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ii.

 音楽室の結界が解けたのを知り、高野は慌てて引き戸を開いた。室内の様子が目に入り、思わず息を呑む。中は凄まじい様相を呈していた。机や椅子は皆倒れ、絡まり合ってあちこちに散らばっている。窓ガラスの大半は割れ落ちていた。ステレオやスピーカーの類も完全に破壊されている。ピアノは幸い壊れてはいないようだが、盛大に水を被っていた。ピアノだけではない。すべてのものが濡れており、床には水が溜まっている箇所もある。台風でもやって来たかのような有様だった。

 倒れる竜の影は──ない。血のにおいもしなかった。妖気だけが僅かに残っている。弱ってはいたが、生きているものが放つエネルギーを帯びているのがわかった。

 部屋の中央に、こちらに背を向けて立つ慧の姿があった。

「広沢」

 小声で呼びかける。

「大丈夫か」

 慧が振り返った。彼もびしょ濡れだった。顎から水が滴っている。だが、いつもの顔だ。落ち着き払った、表情のほとんどない──。

 それを見て、こんなにほっとするとは。高野は咄嗟に言葉が出なかった。

「ええ、終わりました」

 慧がいう。終わりましたって、おまえ。高野は脱力する。我知らず、手を腿の辺りに宛がって身体を支えていた。

「ずぶ濡れだぞ、おまえ」

「──ええ」

 慧は自分の身体を見下ろし、初めて気づいた様子でいった。

「竜は──無事、消えたな」

「完全に無事かどうかはわかりませんけど。とにかく生きたまま向こうに戻った」

「向こうに行ければ大丈夫さ。自分の世界だ。それに彼らの生命力は強いからな」

 高野は今更ながら安堵の息をつく。

「よくやったよ、広沢。大したもんだ」

 凡庸な言葉ではあるが本心だ。もっと大袈裟に褒めてやりたくもあったが、何というか、言葉ではうまく伝わらない気がする。慧は高野の労いには反応を示さず、眉を顰めた。

「早川は」

「え、ああ、ちょっと、向こうに置いてきた。おまえが気になって」

「駄目じゃないですか、一人にしちゃ。気絶してるんですよ」

 呆れたようにいう。高野は口を開いたものの、何といったらよいかわからなかった。いや、おまえ。さっき、眠っているだけっていわなかったか。

 しかし、肝心なのはそこではない。確かに彼女を一人置いてきたのは問題かもしれなかった。気になり、後ろめたい気持ちで振り返る。といって、慧のことだって気になるのだ。あっちもこっちも、とおろおろする高野を、慧はおもしろがるような目で見た。

 高野は内心憤慨した。おまえ何なんだ、その平然とした生意気な態度は。さっきのあの台詞はどこへいった。おれがいなくなったらどうとか、いってたよなあ確か。

 そういってやろうかと思ったが、あまりに大人気ないのでやめにする。とにかく麻美の様子を見に戻る。慧も後ろからついてきた。

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