「どうせ暇でしょ?」
「俺を誰だと思ってんだ
暇な訳ねーだろ
・・・はぁ、まったく
お前はもっと常日頃から姫としての自覚をだな」
「あーあー、聞こえないー!!」
説教が始まる気配を敏感に察知したアンリは
そっぽを向いて
ギルバートの話を耳を塞いで無視する
「おい・・・アンリ・・・」
するとギルバートは
アンリの態度に腹が立ったのか
額に血管を浮かび上がらせて
ゆっくりとアンリに近づいてきた
「あ、あれ・・・
もしかして、ギル怒ってる?」
ギルバートの気迫に
壁際にジリジリと追いやられるアンリ
「・・・ごめんなさい、は?」
「ご、ごめんなさ~~い!!」
そろそろ本気で怒り出しそうな
ギルバートを見て
アンリはすぐに白旗を上げた




