iv.
麻美がアパートに姿を消すと、高野が大きく息をついた。
「彼女」
慧を見ていう。
「昨日の井戸と同じ気配が」
「今日はわかりましたか」
「え、じゃあ、昨日、既にか」
「ええ。僅かでしたけど。一日で、少し強くなった」
「敏感なんだな、おまえは」
高野はシートに寄りかかり、呟く。
「幾ら人のふりをしても、見破られるわけだ」
「あなただって、すぐおれに気がついたじゃないですか」
「こっちも敏感なのさ。ほとんど、それだけが取り柄だからな。早川のことはどうする。霊符も、もう触れなかった。井戸のものの影響をだいぶ受けているんだな。その魔物を何とかしない限り、彼女は元に戻れない」
「ええ」
「ただでも、いろいろ問題がありそうだっていうのにな。兎の件も、彼女が小学校から攫って──」
高野は暗い面持ちで口を噤んだ。
「ええ。殺したのは、たぶん早川だ」
慧はいった。
「そのことは、身体のことと合わせて専門家に対応してもらうしかないでしょう。おれには何もいえない」
「そうだな。それは、おれの仕事だ」
高野は頷いて、
「おまえは──今週一杯っていってたな。あと三日か」
慧は高野から視線を逸らした。期限は早川の状態から設定したものだ。本当なら、もう少し時間がほしいところだった。
「その間で、封印のし直しができるのか。そんなに早くできるのかよ。準備とかないのか」
「封印は、もう難しいかもしれません」
死と破壊の影を帯びたものが投げ込まれた井戸だ。もう封印には使えないだろう。他の方法をとるしかない。そうなると──。
「何でだよ」
高野が問う。
「いえ、少し考えてみます」
それきり慧は黙った。高野が焦ったふうにあれこれ訊いてきたが無視した。やがて相手も諦め、静かになる。車が学校へ向けて動き始めた。




