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第四話 「我侭少年」

 恋愛感情云々は、俺ももうこの年(精神年齢)なので抱かなかったが、それでも会話に飢えていた俺はルシアに対してかなりの好感を抱いていた。

 なので、時間より随分前に到着していた事もあり、しばらく雑談を交わしていた俺とルシアだったのだが。

 いつまでも現実逃避をしている訳にはいかない。俺は隣に立つルシアに合図を送った。ルシアも心得たように頷く。


「そろそろいくか」


「了解」


 俺とルシアは一つ溜息を吐くと、雑多な人々の中でも一際目立つ色彩の、ヴァルフレア王国の国旗を掲げた派手な集団へと合流する事にした。

 足取りは軽快とは言えず、むしろ若干重いくらいだが、既に依頼を受けてしまっている以上「嫌です」の一言で帰るわけにはいかない。そんな事をすれば、確実に査定に響いてしまう。そして、査定に響けばランクが落ちる。

 そうなれば、俺はAランクの依頼を受けることが出来なくなってしまうのだ。それは不味い。

 なんだかんだ言いつつも最終的に、俺の財布の中身は常に潤っている。その理由は、このAランクでの美味しい依頼を積極的に受けてるからだ。実の所、俺の実力は既にAランクを軽く超えている。従って、このポジションは楽にお金が稼げるベストな位置なのである。

 ちなみに「具体的にどのくらい強いか」と聞かれれば困るのだが、少なくても3年余りの冒険生活を一人でこなせる程度には強いという事を、ここで言っておく。


「委諾を受けた傭兵のエルデェニオン・ダエリオスだ。よろしく」


「同じく、委諾を受けた傭兵、ルシア・ティアロスト。よろしく」


 俺とルシアは態度を一切変えず、互いの基本である無表情でそう言った。

 本当はもう少し愛想よくするつもりだったのだが、恐らく集団のリーダーであろう小麦色の肌をした青年に話しかけようとした所、鎧を着た男に阻まれたので、若干気分を害したのだ。

 だが俺たちの口上を聞いた途端、鎧を着た兵士は緊張を緩めるかのように、足を一歩引く。それと共に、青年と俺の視線が合った。

 。

 青年の顔はまだ若さが目立つ物の、野性的で端整だった。気だるそうな表情をしているが、その存在感は強い。

 だが、俺が気になったのはそんな所ではなく、彼の目だ。

 ――こっちを品定めするような、傲慢な目。

 こういった視線を向けられる事には、職業柄慣れている筈だったのだが、無表情を守りつつも俺は、自分にしか聞こえない何かが切れるような音を聞いた。ぷちっと、音がしたのだ。

 自分でも理解できない感情なのだが、この青年にそういった視線を向けられると、酷く苛つくのである。

 青年は気だるそうな表情のまま、何かを言おうと口を開ける。だが、俺たちの言葉に返事を返したのは、彼では無かった。


「おお、お前達がアルティア支部から派遣された者か! 私の名はアレスと言う! いやー、長い旅になるかもしれんが、よろしく頼む!」


 そう言って「かっかっか」と快活に笑うのは、一回り大きな鎧を着た筋肉隆々の中年、いや、壮年と言ってもいい位の年かさの男だった。

 何というか、そういう態度で出られると、こちらも大人しくならざるを得ない。


「こちらこそ」


 ぺこり、と俺とルシアは頭を下げる。そこで思った。

 もしかしたらこの男、場の空気を読んでわざと話しかけてきたのかも知れない、と。

 その考えを読んだように、アレスと視線が合う。すると、彼はニヤリと笑った。其れを見て俺は思う。


(ああ、やはり見た目通り、脳みそまで筋肉だという訳ではないらしい)


 その後、俺たち二人は傭兵許可証をアレスに見せ、本人かどうかの確認を受けた。俺の確認が終わり、ルシアの確認作業に移る。

 そこで、俺は自分を見つめる視線に気づいた。

 何故かはしらないが、青年が俺の事を見ていた。更に、青年の隣にいた金髪の少女までも、少し苛ただしそうに俺の事を見ている。というか、寧ろ睨んでいた。

 意味が分からない。何故、初対面の相手に睨まれなきゃいけないのだろうか。


「それでは、早速出発するとしよう! さあ、馬車に乗り込むのだ!」


 頭に疑問符を浮かべたまま、俺は随分と頑丈そうな馬車へと乗り込んだ。そこで気づく。この馬車、よく見ると軍用だ。


(国が関わる依頼か。さて、一体どんな『遺跡調査』だっていうんだろうか)


 南門を抜け、馬車は町を守る結界の外を進んでいく。景色は次々と移り変わっていた。



「おい、そこのお前。珍しい魔術を使うらしいな、見せてみろ」


 改めて依頼の内容を聞き、今回の旅の間で必要な日数分の支給品を一通り受け取った後。

 お互いのペースを守りつつ静かに、けれど楽しく会話をしていた俺とルシアの間に、割り込む声があった。あの青年だ。

 金髪の少女とアレスは「また始まったよコイツ」とでも言わんばかりの表情で、呆れたように首を振っていた。


「どういう事だ?」


 唐突な青年の言葉に、俺は当然疑問の声を上げた。

 移動する馬車の中で魔術を見せろとか、何を考えているのだろうか、こいつは。思わず青年を見つめる目が細まる。

「見せてみろ」も何も、俺の扱う魔術の傾向などは、予め書類で確認されている筈だ。それにも関わらず、こんな事を言われるという事は、実力不足を疑われているのかもしれない。いや、そもそも本当ならば、この依頼を受けるランクに満たない人間なのだから、それも仕方がないのかもしれないが。

 そんな風に、俺は色々と考えを廻らせていたのだが。


「どういうことも何も、俺が見せろと言っているんだ。とっとと見せろ」


 青年は、そんな俺の思いなど歯牙にも掛けないように、踏ん反り返った態度でそう言った。

 はっきり言って、むかつく。雇い主とか考えずに、ぶちのめしてやろうかと思う。

 だが、もう馬車が動き出して数十分は立っている。なので、俺は苛つきながらも、そろそろこの青年の態度についてある仮説を立てていた。

 思い返してみれば、青年は何も、俺にだけこんな態度をしている訳ではなかった。周りの兵士だって随分、横柄な態度を取られている。基本的に兵士は「おい」だの「おまえ」だのでしか呼ばれてないし、色々考えると、寧ろ兵士への態度の方が悪かったのかも知れない。

 そして、それらの事実をもとに、俺は一つの結論にたどり着く。

 ひょっとすると、この青年。

 ――もしかしたらこの態度がデフォルトで、別に何も考えてないのかもしれない。

 そう結論づけた俺は、心に余裕を取り戻した。


「見世物じゃないからな、無理だ。戦闘になれば分かるだろう」


 そういって、いつの間にか強張っていた身体を解す。

 ようするに、こいつは餓鬼なのだ。ならば、一々腹を立てる方が大人気ない。此方が大人の対応を見せてやれば、問題が起こる事もないだろう。

 だが、そんな俺の予想を裏切るように。


「そうか、ならば俺と戦え」


 青年は俺に向かって、剣を向け。

 ――獰猛な野獣のような表情でそう言った。

 金髪少女とアレスはやれやれと首を振っていた。止めろよと切に思う。


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