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初めて魔物たちを血を浴びたのは、いつだったろうか。そんなに昔の話ではないのに、うまく思い出せない。
はっきりと覚えていることはあった。そのとき、思わず笑ってしまうほど長い間、身体の震えがとまらなかったこと。そして、生臭い血のにおいがいつまでも纏わりついて離れなかったことだ。
抑えきれずに放った力でずたずたになった彼らの屍骸は、いつの間にか融けるように消えていた。飛び散って身体についていた彼らの血も、同時に消えた。
残った血のにおいに混じる鉄くささで、自身も傷を負っていることに気づいた。左手の甲が切れて、血が地面にまで滴り落ちていた。右頬にも生暖かい感触があり、触れると指が赤く濡れた。
このままでは家に帰れない。近くの公園に公衆トイレがある。ハンカチを左手に捲きながら、そこへ向かった。
トイレの鏡で確認する。顔の傷は大したことはないようだった。ハンカチを濡らして傷口を拭く。血はとまりかけていた。鏡に映る姿で、服の胸元も切れているのに気づいた。左腕と太腿もだ。冬場で重ね着をしていたことが幸いし、それらの部分の被害は洋服だけで済んだ。
家に帰ってから、服が切れた言い訳をするのは厄介そうだった。更に厄介なのは左手の傷だ。まだ血がとまらない。
赤く染まったハンカチを洗って絞り、再び傷口に捲く。腕を上げていると、垂れた血で服の袖口が汚れた。手首の脈を押さえるうち、ようやく出血量が少なくなってくる。そのまま待った。
痛みを感じないのが不思議だった。辺りが薄暗くなる頃、やっと血がとまった。袖の汚れを洗って落とす。水の冷たさと寒さが、急に身にしみた。