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Aパート

これは、ある一方の視点。

7月某日、某所にて。


午前中で今日の分の講義を受け終え、アルバイト先である古書店に向かう途中で昼食を買うためいつも利用している馴染みのコンビニへ立ち寄る。


「以上3点でお会計は308円になります。・・・今日もバイトです?」


「えぇ、今日もバイトです。この前、長く勤めてた古株さんがまた一人辞めてしまって。それで自分が・・・あ、すいませんが細かいのないみたいなんで、千円札これで」


「大丈夫ですよ。では1000円お預かりしますね。・・・何処も大変なんですね。こっちもちょうど昨日、高校生がまた一人辞めてしまって。せっかく新しく子が入ってくれたばかりなのに・・・っと、こちらレシートと692円のお返しになりますね」


「どうも。まぁお互いに無理せず頑張りましょう」


「はい。それじゃあ、バイト頑張って下さい」


お釣りをレシートごとジーパンのポッケに詰め込み、「ありがとうございました」を背中で受け止め、店内から外へ。

今しがたの会話。年も近しいことがきっかけで顔なじみになったコンビニの店員とのたわいない会話。

最近の自分の中で癒しになりつつある。こういう会話ができる奴がほとんどいないってことが一因な気もしないではないが・・・まぁそれはそれとして。


チャリン・・・チャリン・・・チャリン・・・


不意に聞こえてきた妙な音と自分の前をフラフラと横切る人一人。

ロングスリーブスのパーカーにミニスカート姿。トップとボトムの季節感が真反対な組み合わせだがそんな格好。というか、よく見ると裸足のようだ。・・・女性だろうか?いやしかし、最近ではこういう類の服装を好む男性も増えてきていると聞くので後ろ姿だけで服装だけで判断するのは止めた方がいいのか?後ろ姿だけで分かりそうなのは・・・少し低い背丈と問題のある・・・ではなく素敵な服装くらいか。


チャリン・・・チャリン・・・チャリン・・・


いや、どうやら服のセンスの問題よりも他に問題があったようだ。

素敵な服装の後ろ姿は、歩く度にあるモノを落としながら歩いている。

それがこの妙な音の正体だ。

素敵な服装の後ろ姿が歩く度に落としていたあるモノがこちらまで転がってくる。

これがこの妙な音の正体か。


チャリン・・・チャリン・・・チャリン・・・


「・・・百円玉?」


自分の靴に当たりその場に倒れる白銅の硬貨。

“100”の文字が刻まれている白銅の硬貨。

百円硬貨だろうか。

いや、どう見ても百円硬貨にしか見えない。


「よいしょ」


手に取ってみて確信する。

どっからどう見ても百円硬貨だ・・・と思うのだが。


「・・・何がどうなってるんだ?」


チャリン・・・チャリン・・・チャリン・・・


どっからどう見ても百円硬貨だと思われるモノがあちらこちらに散らばっている。

どっからどう見ても百円硬貨だと思われるモノを歩く度に落としまくっている素敵な服装の後ろ姿がいる。

素敵な服装の後ろ姿が歩いてきたであろう方向に目を向ける。

どっからどう見ても百円硬貨だと思われるモノを拾うランドセルを背負った少年。

どっからどう見ても百円硬貨だと思われるモノと素敵な服装の後ろ姿のふたつを交互に見る腰の曲がったお婆さん。


「・・・えぇっと」


再び素敵な服装の後ろ姿に目をやる。

フラフラしていて歩くのが遅いのか、自分との距離はまだそこまで出来ていない。

それよりも、何かチャラチャラしてそうな格好の男に絡まれている素敵な服装の後ろ姿。

おやおや、白昼堂々ナンパか。いや、もしかするとカツアゲも考え得るか。


「ん?」


どうやらチャラチャラしてそうな男はどっからどう見ても百円硬貨だと思われるモノを拾ったようで、それを素敵な服装の後ろ姿へと差し出している。チャラチャラ男、いいヤツじゃないか。軟派とか思ってしまってすまなかった。(※というか、もう面倒だから後ろ姿にする。)

・・・が、何故かどっからどう見ても百円硬貨だと思われるモノの受け取りを拒否している後ろ姿。

少し様子を見ていると、男は諦めたのかどっからどう見ても百円硬貨だと思われるモノを持ったまま後ろ姿から離れていく。


「・・・ホントにどうなってる?」


おかしな状況に混乱し始める・・・いや、困惑か。

落としてる当人が受け取らないとは一体全体どういう事だ?

まさかだと思うが、硬貨のばら撒きが目的?いやいや、まさか・・・。


「・・・まさか・・・だよな?」


自分でも何故そう動いたのかは分からない。

これ以上、困惑するのが嫌だったのか。

ただ単に興味本位だったのか。

何にせよだ。自分の足は後ろ姿を追いかけ始めていた。

コンビニで買った今日の昼食が入ったレジ袋に散らばっているどっからどう見ても百円硬貨だと思われるモノをある程度拾いつつ、後ろ姿を追う。


チャリン・・・チャリン・・・チャリン・・・チャリン・・・


「・・・あ、あの!」


追いつきそうになったところで声をかける。

後ろ姿は肩をピクリとさせ、こちらを振り返ってくれた。

第一印象は目元にクマさえあれど、とても可愛らしい女の子・・・といったところか。年下だろうか?

意外というよりは、やはりだ。いや、ある意味良かったと捉えるべきなのか?

パーカーミニスカートの背の低い女の子。というか、この外見であれば女の子であることを願う他ない。

これで男の子だと言われても、当てられる余地ヒントがあまりにもなさすぎる。

まぁそういうことはさておきだ。


チャリン・・・チャリン・・・チャリン・・・


「・・・・・・・何でしょうか?」


目の前にいる後ろ姿改めパーカー少女は何故自分に呼び止められたのか分からないのか、怪訝そうな顔で

こちらを睨んできた。普通に怖いのだが。クマのせいで2割増しで怖いのだが。


チャリン・・・チャリン・・・チャリン・・・


「いや、あのこれ。なんか落としてますけど・・・大丈夫ですか?」


つい、年下でもおかしくない見た目の少女に敬語を使ってしまった。きっとクマのせいだ。

決して自分がひ弱だからとかそういう事ではない・・・と信じたい。

とにかく、今まで拾ってきたモノを詰めたレジ袋をパーカー少女の目の前に差し出す。


チャリン・・・チャリン・・・チャリン・・・


「・・・・・・結構です」


そう返事をしたかと思うと、パーカー少女は回れ右をして再び歩き始める。


チャリン・・・チャリン・・・チャリン・・・


「え?あ・・・ちょっと」


チャラチャラ男のおかげで予測は出来ていたが、予想斜め上をいく即答に驚きを隠せない。

というか、さっきからチャリンチャリンチャリンチャリンと、凄く気になるんですが・・・?


「これ、君のじゃないの?」


「・・・違います」


「いやいや、でもどう見ても君が落としたヤツだよね?・・・というか、今もチャリンチャリンいってるみたいだけど大丈夫なの?」


すると、急に立ち止まるパーカー少女。


「・・・しつこいです。それは私のお金じゃありませんし、私は大丈夫です。ですから、もう話しかけないで下さい!」


こちらを睨みつけるパーカー少女。

怖いからそれ止めて。2割増しだからホントに止めて。

いやいや、こんなことで引いている場合ではない。少女の手を見ると、やはりどっからどう見ても百円硬貨だと思われるモノをチャリンチャリンと一定の間隔で落とし続けて・・・、


「・・・え?ちょっと待った」


「きゃ」


自分は咄嗟に少女の手を取り、その掌を確認する。


「こ、これはッ・・・!」


「ッ!・・・は、離して下さい!!」


パーカー少女は唖然としている自分の手を無理矢理に振り解き、そのまま走り去って行った。


「・・・何・・・だったんだ、アレは・・・」



~*~


自分は未だに忘れられずにいる。

少女の掌に確かにあった、人の「口」を。

そして、その口から一定のリズムで吐き出されるどっからどう見ても百円硬貨だと思われるモノを。


これが夢だったのか、あれが何だったのか、それは未だに謎のままだが、少女のあの落し物とあの日食べた昼食が梅おにぎりだったという事実だけは自分の手元に残っている。


次(Bパート)で終わりです。

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