RYOUKA:2016 あめ
_____晴れて天気のいいこんな日なのに、私の心は雨模様。
駅から近くにある最近人気のあるというカフェの中に入って、テーブル席に座る私と紘さん。
店内には、女子高生達は楽しそうに話して、カウンター席に座って店員と話す男の人がいる。静かに佇む私には、楽しそうな声色が耳障りで仕方ない。落ち着いたクラシックの音楽でさえも、私達の間では不協和音と音を変えて、とても落ち着ける音色に聴こえてこない。
「涼香、俺達別れよう。」
紘さんの低い声だけが深く私の中に響く。
「……どうして。」
「どうもこうもない。もう、お前と付き合えないからだ。」
重く、心にのしかかる。付き合えないことの理由は、そこにない。ただ、付き合いきれないとの一言だけ。そこにどんな意味を含んでいるのか、私には考えても分からない。
真面に顔を見れない私は俯いて話すことしかできなかった。目を見て話せば、今にも涙が出てきそうだから。
「私は、紘さんのこと……」
「もう、無理なんだって!」
紘さんは、声を荒げて椅子から音を立てて立ち上がれば、一瞬にして静まり返る。耳から入ってくるのはクラシックの音楽だけ。
私はそこで確信してしまった。私がどんなに紘さんのことが好きでも、紘さんの中には私の存在の欠片すらないのだと。
私はただ俯くことしかできなかった。もう、どんな言葉をかけても届くことのない。
それを知っているから、私は口を開くことをしない。
いや、できないんだ。怖くて。どんなに言葉を紡いでも、届くことのない想いを伝えることに怯えて。別れると話を聞いても尚、嫌われたくないという感情が働く。
黙って何も言わない私に、紘さんは「ごめん。」と一言残して去って行った。
"ごめん"の一言にいったいどれだけの感情があるの?
それとも、それはただのその場凌ぎの言葉に過ぎないの?
確かめたいと思っても、確かめることなんてできない。
俯いている私にコトッと音を立てテーブルに甘く香るものが置かれる。
「あちらのお客様がこれを。」
ずっと俯いていた顔をそっと静かに上げる。
「私惨めに見えるんですね。」
見据えながら店員さんに言う。そう見られてもおかしくない。私は男に振られて、一人取り残された憐れな女だ。
すると店員さんは肩を上げ、困ったかのような顔をした。
「そんなことないですよ、きっと口説きたいだけだと思います。」
私は店員さんの言葉に、可笑しく思えて小さく笑う。なんだか、先程の悲しみが和らぐように重くのしかかっていたものが、軽くなったようだ。
「あちらの方ですよね?」
体を少し斜めにし、店員さんの後ろに隠れていたカウンター席に座る男の人を見る。歳は40代といったところだろうか?
「お礼とか言わない方が賢明です。あの人、落ち着いて見えてかなり肉食なんで。しかも、あの年で。」
カウンター席に座る男の人を良く知る店員さん。おそらく常連さんなんだろうと察しがつく。
私は店員さんの言葉にまたも、可笑しくて笑う。
「笑わない方がいいな。ますます、あの人がやる気を起こすから。」
私は店員に向かって"そうには見えませんよ"と口を開きかけたところで、女子高生が「すいませーん。」と手を上げ店員さんを呼んだので言葉を呑んだ。
店員さんは一言私に告げる。
「あの人がいなくなったら笑ったらいいですよ。」
店員さんの忠告を笑顔で頷くと、店員さんは女子高生の元へと向かっていった。
店員さんが私のもとから離れると、カウンター席に座る男の人がしっかり見える。男の人が私を見て、微笑んでいるので私もそれに応えるように微笑んでみせた。
さっきの店員さんの忠告、破ってしまったななんて思いながら、一口カップに口をつける。
甘く広がるそれは、キャラメルマキラテというものだとメニューを見て分かった。甘く口いっぱいに広がり、私を癒すようだ。
雨模様の私の心が飴模様に変わる。
少し変わった、転機予報。
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