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iii.

 父は母をとても大事に思っていた。それは母も同様だった。二人は見ていて羨ましくなるくらい仲がよかった。高野のことも大切に育ててくれた。三人は、傍目には幸せ過ぎるほどの一家だった。

 父が母のオーラを意識的に奪うなど、もちろんあり得ない。それでも、母は早死にした。原因不明の、徐々に衰弱していくような死に方だった。父はその後ずっと、自分が母のオーラを無意識に吸っていたのではないかと自問していた。魔物のそばにいること自体でも寿命を縮めたのかもしれない、とも考えていた。いずれにしても、自身が妻を殺してしまった──その想いが、最後まで父を責め苛んでいた。

 母は幸せそうだった。どんなに身体が弱ってきても、それは変わらなかった。死の直前までずっと父に、自分を責めないでといい続けていた。だが父は、母の死後、すっかり意気消沈し、一年後には亡くなった。本来なら魔物の寿命は人よりずっと長いらしいから、父は母以上に早死だったのだと思う。

 高野は自分の両親が好きだった。尊敬していたといってもいい。今どき信じられないほどのロマンチストたちだとは思うが、そんな生き方ができるのは素晴らしい。けれど、自分も誰か相手を選んで同じ生き方をしようという気には、とてもなれなかった。

 彼らは結果的にそうなっただけだ。しかし自分は結果を知っている。父と同じ影響力が己にもあるのかは不明だったが、可能性のあることは避けるべきだろう。他人を早死の運命に引きずり込むことはできない。それよりも一人で生きていく方がずっといい。

 だが、人と関わらずひっそりと生きるということは、波風も立たない半面、孤独であるということだ。両親がいたときは、よくわかっていなかった。それでよいと思っていたのだ。他人を自分の運命に巻き込むよりは、一人でいる方が平穏だと信じていた。今になってみれば、よくわかる。孤独もまた、ときに耐え難いほど気持ちを揺さぶるのだ。

 特に好みというわけではないのに、感じがよくて年齢も近いというだけで琴江に動揺するのは、普通の人間の人生と自分のそれを、つい比較してしまうからだ。誰もがもっと自然に異性との交流を楽しみ、その中から生涯の伴侶を見つけるのに、と考えてしまうからだ。もちろん、普通の人間でも皆が伴侶を得るとは限らないが、少なくとも彼らには選択肢が与えられているではないか。

 高野は非常口の扉に寄りかかり、小さく溜息をついた。

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