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第二幕

幽霊は昔から「いるかもしれないし、いないかもしれない」とどっちでも納得するスタンスだった。

居たら居たでおもしろいしぐらいの感覚だった。確か小学生の頃にはそう考えていたと記憶する。

しかし、いざ目の前に現れると対応に戸惑ってしまう。

このどこから見ても普通の少女にしか見えない女の子も幽霊なのだ。

「えーっと、それでどうして出てきたん?」私の問いに少女は少し考えて

「何となく」

そう答えた。何となく出てこられても困ると思うのだが。

「あえて理由を言うなら、お兄さんに興味があったからかな」

と今度は意外な事を言う。

興味?私はどこにでも居るごく一般的な人間であり、幽霊に興味を持って貰うような人間では無いように思えた。

今まで一度たりとも幽霊の類は見たことが無かったねで、霊感も無いと思っていた。

とにかく、一人では何とも解決できないだろうし、表に居る四人の方がこういう対象には詳しいだろう。

「表に俺の友達が居るんやけど、一緒に来る?」

私が聞いてみると、「いいよ」と案外軽く承諾してくれた。

私は素早く水を汲み、昼食の準備をしている四人の元へと向かった。


私が戻ると四人は少女に驚いたようだった。

それはそうだ、自分達だけだと思っていたのに急に見知らぬ少女が私の後ろを付いてきたのだから。

「あれ、その子どうしたの」と灰島が駆け寄ってくる。

少女がはじめましてと軽い会釈をすると、灰島もはじめましてと笑って見せた。

「単刀直入に言うけど、この子幽霊なんやって」

私の発言に場の空気が一瞬凍る。時間も止まったようだった。

「水瀬、それ本気か」

と灰島が真剣な表情を見せる。

確かにいきなりそんな事を言われても信じられないだろう。

私は少女に

「さっきの証拠、こいつらにも見せてやる事出来る?」と聞いてみる。少女は面倒だなと言う顔をしながらも「いいよ」と答えて先程のように消えていった。

四人は絶句していた。そして再び現れた少女は私の方を向き「これでいい?」というような顔をした。

私がありがとうと声をかけると同時に

「おぉぉぉぉぉぉ」

と感嘆の声が挙がる。

四人が一斉に少女の元へと集まる。

質問をしまくる四人が転校生に興味を持った学生に見えてきた。

私は水を置き、一先ず落ち着こうとクーラーボックスからビールを取り出して座り、一口飲み、煙草に火をつけた。

興味津々な四人を見ながら

「あいつら凄いな」と独り言をもらすと、すぐ後ろから

「まぁ珍しいでしょうし」と声がした。

私が後ろを振り向くとそこには白衣を着た若い男性が居た。

脳裏に一瞬の内に例の怪談が浮かんだ。

そうだろうなとは思いつつも

「あなたも幽霊さん?」と聞くと爽やかな笑顔で

「そうですね、もう死んでるから幽霊って事になりますね」と答えた。

「そんな事をさらっと言わんでくれますか」

「失礼、人前に出て喋るのは久しぶりなのでつい。ではまた後ほど」と言ってこれまた消えていった。

既に慣れはじめてはいたがまだ頭の中はモヤモヤする。

幽霊というのはこうも明るい内に出てきて、しかもこんなに軽いノリなのか。そもそも何故あんなに普通の人のような感じなのだろうか。

私がビールを飲み干した頃に、四人と少女がこちらに向かって来る。

結城が鼻で大きく息を吸い

「でかした!!」と一言。

私は何もしていないので、何をでかしたのかは解らないが後ろの三人もうんうんと頷いているので、私が何かをしたのだろう。

「お前みたいに幽霊に大してここまで無関心の奴は今までここに来なかったんだと。お陰で幽霊側が興味を持って出てきてくれたんだ!」


そういう事だったのかと少しは納得出来たが、しかし何故昼間に出てきたのだろうか。

幽霊といえば夜中に出るイメージだが、それはもしかするとこちらの勝手な先入観なのか。

「そうか、色々聞いてたみたいだけど何か良い事聞けたか?」

「おう、なんかここに居着いて結構長いらしいぞ。俺らより全然年上だ」

幽霊も年をとるのかと思ったが、さして重要な事でも無いかと思い質問はやめにした。

「後、他にも友達が四人居るんだってよ」

灰島が女の子の頭を撫でつつ言ってくる。

「あぁ、白衣着た奴ならついさっきここに居たよ。すぐ消えたけど」

私が軽く言ったのが気に入らないのか、三人が「なんだって!何故教えない!」と怒り出す。

その時は女の子に夢中になりすぎてたからだろうと言うと口をつぐんだ。

「でも友達なんやろ?じゃあそのうち出てくるやろ。なぁ、えーっと」

そういえば名前を聞いていなかった。すると篠原が

「ユウちゃんって言うんだって」と教えてくれた。

「ユウって呼んでくれていいよー」

ニコッと笑いユウが答える。

「そうか、じゃあさユウ、白衣の人も友達なのか?」

灰島がしゃがみこんでユウに目線を合わせて聞いている。灰島は意外と子供が好きなのかもしれない。

「ミシナの事かな、うん友達だよ」

さっきの白衣の男はミシナと言うらしい。

「じゃあそのミシナって人に会いに行こうぜ」結城が校舎に向直るとすぐ目の前に先程の白衣の男、ミシナが現れた。

「初めまして、私をお探しですか」

先程と変わらぬ爽やかな笑顔だが、この幽霊はタイミングは考えないらしい。

結城が「ひゅわあ」と情けない声を上げて尻餅を着いている。

ユウがミシナの元へと駆け寄り「脅かしちゃダメだよー」と怒っている。

私はユウに十分驚かされたんだがなぁと先程のやり取りを思い出した。

「失礼、わたしミシナです。漢数字の三に科目の科で三科です。以後お見知り置きを」

と会釈をしてまた微笑んだ。幽霊にとは思えない爽やかさだ。

「まぁご丁寧にどうも。私は篠原、隣の元気なこの子が灰島で、驚いて倒れたのが結城君、結城君を起こしてあげてるのが久住ちゃん。そしてさっきお話していたのが水瀬君です」

篠原がこちらをまとめて紹介してくれた。

しかしこの状況はどうだろうか。急に現れたり消えたりしない限りは幽霊には見えない人達と自己紹介をしているのだ。はたから見れば、この幽霊達は先生と生徒が大学生と話をしているように見えるだろう。

私がそんな事を考えていると

「皆さんみたいな人達ははじめてなのでつい出てきてしまいました、良ければ他の仲間に会って行かれますか?」とミシナが提案してくる。

「それはミシナさん達みたいな感じのフランクな幽霊なんかな、まさか呪い振り撒いたりはしやんよな」多少の不安を込めて私が尋ねると

「大丈夫ですよ、一人を除けば」と相変わらずの笑顔で答えてくれた。

「ヤバいのが一人居るのが確定か」

灰島が楽しそうに言う。

「そういう幽霊も会ってみたいですよねー」と久住。


こいつらは恐怖とかは感じないのだろうか。私は幽霊よりもこのオカルトマニア達の好奇心の方が怖くなった。

「はは、じゃあご案内しましょうか。ユウ、先に行ってツクモを起こしてきてくれますか」

ミシナがそう言うとユウは頷いて消えていった。

「幽霊って便利ですねー」て久住が少し羨ましそうにすると

「貴方たちも幽霊になれば出来ますよ」

ミシナが爽やかに答えるのに対し

「久住、遠慮しとけよ」と一応釘をさしておいた。

「わかってますよ、まだやりたい事一杯ですし」

久住がクスクスと笑う。

しかし危ないのもいるのか。でも対処するにも私には知識がない。ここはこのオカルト集団と幽霊に何とかしてもらうとしよう。


「いやいや、死んでも悪い事ばかりでは無いですよ。歩いたりしなくても移動できますし、障害物なんて関係無し、お腹も空かないから食費もかかりませんし」


「確かに食費がかからないのは魅力だな」

結城がそんな事を言うので灰島がまた蹴りを入れた。

「死んだらいやでもそうなるんだから今は変な事考えてんじゃねーよ」


「それもそうですね、ではそろそろ行きましょうか」

ミシナがそう言って私達をツクモという幽霊の元へと案内を始めた。

移動は確かに楽そうだ、何故なら少し浮いている。生前の名残だろうか、足は歩くような動きをしているが、明らかに歩幅と移動速度が違う。

「それ、なんで浮いてるのに足は動かしてるの?」

篠原が興味津々にミシナの足元を見ながら質問した。

「足を動かすほうが落ち着くんですよ、僕はまだ幽霊になってまだ日が浅いですから」

「へぇ、ちなみに幽霊になってどのくらい?」

結城の無神経な質問に今度は灰島の肘鉄が炸裂した。

「悪いな、こいつ無神経で」

「構いませんよ、僕は12年くらいですね」


12年。そんなに昔の事では無い。少なくとも12年前にはこの人は生きていた、見た目にも若いしさぞ無念もあっただろうにこうして幽霊になっても常に明るい。私は少し複雑な心境だった。

「いやー私、見ての通り理科の教師だったんですが、夜中まで学校で薬品の研究してたんです。お腹が空いたので、夜食のカップ麺を食べながら続きをしようと思い家庭科室に行ったんですよ。」

この時この学校の怪談が1つ解明出来た。

家庭科準備室に居る白衣の男の怪談は絶対にミシナだ。

「お湯を沸かしてカップ麺に入れて、出来るまでに煙草を吸おうとしたんです。マッチで火を付けたんです」

ここでミシナがふぅと溜め息を吐いた。

続きが気になるのか久住が

「まさかそこで薬品が爆発したんですか?」と凄い事を聞いた。

「いえ、爆発はしてませんよ。その後カップ麺…おそばだったんですが、食べてからにしようと思い煙草は片付けました。食べはじめて僕は思い出してしまったんです」

「一体どんな重要な事を思い出したんだ」

灰島も真剣な顔で尋ねる。

私も何を思い出したのか気になっていた。ミシナの顔は憂いを帯びた顔で、寂しげにも見えた。

そしてスッと笑みを浮かべこちらを向き、こう答えた。

「僕、蕎麦アレルギーだったんです」


あたりの空気が一瞬でどんよりと、それでいて情けなさをも纏った空気に包まれた。

しばしの静寂の後、私はあらんかぎりの力を込めてこう叫んだ。

「アホかーーーー!!」

他の三人も呆気にとられている。

「いやぁ、ころっと忘れてましてお恥ずかしい。命に関わるほどきついアレルギーだったのにも関わらず、思い出したのは倒れて意識が朦朧とした時でした。自分のお葬式も見てましたが、両親もなんて馬鹿な息子なんだと言ってました」


一分前の憂いを帯びた顔をしていたミシナを殴り倒したくなったのは言うまでもない。

確かにアレルギーで亡くなる方も居る。だがミシナの場合は違う。なんと言うか間抜け過ぎる。正直同情しにくい。

他の三人も似たような気持ちなのだろう。複雑な顔で何と声を掛けたものか悩んでいるようだ。

当のミシナは既に前を向き直りまた動き出していた。私達は胸に何かをつっかえたまま後ろを着いていった。


「さぁ着きましたよ」

私達が着いた教室、その扉には何故か力強い文字でこう書かれていた。


『倉庫』


『なんでまた倉庫何かに居るんだ』

皆がそう思ったのを察したのか

「ここが校舎内で一番落ち着くらしいです、鍵も掛かってないので出入り自由ですから」

幽霊なのだから鍵がかかっていようが居まいが関係ないのでは無いか。幽霊の感覚はわからないので追求はあえてしないでおいた。

「では私はお先に」

そう言ってミシナは倉庫に文字通り消えていった。

「よし入るか」

結城が率先してドアを開ける。

倉庫の中は窓から光が入っているのもあり、少し埃っぽいが明るかった。奥の棚にユウが腰かけている。ミシナは入口で立っていた。

「遅いよ―、やっと来たね」

ユウが棚から降りて来た。しかしユウとミシナ以外には幽霊らしきモノは見当たらない。

「あれ、ツクモって幽霊は何処?」灰島が室内を見回しながら尋ねる。

「ここ」とユウがとなりに置いてある、オブジェを指差した。

なんとも奇妙な形をした芸術作品だった。菱形の集合体の一番上に何故か魚の巨大な頭が着いている。


「ここって言われても、それただのオブジェだろ」結城がそう言った瞬間

「誰がただのオブジェか!」

と怒声が響いた。

「こんなに神々しい僕とただのオブジェの区別がつかないとは嘆かわしい」

私達は言葉を失った。目の前にあるオブジェ、その魚の頭が喋り出したからだ。

幽霊は二人も会ったから、今度は驚く事は無いつもりだったが、流石にこれには驚いた。

「これは幽霊ではないんじゃあ…」篠原が戸惑い口にするとミシナが

「あれ、私達ツクモが幽霊って言いましたか?ツクモは幽霊じゃありませんよ」

「幽霊じゃないんなら何だよ、あのミステリアスな喋る魚のお頭は」結城がビシッとオブジェを指差してミシナに詰め寄る。

「失礼な人だな!僕はこれでも神様、ツクモガミって言う神様だ」

「ツクモガミだからツクモか」

私がそう言うと魚の頭は「そういうこと」と答えた。

なんかもう、何でも有りになってきた。

女の子の幽霊ユウ

理科教師の幽霊ミシナ

ツクモガミのツクモ


この懐校舎はどうなっているんだろうか。

まさか初日にこんな怪異と立て続けに遭遇するとは。

この後まだ二人も会うことなるのかと思うと気が重くなる。


この時点で女性陣は既にツクモを調べたい衝動が出てきているようだった。


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