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Bパート

「世界には自分と似ている人が何人いるのかな?」


「言っても、精々三人くらいじゃないですか?」


僕の答えに年の近いコンビニ店員は笑って話し始めた。

少女は笑っていた。

泣きたくても泣けないから。


少女は笑っていた。

忘れようにも全く忘れることができないから。


少女たちは笑うしかなかった。

___どうして私だけが?___

そう思うと世界を呪ってしまいそうだったから。


だから・・・、

少女は欲した。

全てを欲した。全てが手中に入れば、もう泣くことはない筈だと思ったから。


だから・・・、

少女は拒んだ。

全てを拒んだ。全ての存在が消えれば、もう孤独に悩むことはない筈だと思ったから。


少女は笑いながら希った。

「どうか、全てが手に入りますように」


少女は笑いながら希った。

「どうか、全てが消え去りますように」


~*~


翌日、少女は奇妙な音で目を覚ます。


チャリン・・・チャリン・・・チャリン・・・


「・・・ん。・・・・・・なんの音?」


眠気眼を擦る少女はその左手に違和感を覚える。


「・・・ゥワッ!?」


掌を開けば、いとも簡単に違和感の正体とご対面できた。

掌のちょうど真ん中あたりにソレあった。

スッと横に切れ目が入っていた。さながら掌を鋭い刃物で裂いて出来た傷のような切れ目。

けれどもソレはただの切れ目ではなかった。切れ目の中に見えたのは真っ白な歯。歯、歯、歯。

いつの間にか、少女の掌には人の「口」のようなモノが出来ていた。

ソレは少女の意思とは関係なく、徐に動き始める。その切れ目を結び、何かを咀嚼するかの如くモゴモゴとさせている。


「ヒィッ!!」


少女は咄嗟に左手を握る。怖い。単純で純粋な恐怖。

もうこれ以上、この「口」を直視することができない。

体が不随意運動のレベルで、ソレを握り潰して隠そうと必死に拒絶している。

しかしながら、掌のソレは絶え間なく動き続ける。「どうしよう」と焦れど焦れど、握れど握れど、一向に止まることのないソレの動きに、少女の恐怖と焦りは募るばかり。


「何なのよ、コレッ!!」


目一杯左腕を伸ばし、握り拳を出来るだけ身体から離す。

モゴモゴは止まらない。寧ろ、咀嚼のような動きの速度が徐々に早まっているようにも感じられる。

すると今度は、今まで感じていた違和感とはまた違う違和感が掌で蠢き始めたのを少女は感じ取る。掌というよりは手の中。文字通り「手中」で何か塊のようなものが蠢いている感覚。その塊が切り目を刺激する感覚。


「嘘でしょ?・・・まさか」


___あの「口」が何かを吐き出したがっている?___

少女の脳裏にその言葉が過る。

この状況に少女は困惑を隠せない。


___もしも、得体のしれない何かが外に吐き出さてしまえば・・・___

その先を想像することなんて出来ないし、出来ることなら想像したくもない。

しかし、少女の思考は最悪なことに想像したくない結末ばかりを導き、刻一刻と恐怖を煽る。

そこに追い打ちをかけるかのように、またもや新たな違和感が彼女を襲う。

手中の塊の数がどうも増えているような感覚。その証拠に握る力を上回る力が手中からかかり始める。


___もしかして、掌の「口」の中が塊で一杯に?___

手中からかかる膨張の力はどんどん増していくばかり。それはつまり、塊が増え続けていることを意味している。その塊の正体が判らない以上は、外へと放出する訳にはいかない。・・・いけないのだが、


「もう・・・ダメぇ・・・」


力み過ぎて腕が困憊してしまった少女は、ついに限界を迎えてしまう。

力を抜いた指は塊に押され、勢いよく開かれる。少女は覚悟と同時に涙する。


ジャラララララララララララララ・・・


放出された塊は聞き慣れたような聞き慣れないような音を出して、すぐ下の床に散らばった。


「・・・・・・・・・え?」


恐る恐る目を開いた少女が見たものは、足元一帯の床に散らばった白銅色の塊だった。


「・・・これは」


顔を近付け、目を凝らす。それは、この国で発行されている百円硬貨のようなモノだった。

正直に言えば、「のようなモノ」は要らないと思われる程、どかからどう見てもこの国の百円硬貨なのだ。それが足元に散乱している。ざっと見ても百枚程度あるだろうか。


「・・・これが、私の?」


少女はあれ程までに怖がっていた掌の「口」を見つめる。

すると、再び百円硬貨を吐き出す「口」。今度はたったの一枚だけ。

しかし「口」は、すぐに次の百円硬貨を吐き出した。また次の一枚・・・また次の一枚・・・、それはある一定の間隔で先程のようにドバッとではなく一枚ずつ。痛みらしい痛みはないが、やはり「口」はこちらの任意で動かすことが出来ないよう。ただただ「口」は百円硬貨を吐き出し続ける。


「・・・何がどうなってるの?」


少女はしばらくの間、呆気に取られていた。


~*~


少女はしばらくの間、呆気に取られていた。


「・・・何なのよ!!こんなの望んでなんかないわッ!!」


少女の右手は近くにあったノートを目掛ける。

ガツガツ・・・。

右の掌に現れた「口」はノートを貪る。

少女の右手は近くにあったテーブルを目がける。

ガツガツ・・・。

少女の制止などお構いなしに動き続ける掌の「口」。

少女の右手は近くにあったドレッサーを目掛ける。

ガツガツ・・・。

ただただ食らい尽くす「口」に少女は為す術もないまま、ただ嘆くだけ。

ただただ食らい尽くす「口」のその食欲とその力強さに、ただ流されるだけ。


ガツガツ・・・。バリバリ・・・。ベキンッ、ベキベキ・・・。


「私は全てが欲しいって言ったの!!何で!?どうしてよ!?これじゃあ、私は本当に全てを失ってしまう!!」


問答無用、一度食べたら食べ切るまで、次から次へと全てを食らい尽くす少女の右手の「口」はその勢いを衰えさせることなく、ついには少女の住処を食らい始めた。


~*~


「・・・・・・・・・暑い」


茹だる暑さの中、私は歩く。ある目的地を目指して、ただただ街を歩く。


チャリン・・・チャリン・・・チャリン・・・


「・・・・・・」


耳障りな音は続く。

どうやら、この「口」のようなところから出てくるモノは百円玉のようで、それは一定のリズム・・・というか、一秒に一枚のペースで吐き出されている。今のところではあるが、さっきから腕時計で計っているのでまだ一秒一枚ペースではある。私は上着の左ポッケトの中に貯(溜)まった百円玉を投げ捨てる。


「・・・こんな筈じゃないのに」


私は全てを拒絶した。もう何も要らないと神に願った。・・・それなのに。

私は上着の右ポケットから、持ち合わせていた最後のレジ袋を取り出す。

上手い具合に左手首にレジ袋の持ち手を結びつけて、百円玉をその中に貯める。

正直、どこから来たお金なのか分からないし、あまりに不気味すぎて使う気も起きない。

もし、この百円玉が誰かの百円なら・・・泥棒になってしまうのだろうか?

勝手に吐き出すのはやむを得ないとしてくれても、それを使ってしまうとやはりアウトになりそうだ。


「・・・これが最後の袋」


耳障りな音はかなり小さくなった。微かには聞こえるが気になる程度ではない。

気になるのは、街行く私へ注がれる人、人、人の熱視線。そりゃそうだ。

私は百円玉をまき散らしながら、吐き捨てながら街を歩いているのだから。

善処はしたが・・・これが結果。街を行く理由も結果が結果なだけに仕方なくなのだ。不本意ながら街を歩いているのだ。だってもう、私の住処はとっくに百円玉で溢れ返っているのだから。


「・・・もうこんな時間」


この「口」が百円玉を吐き出しつ続けて三日と半日。

未だに止まる気配はない。この先もこれは無限に百円玉を吐き続けるのだろうか?

百円玉貯金箱と化した住処を後にして半日。

街行く人の視線に死にたくなる。拒絶したいのに、全て拒絶したいのに・・・。

住処に居ても百円玉モノに囲まれ、外は外で、案の定といった人々の反応。

この「口」が百円玉を吐き出し続ける限り、この地獄はずっと続くのだろう。

そう思うと、夜も眠れない。実際、ここ二日は全然寝ていない。全く一睡も取っていない。


「・・・もう疲れたよ」


限界は近い。

私は歩く。

ただただ歩く。

微かに見え始めた、あの海を目指して。


~*~


右手に「口」を持つ少女は諦めていた。

いずれ全て終わる筈だから。

右手は隣の家を平らげた。

右手は隣の人を平らげた。

右手は見境なく貪り続ける。


「あ~あ・・・ついに食べ始めちゃった・・・アハハ・・・」


少女は笑いながら涙を流す。

待望の涙を少女は流す。

ガツガツ・・・。

少女の右手は「大地」を噛み締め始めた。




fin


世界には自分に顔が似ている人が3人から4人ほど存在しているとされています(※多く3人だとか)

しかし、自分と境遇が似ている人なら一体どれだけ存在しているのでしょうか?

もしも、「自分そっくりの人」が自分と「同じ状況」に陥っていたら?


こんな奇跡滅多にないですよね。

まぁ、絶対に歩みたくない軌跡わだちですが。


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