旅の始発 ✩ 序章
2人の旅を書き上げたいと思っています。応援よろしくお願いします。
プロローグ ✩ 旅の始発
陽樹は不満だった何故なら、6年生きた人生の中で。初めて妹が生まれ、おにいちゃんになったから。
そのせいで、お母さんは妹につきっきりで遊んでくれないし、お父さんは仕事行って帰ってきたらお母さんと一緒に赤ちゃんの妹をなだめる。
そんな家族に陽樹は不満を持っていた。
ある日、陽樹が小学校のリレーのアンカーに抜擢された。
お母さんやお父さんにかまってもらえるように、昔足が速いって褒めてもらったのを思い出して練習したかいがあった。
るんるんになりながら学校が終わると同時に家へと、その速い足で駆け出す。
なんて褒められるかな。どんなお祝いされるかな。とテストで100点を取った時以上ににこにこな顔で帰路を走る。
そんな帰り際、全身黒服を着ている変わった風貌の人とすれ違う。
陽樹は
( あんな真っ黒で暑くないのかな )
とあまり深く考えずに目前の、家へと帰った。
早速お母さんにリレーのアンカーに抜擢されたことを意気揚々と語ろうとする。
「あのね!あのね!今日、学校でさぁ!!僕、リレーのアンカーに選ばれたんだよ!学年のだよ!」
目を輝かせて自慢げに伝えた。でもお母さんは「後で聞いてあげるから」と言って、話途中に泣いてしまった妹の方へ向いてしまった。
凄いね。とかさすが。とかの一言もなく、
後で。とだけ伝えて妹の方を見た。
僕ではなく、妹の方。
「〜〜〜ッッ!!」
上手く言葉が紡げずに、泣きそうになっていたら、
「ただいまー!」
ちょうど帰ってきたお父さんの声が玄関から聞こえる。
「お父さんなら褒めてくれる」と駆け足で玄関に向かい「あのね!あのね!リレーのアンカーにね!」と今度は期待に満ちた眼で、声を大きく伝えようとする。
すると、
「後でな。後で聞いてやるから待っててな」
と言って靴を乱雑に脱ぎ捨て自分が来た時よりも早く赤ちゃんの方へ行ってしまった。
負けたような気がした。
そんな喪失感が陽樹を襲う。
「ねぇ!ねぇー!聞いてよ!僕ね!」
その後も、何度も何度も伝えようとしてもすぐに「後で!」と遮られてしまう。
とうとう癇癪を起こすように「僕の話も聞いてよ!!!」と泣きじゃくった。エビみたく背中をそったり、ゴロゴロゴロゴロと、床を駆けずった。
けどお母さんもお父さんも
「後で聞いてあげるでしょ」とか
「お兄ちゃんなんだから」
と陽樹を何度も何度も後回しにする。
「その、後でっていつ来るの!!さっきからずっと待ってるじゃん!!!!」
何度も何度も大きな声で訴えたのに、聞いてくれない。陽樹の顔は、さっきまでお乳を飲んでた妹の顔よりも、鼻水や唾液や涙でぐちゃぐちゃになっていた。
午後19時半。昼に帰ってきた時から3時間も経って、ようやくお母さんとお父さんは妹の寝台から離れて、フラフラとリビングに来た。
陽樹はやっと聞いてもらえると床から飛び上がり、2人の元に向かう。
「あのね!今日!!僕アンカーに選ばれたんだよ!!!」
それはもう声高らかに言った、聞いてもらえなかった分。次はちゃんと2人の耳に届くように。
お母さんもお父さんは二人で顔を見合せ目を丸くした。陽樹は胸をはっていた。褒め言葉やぎゅーが来ても良いように。
「……陽樹……。」
「ねぇ、お母さん凄いでしょ!!」
褒めて!と言おうとした次の瞬間。
お母さんは鬼の顔をした
「静かにして!!お兄ちゃんでしょ!!!」
「………え?」
「赤ちゃんやっと寝たんだよ!!起きちゃうじゃない!!」
「でも…………」
「でもじゃないでしょ、お願い。お兄ちゃんなんだから。」
「でも……でもぉ。お、お父さぁん!!」
お母さんは鬼になった。だからお父さんに僕のヒーローになってもらうように助けを求めた。だってヒーローは呼べば来てくれるもん。
「……あー、ほら陽樹。話は後で聞いてやるから…。あ、宿題したか?してないならしてきなさい。終わったら聞いてやるから。」
来たのはヒーローじゃなくて、宿題マンだった。ずっとずっと、後でを待ってたのに。ずっとずっと後では来ない。
「……もう知らない!!!!お母さんなんか嫌い!!!!後で来ない!!!もう疲れた!!!!赤ちゃん大っ嫌い!!!!!!!」
ふと頭に浮かんだ単語を何も考えずに叫ぶ。
顔を真っ赤にして、目に涙を溜めた。
今日1番大きく叫んだ。
陽樹の中ではごめんねって言ってくれればそれで良かった。話を聞いてほしいだけだから。
何せ陽樹は褒めてほしいだけ。
まだ歩けない赤ちゃんよりも速く走れる自分を。
「なんでそんな事言うの!!!謝って!!!後で聞いてあげるって言ってるでしょ!!!なんで聞いてくれないの!!お母さんの方が疲れてるの!!!」
でもそんな希望もお母さんの怒号と共に崩れた。
お母さんに酷い事を言った悲しみより、
妹に嫌いと言った罪悪感よりも、怒りが沸騰した。
涙でお母さんの顔は見えなかった。
でも、きっと怖い鬼ばばあの顔をしてるのはわかった。
「もう知らない!!!お母さんの馬鹿!!!鬼!!!ターボババァ!!!!」
勢いに任せて、速い足で家から飛び出した。
「わぁぁん!!わぁぁぁあああん!!!」
大きな声で泣きながら行く宛てもなく走った。
心の中では、叫びながら泣いてたらお母さん達が声を聞いて探しに走って後を追って来てくれると思っていた。
でも、途中で走り疲れて、泣き疲れて。追ってきてるだろうお母さんとお父さんとの差がどれぐらいかと確認をしようと後ろを見たら。
そこには誰一人として居なかった。
もう、悲しみとかなにかよりも、
怒りしか頭には無かった。
手で涙を拭きながら前も見ずにふらふらと、見た事のない道を歩き続ける。感情に任せて走ったせいか、ここがどこかもわからなくなってしまった。
迷子になった。
ずっと歩いてたせいで足が疲れ、
街灯の下。道半ばでうずくまる。
ー 帰っても怒られるんだろうな。
ー 足が痛いな
ー お母さんなんか大嫌いだ
ー お兄ちゃんになりたくなかった
ー お父さんの馬鹿
ー 妹がいなければ良かったのに
泣き止んでも、怒りはふつふつと湧いてくる。
チカチカ
怒りに向いていた意識が途絶える。
自分の上にあった街灯が点滅していたのだ。
陽樹はそれに微かな恐怖を覚え、もう少し明るいところに行こうと歩き出す。
それでも疲れた足ではあまり遠くに行けず、
これからどこへ行こうか考えた。
飛行機で行けるおばあちゃんの家は無理だし、
街中にある大きいデパートも遠くて行けない。
家は帰りたくはない。
歩きながら考えていると、
ふと何やら淡い光が陽樹を照らした。
そちらに目をやると、
初めて見る駅があった。
神社にある鳥居の奥に駅。
少し異様だけど綺麗な駅だった。
駅の名前を記す看板には
「始発駅」
とだけ書かれていた。
こんなところに駅なんてあったっけ。
と思いながらも淡い光に照らされた駅に入ろうと鳥居を潜る。
ちょうど電車が駅に来る音が聞こえた。
陽樹もまだまだ男の子。車や電車には目がなく、おもちゃを沢山買うほど好きだった。だからこそ、近くで電車を間近に見ようと駅に走る。
ー山手線かな!東海線かな!
改札も無い駅に勢いよく入ると、
「ヴぶッ!!」
勢いよく人にぶつかった。
「ご、こご、ごめんなさい。」
ぶつかった人の顔を見ようとゆっくりと上を見上げる。
顔は線路の方を見ているけれど、眼は確かにこちらへ向けていた。
お化けかと疑ったが、見た事がある風貌だった。
今日の昼に通りすがった人によく似ていた人だった。
その時ちょうど電車も駅に止まった。
ついた電車は木造で古い作りのものだった。
「始発駅〜。始発駅〜。こちらは特急電車になりま〜す。滑り込み御乗車はお止め下さい。」
それでもちゃんとアナウンスは聞こえる。
初めて見る電車に駅。6歳男児の陽樹の意識は見事に攫われた。
そんな陽樹に、先程まで無言だった黒い服の人が口を開いた。
「見飽きたら帰りな。」
淡々と冷たい口調でそう言った。
でも陽樹は目の前に止まった初めて見る電車に乗るか、自分を見ない家族の元に帰るかだったら、100と0で電車に乗る好奇心が勝つ。
しかも最近は妹が生まれたせいでずっと車。
バスにも乗れない。
だからこそせっかく電車に乗れる機械を、みすみす逃す訳にもいかず。
黒い人の言葉を無視して、走り入った。
「な……っ、ちょっと!!」
黒い人は焦って陽樹を追うように電車に入った。
すると電車から
「扉が閉まりま〜す。御注意ください。」
とアナウンスが流れ、閉音が鳴る。
陽樹は挟まれないように閉まる扉から離れ、
動き出す列車の手すりを掴みながら誰も居ない列車をぐるりと見渡す。
電車の中は酷く静かたった。それもそのはず、陽樹とギリギリ乗れた黒い人以外誰もこの電車には乗っていなかった。
陽樹は人生で初めて誰も(黒い人以外)居ない電車に興奮し、泣き腫らした目は嘘のように光を取り戻した。
「すごいすごーーい!初めてだ!!」
大きな声を出してもお母さんのように怒る人は居ない。
だからめいっぱい歓喜した。
電車の椅子に座り、靴のまま窓を見ようと椅子に膝立ちになる。
これにも怒る人は居なかった。
ただ後ろから
「あーぁ。」
と呆れた声が聞こえた。
でも、陽樹はそんな声なんて聞いていられずに、夜の中。
背景がどんどんと切り替わる電車にはしゃいでいた。
30分。
電車に揺られて経った頃、陽樹は足の疲れと泣き腫らし、荒らげた声の疲れで眠りそうになっていた。
電車は未だに目的の駅につく気配も無いまま。
そんな中黒い人は車内の隅で立ったまま誰かと電話していた。
聞き耳を立ててみると、
「……うん。うん。……
そう。だから、少し時間かかる……。
……わかってるよ。」
と何やら不機嫌な様子で携帯を耳にかざしていた。
その後は電話が終わったのか、乱雑に携帯をポケットに入れて不機嫌な顔をしながら歩いてきた。
「……君なんであそこの駅に居たの。」
先程聞いた声よりも低く、まるで少し怒っているような口調だった。
その声を聞くと、陽樹はお母さんの事を思い出したのか、ぎゅっと両手を置いていた膝のズボンを握り
「お母さんと喧嘩したから。」
「…………はい?」
「お父さんは話聞いてくれなかった」
「??……なんの話をして」
「妹が大っ嫌いなの!!!」
また勢いよく陽樹は頭に出てきた言葉を叫んだ。
黒い人は不機嫌な顔から頭にハテナを浮かべた顔になった。
陽樹はまた泣きそうな顔になっていた。
「………君ねぇ……いいや、これは僕の管轄じゃないし。」
そう言って泣きそうな陽樹を置いて、向こう側の席に黒い人は座った。
陽樹は涙を堪えながら、また窓の外を見ようとしたけれど、何故か外は白い雪の吹雪になっていた。
「……っえ!?え!?……あ、あれ!?なんでー!?」
夢を見たのかと、目を擦ったが。
次に目に映ったのもまた雪景色だった。
「今は夏のはずなのに!もうすぐ夏休みが始まるのに!!」
陽樹の頭は混乱でいっぱいだった。
目の前にいる黒い人は、素知らぬ顔をしていた。
1時間。
電車に揺られ1時間経った。
その後も景色は変わり続けていたが、今はトンネルなのか、ずっと薄暗く外の景色が見えなくなっていた。
それが10分と続いたせいで、陽樹の電車への好奇心は消えて、今は目の前にいる黒い服を着た人の好奇心でいっぱいだった。
肌は自分よりも白く、
帽子は無くて、
でもフードは被ってる。
服は全部黒くて暖かそうで………
それで、目の色が赤と、青と、黄色だ。
初めて見る目でとても綺麗
陽樹は素直にそう思った。
そんな陽樹の熱い視線に反応するように
黒い人は口を開いた
「………さっきから何」
「目!その目、がいこくじん??」
「…………」
黒い人は黙った。
「暑いのに、なんで黒い服着てるの?」
「………」
その黙秘は、まるでお母さんとお父さんの時みたいで、陽樹は少し瞳を揺らしながらも、意地になって聞き続けた。
「僕、陽樹!! 矢野 陽樹こんばんは。」
「………………。」
「ハルって呼んでいーよ!!友達は皆僕のことハルって言うから!」
「…………はー……」
「ねーぇ!ハルだよ!ハルゥ!」
「……しつこいよ。」
「だって、呼んでくれないんだもん。」
「……なんで僕が見ず知らずの君の名前を呼ばなきゃいけないの。」
「知らなくないもん。さっき名前言ったもん。」
「……………………。」
「ねー!ねーー!呼んで!!」
「……だから子供は嫌いなんだ。」
「子供じゃないよ!もう6歳!小学一年生だもん!」
陽樹こと、ハルは自分の両手で6という数字を
見せた。
「……まだまだ子供じゃないか。」
「子供じゃない!!小学生だもん!!」
「…それを子供って言うんだよ」
「っ………子供じゃないもん。」
言い合いをする中で、黒い人は声が低くなっていき、ハルはそれに怯えたのか震える声でボソッと一言呟いた
「はーーー。……ユウだよ。」
「………え?」
「だから、名前。ユウだってば 」
「ユウおにーさん…?おねーさん?」
「ユウ。」
「ユウ……。」
「ん」
ハルの泣きそうな顔で白旗を挙げた黒い人ことユウは呆れながらも渋々名前をハルに伝えた。
ハルはゆっくりと笑みを浮かべ、座っていたところから立つとユウの居る反対側のイス寄り、ユウに寄りかかるように座った。
「重い」
ユウは眉を八の字にして怪訝な顔を見せたが、ハルは嬉しそうにユウを見た。
「僕ね、僕ね。夏休み入ったら学校がおやすみだから、嫌だったの。」
ゆっくりと重たくなったまぶたに耐えながらもハルは話し始めた
「友達にはハルって呼ばれるのに、家だと呼んでもらえないんだよ。ずっとお兄ちゃん…お兄ちゃんって呼ばれるんだ」
「でもね、……夏休みには…お父さんと…お母さんに…………リレーの………れ……し……ぅ………。」
「…………」
ハルはユウに身体を預けたまま眠りに落ちてしまった。ユウはまた一つ溜息を吐いては窓に頭を預ける。
「メルエボス〜メルエボス〜。終着駅のメルエボスになります。」
そのアナウンスが聞けたのは出発して半日経った頃だった。
到着1時間前に起きたハルと、到着するまでずっと起きていたユウは電車から降り、辺りを見回した。
そこは、まるでおとぎ話に出てくるような
城や街並みが遠くに見えた。
「ついたーー!お城だ!お城!お城!!ここはアメリカかな??それともロシア???」
「………ここは… 」
ユウが何かを伝えようとした途端、また別の声が大きく轟いた。
「お、おい!そこの2人!!いつの間にそこに入った!!さっさと出てこい!!」
とても焦った様子で、それはもう切羽詰まったように
「そこは、そこは……!」
「神終者の奴らが神と戦をした聖戦跡地だぞ!!!!!」
____そして今ここから2人の旅が始まる。
まずは序章を読んでくださりありがとうございます。みなさんも色々な世界を旅してくださいね。それではいってらっしゃい




