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仕組まれた相席

作者: 一草 箱

行きつけのカフェに行くと、いつもに増して混んでいた。今から他の店に行ってもどうせ混んでいるだろうから、相席にしてもらう。

というわけで、髭を蓄えた老人が目の前に座っている。身なりは整っていて、紳士的な感じのする人だ。

しかし席に座ってから全く会話はない。

初めに「相席失礼します」、「ええ、どうぞお構いなく」と挨拶したっきりだった。


しばし間が空き、コーヒーを啜る老人を見ながらコーヒーを啜っていると、老人の方から、お暇でしたら話し相手にでもなっていただけませんかね、と話しかけてきた。

ええ構いませんよ、と返事をすると老人の身の上話が始まった。

この老人は、40代の頃に自分の浮気が原因で離婚し、息子と娘が1人ずついたが、その両方が妻に引き取られていったらしい。その後も妻とはたまに連絡を取っており、家族の近況は知らされるらしい。

話を聞くに、どうやら見た目相応の人物ではないようだ。

老人改めジジイと、心の中で呼ばせていただこう。


身の上話の次に、ジジイは身内の自慢話を始めた。

「息子はなぁ、空手が強いんだ。四段だぞ。すごいだろう」

普段ならば不憫な老人の話だ、と同情しておだてるところだが、今はこのいけ好かないジジイに図に乗らせてはなるまい、と張り合わずにいられなかった。

性に合わないが、何故かそういう気分になってしまった。

「へぇ、そういえばうちの叔父さんも空手の四段持ってるって言ってましたよ。世間には結構いるのかもしれませんね、四段ってのは」

これは嘘ではない。

叔父さんは会うたびに空手四段を自慢してくるのだ。

こんな場面で嘘などついても意味はない。

さて、言い返すことは出来たがジジイも勢いを衰えさせない。

「うちの娘も自慢の娘でな、学生時代に陸上の大会で全国4位になったんだよ。いや、あれは凄かった」

「うちの母も昔インターハイに出たことがありますよ。奇遇ですね」

「むむむ…」

「むむむ…」


「直接は会ったことないがな、うちの孫は甲子園に出場したぞ!」

「残念でした!俺も甲子園に行きました!今度はこっちから行かせてもらいますよ。うちの爺さんはねえ、華道の先生をやってましたよ!」

もっとも、俺が生まれる前に祖母と別れたらしく、会ったことはないが…。

お、ジジイが何か考え込んでいるような顔しているぞ。

万策尽きたか?

ふふふ、勝った。

…しかしやたらと共通点が多いな…。

ジジイの息子と俺の叔父さんが空手四段、ジジイの娘と俺の母が陸上で全国レベル…。

待て…ジジイの孫と俺は甲子園に出場…。

偶然にしてはいささか…

するとここでジジイは迷ったような表情で口を開いた。

「もしかして、…君の爺さんは華道の先生ではなく茶道の先生なんじゃないか?」

あれ、そう言われてみると…。

茶道だったか?

己の記憶に自信が持てない。

しかしそれを指摘できるこのジジイは一体…?

いや、今ので湧き上がりつつある疑問が確信へと変わり始めた。

ジジイも俺の表情を見て何か察した様子だ。

な…な、何?

まさかそんなこと…

しかし偶然にしては出来過ぎ…

俺は意を決して、思い当たることを口に出した。

「あんた、茂蔵爺さんか!?」

ジジイは目を見開いた。

まさか…

そしてジジイは静かに口を開けた。

「と、思ったでしょう?」

…!?……?

「私は占い師。占いの力で貴方に関する情報を知り、今の台詞を貴方に吐かせるように誘導しました。ちなみに、貴方がこの店に入ってくるのも分かっていました。疑うようでしたら…そうですね、何でもいいので何か好きなものを一つ思い浮かべてみてください」

言われるがまま、目を瞑って適当に思い浮かべてみると、姫路城が頭の中に現れた。

「目を開けてください。この紙ナプキンは貴方が来た時からここに置いてありました。この裏には…」

姫路城が描かれていた。

反論の余地は無い。

「それで…あんたが本物の占い師だってのはわかったよ。けど、一体俺に何の用があるんだ?」

「それはですね…」

しばし間を置き、占い師はこう言った。

「占い師教室、月5万円でやっておりますが受講されませんか?」

「是非」

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