表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/60

iii.

 昨日より更に重い足取りで学校へ行く。空の青さも陽の光も眩しすぎた。溜息がもれそうになるのを堪える。幸い、吐き気は治まっていた。

 朝のホームルームが終わると、高野が声をかけてきた。

 広沢、と呼ぶ。

「ちょっと来てくれ」

 クラスメイトたちが見ている前だ。無視もできず、慧は立ち上がった。高野について教室を出る。高野はそのまま教室から離れ、職員室方向へと向かった。

 どこまで行く気だ、と慧は訝しんだ。じきに授業が始まる。一限目は国語だ。担当の若月が、すぐに教室へやって来るだろう。

「何の用ですか。授業が始まりますよ」

 足をとめていう。高野が振り返った。

「大丈夫だ。この時間は空きなんだ。授業はない」

 自分のことをいっているらしい。慧は呆れた。

「おれが、あるんですけど」

「それも大丈夫だ。おまえは抜けると若月先生には断った。今は授業より大事な話がある」

「勝手に断らないでください。昨日の続きをするつもりでしたら、もう話すことはありませんよ。おれは戻ります」

「駄目だ。来るんだ」

 高野とは思えない強引な態度だった。慧はうんざりして相手を見据える。高野は幾らか怯んだものの、いつものように震え上がったりはしなかった。慧は溜息をつく。逆らうのも面倒になっていた。

「わかりました」

「よし。生徒指導室へ行こう」

 高野は、ほっとした様子でいった。


「おれの父親も、ときどき魔物とやり合っていたよ」

 生徒指導室に入り、慧を座らせた後、高野はいった。

「父親というより、あれは、おれを狙って来ていたんだな。おれは長いこと気づかずにいたんだが。おれは人間として育てられたから、魔物を攻撃する力はまったくない。父親と同じ力はあるのかもしれないが、使ったことはない。おまえがいったとおり、自分の身ひとつ守れないんだ。父はおれに、魔物の気配を消して生きるよう教えたよ。子供の頃は意味もよくわからなかったし、そううまくもできなかったけどな。その分、父が身辺に気を配ってくれていた」

 高野の口ぶりは、どこか昔を懐かしむふうでもあった。ここまで来て、あなたの身の上話は結構ですよ、といった皮肉をいう気は慧にはなかった。まさか、そんなことのために呼び出したのでもないだろう。慧は辛抱強く続きを待つ。高野が何をいおうとしているのか、見当がつかなかった。

「だけど、親父は相手を殺さなかった。きっと、幼いおれに魔物の屍骸を見せたくなかったんだな。相手のオーラを吸いはしたが、命がなくなるほどは奪わず、弱らせただけだった。弱らせてしまえば、相手は怖気づいて自分から闇の世界へ戻る──親父は、そういっていたよ」

 ようやく、高野のいわんとすることが見えてくる。

「もしかして、おれにもそうしろと」

 慧は、高野から視線を逸らしたままで訊ねた。

「そうだ。場合によっては脅しつけるだけでもいいんだ。それで逃げ帰る相手だっている。敵わないとわかれば、向こうはそうするさ。魔物のほとんどは、ただ??その、食糧補給に来ているだけだからな。なるべく楽にやりたい。危険な相手とやり合うくらいなら、逃げ戻る方がましだと大抵は思うものだ。もちろん、やつらが人の世界に現れること自体は問題だ。防がなきゃならない。おれだって連中は怖いよ。でもな、別に肩を持つつもりはないが、人が闇を引き寄せて通路を開かなければ、あいつらだってこっちに来られないんだ。追い返して通路を絶つっていう方法だって、あるとは思わないか」

「昨日もいいましたよね」

 慧はいった。

「やらなければ、こちらがやられる。おれはそう思いますけど」

「親父はそうやってた。おまえにもできるはずだ。相手の程度を見極めて、おまえの力を調整すればいい」

「簡単にいわないでください。そんな余裕はありません」

「それは──おまえに怖れがあるからだ。怖れる気持ちを抑え込んで、気づかないようにしている。だから何も考えられず、力任せになってしまうんじゃないのか」

 慧は目を上げて高野を見た。高野は続ける。

「いいか。おまえの力は、大抵の魔物たちよりずっと強い。おまえを見ただけで逃げ出すやつだっているくらいだ。怖いのは当然だ。考えたくないのもわかる。見たくない、手痛い現実だからな。それは、おれにもよくわかるよ。だけどな、向き合わなくちゃいけないんだ。そうしない限り、何も変わらない。このまま、ずっと苦しむことになるんだ。やってみろ。大丈夫だ、おまえならできる」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ