『愛してる』
愛なんて本当は知らない。
「私はあの人を愛してる。」
彼女は何度もそう口にした。
彼が友達と遊びに行けば不機嫌になり、自分を優先しないと責めた。
別れ話になれば泣き叫び、
「私を捨てるなんてひどい」と言った。
新しい恋人ができたと聞けば、
「まだ私を忘れられないはず」と思い込んだ。
彼女は、それを全部「愛」だと信じていた。
そう教わってきたわけでもない。
ただ、愛されたことも、誰かを本当に愛したこともなかった。
愛を知らない人は、
愛に名前を付けられない。
だから、寂しさを「愛」と名付けた。
不安を「愛」と名付けた。
支配したい気持ちを「愛」と名付けた。
失いたくない執着に「愛」と名付けた。
ある日、彼女は元恋人に言われた。
「君が欲しかったのは、俺じゃない。君を安心させてくれる誰かだった。」
その言葉に腹を立てた。
「何も分かってない。」
そう吐き捨てて、その場を去った。
数か月後、
彼女には新しい恋人がいた。
また「運命」だと言った。
また「愛してる」と言った。
相手が思い通りにならなくなると、同じように責め始めた。
歴史は繰り返される。
本人だけが、その理由に気付かない。
本当の愛とは、相手を自分の思い通りにすることではない。
相手がいつも笑顔でいることを願い、
その幸せが自分の思い通りでなくても、受け止める気持ちだ。
彼女は、その景色を一度も見たことはない。
それを注がれたこともない。
だから今でも、
自分は誰よりも愛情深い人間だと、
彼女は信じ続けている。
愛を知らないまま。
自分で名付けた何かを愛だと言って、彼女はこれからも語り続ける。




