魔界への旅立ち
なぜあのときこの少女を
簡単に家に入れてしまったのか
目の前で俺の作ったトンカツを
おいしそうに頬張っているファムの姿を見ながら
俺は自分の行動を振り返り
わりと本格的に後悔する
「どうしたの?
ため息なんてついて」
自分がそのため息の原因だとは
まったく思っていないようで
ファムはキョトンとした顔で俺を見てくる
「何でもない、それとさっきの話のことなんだか
ごっこ遊びなら
他のところでしてくれないか?」
「・・・もしかして、この私が
嘘をついてるとでも思ってるの?」
もぐもぐとトンカツを頬張りながらも
ファムは俺を鋭い目つきで睨んでくる
「逆に信じてもらえると思ってたことに
俺は驚いてる」
「!!」
「それを食べ終わったら
ちゃんと家に帰るんだぞ」
「ぐぬぬ・・・
そんなことを言っていいのかしら
私を怒らせると痛い目を見るわよ?」
「・・・あ~そうだな
分かったよ、行けばいいんだろ?」
ファムの相手をするのが
面倒になった俺は
とりあえず納得した振りをすることにした
こういうタイプの子供は
一度満足させるまで話を聞かないと
こちらの話を聞いてくれないからな
・・・って本に書いてあった気がする
子供と話したことがないから
よく分からないが・・・
「やっと分かってくれたのね!
そうと決まれば急ぎましょう!
優も準備が必要だろうから
少し待ってあげるわ
早く荷物をまとめなさい!!」
そう言ってトンカツを最後まで食べ終えると
ファムは椅子に行儀よく座ったまま
俺の準備を待ち始めた
俺がその姿を眺めていると
不意に玄関のドアの開く音が聞こえ
京子がリビングに入ってきた
「優く~ん、今日の夕食は・・・って
誰?そのかわいい女の子
優くんに女の子の知り合いなんていたっけ?」
「家の前で会ったんだ」
そう聞くと京子はファムを
物珍しそうに眺め始めた
さすがにジロジロ見られて居心地が悪いのか
ファムが俺に助けを求めるように聞いてきた
「この人はあなたの知り合い?」
「あぁ、そうだ
お互いに自己紹介でもしたらどうだ?」
俺が提案すると二人はお互いを見合った後
おずおずと自己紹介を始めた
「私は、川上京子
そこにいる優くんの幼馴染みだよ」
「私は、ファム ・スルト
優をスカウトしに来たわ」
「スカウト?」
「えぇ、ぜひ優には
私の執事になってほしいのよ」
「執事に?」
京子は困惑した眼差しで俺を見てくる
「どうやら本気らしいぞ」
「本気らしいって
優くんもしかしてこの子について行く気?」
「いや、断るに決まってるだろ」
「何でよ!?」
ファムが俺の言葉を聞くと
勢いよくテーブルに手を叩きつけながら怒り出す
「初対面の子供の言うことなんて
本当に聞くわけないだろ」
「さっきと話が違うわよ!!」
俺の答えを聞いても
ファムはしつこく俺に迫ってくる
「お願いよ!
あなたの力が必要なの!」
「そう言われてもな・・・」
俺が困惑していると
ファムは目を潤ませながら
必死に俺を説得してくる
「このままじゃ
ろくな食事も食べられないまま
奴らに殺されてしまうわ!」
ファムの突然の言葉に京子が驚く
「えっ!
ファムちゃんは命を狙われてるの!?」
「・・・えぇ、そうよ
このままだと私の命は長くないでしょうね」
「・・・信じるなよ?京子」
しかし俺はファムの必死な様子を見て
追い返すのも可哀想に思えてきた
こんなに必死なのは何か訳があるのか?
何にしても
このままじゃ帰ってくれそうにないな・・・
「分かったよ、助けてやる」
そう言って俺はファムの頭を優しく撫でた
「本当!?約束よ優!!」
するとファムは嬉しそうに俺の名前を呼んで
顔を見上げてきた
「でも、優くんを危険な目に
合わせるわけには・・・」
だが京子はファムの話を聞いて
ますます不安な顔になり俺の心配をしている
少女の話を真に受けているピュアな京子を
安心させるために小声で話しかける
「大丈夫だ京子
そんなに心配しなくても
そのへんの公園に連れて行かれて
ごっこ遊びをするぐらいだろう
本当に危なくなったら
俺達が言って止めてやればいい」
俺が京子に話し終わると
俺の答えを聞いたファムが
俺の腕に抱きついてきた
「ありがとう優!
さぁ、早く行きましょう!」
「あぁ、
どこに行くんだ?」
俺達の話を聞いてホッとした京子は
突然ファムが俺に抱きついたことに驚き
ファムを俺から引き離そうと
必死にファムの腕を引っ張っている
「ファムちゃん、
優くんに引っ付きすぎ!」
そんなファムと京子を無視して
準備を始めようとすると・・・
突然床に大きな穴が空いた
「なに!?」
「えぇっっ!?」
フワッと一瞬体が浮く感覚に驚くが
俺達はいきなり空いた穴に
なすすべもなく真っ逆さまに落ちていく
「善は急げって言うし
さぁ、いくわよ!」
そういうと俺達三人は
突然現れた穴の中へ一緒に落ちていった