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i.

 始業式の朝、校舎に入った時点では、慧にもはっきりわからなかった。何か変だ、とは思った。だが大勢の人間が集まる場所では、妙な気配が生じることはしばしばある。学校のように、危うい心持ちのものが生じがちな場では尚更だ。気配は、そのまま消えることもあれば、持続して他者に影響を及ぼすこともある。魔物を呼び込むほどの闇に変わることも、ときにあった。

 用心はしなければならない。が、今すぐ何かする必要はなさそうだ。慧はそう判断した。警察や探偵ではないのだから、自分から物事を探ってまわろうという気はない。動くのは、身に危険が及びそうなときだけだ。

 彼が紹介されるため全校生徒の前に立ったとき、初めてわかった。おかしな気配の正体はあれだったのだ。

 あれは──何だ。慧は僅かに眉を顰めて、自分のクラスの担任となる高野智也を見た。

 あれは魔物だ。それもたぶん、オーラ・ヴァンパイア。他者のオーラ──生体エネルギーのようなもの──を奪って生きる魔物。しかし、それにしては奇妙なくらい、魔物の気配というべき妖気が弱かった。見ようによっては普通の人間と思えるほどだ。

 あれは──魔物と人間の混血、だろうか。そう思いついた慧は、愕然とした。今までそんなものを見たことがなかった。そんなことがあり得るのだろうか。魔物と人の間で子供をつくり、生んだものがいると? 

 考えてみれば、絶対にないこととはいい切れなかった。強引な手段ということもある。相手がそうとは知らずに──という場合もあるのかもしれない。人間を襲う魔物には見た目が人と変わらないものも多い。ひっそり中に入り込み、獲物を物色するのに都合がよいからだろう。オーラ・ヴァンパイアもその一種と思われる。人間のふりをして近づくことは充分可能だ。

 だが、つくるのはともかく、子供を生み育てるにはそれなりの時間がかかる。父親が魔物の場合、母親である人間を餌とせずに生かしておいたということになる。逆の場合は、魔物が自分の意志で生み育てたということになるのか。どちらにしても、子供を得ようという意志が働いていたということになりはしないか。獲物であるはずの人間との間に子供を──いったい、何のために。

 人間の間に、自分たち魔物の血を行き渡らせようとでもいうのだろうか。わからなかった。あの高野という教師からは、そういった邪悪な意図らしきものは感じられない。それどころか、これまでに見てきた魔物たちのような、人を餌としか思わない様子もなければ、人に何か被害を及ぼそうという様子もなかった。純粋な人間ですら、もっと悪意が深く闇の世界に近いものもいる、と思うほど大人しく凡庸で、他者を攻撃する力も持っていないようなのだ。

 魔物に対しておぞましいイメージしか抱いていなかった慧には、信じがたいことであった。しかもそれが公立中学の教員ときている。何らかの手で周囲を幻惑して入り込んでいるとも思えない。普通に戸籍を持ち、人として生きて教育を受けてここまで来たということか。闇の生き物が、そんなに簡単に人の世界に入り混じれるものだろうか。

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