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【超超短編小説】トーキョーヘッド

掲載日:2025/12/26

 ひとを殺した。

 殺した直後に動機は忘れた。殺した相手が恋人だったのか上司や部下だったのかも忘れた。通り魔だったのかも知れない。

 とにかく俺は死体から頭を取り外した。

 頭を高く買い取ってくれる業者があったはずだ。当座の金が必要だ。多少は足元を見られても構わない。


 死体から頭を切り離して持ち歩いていると警察に止められた。

「これは本物ですか?」

 公僕の目は面倒くさそうだった。

 俺ははにかむ。

「いや、美容師なので」

 それで終わりだ。

 美容師たちが剥き出しの頭を持ち歩くのかは知らない。練習用の生首が棄ててあるのは見たことがある。

 アレはマネキンだ。これは本物だ。



 俺は風船ガムを膨らませて飛び上がる。

 そろそろ行き当たりばったりでやるのは良くない。

 地に足をつけて生きるべきだ。

 ヨモギみたいに水場を求めて転がるうちに枯れて死ぬだろう。

 半分はそれを受け入れている。


 渋谷と言う街では地下鉄が地上四階の高さを走り回っている。

 だからって空は高く見えない。いつだってベタついた油雲を浮かべている不良品だ。

 そんな事を気にしない人々でホームは混雑している。

 俺は生首を持ってその中を歩く。

 駅員はいちいち俺の様なチンピラを捕まえようとしたりしない。

 その分の給料を奴らは貰っていない。



 俺はホームに入線する電車を待つ。

 そろそろ電車やバスみたいに他人任せの移動を止めるべきだ。

 バイクかクルマが欲しい。

 走る卒塔婆や棺桶に乗って眠るように死ねたら良いのにな。

 半分はそれを諦めている。



 乗り込んだ電車の空調は壊れていて暑い。

 開け放たれた車窓から風に乗って埃と疲労が入ってくる。

 満員の車内を倦怠と諦観が転げ回る。

 車窓から見える景色は共感と他人事の線上にある。

 例えば高く聳え立つビルヂングがかつて欲望の象徴と言われていたことや、そこに至る労働とかの話だ。


 あのビルヂングが東京を覆うドームを突き破ることなく今度は地下に成長を続ける。

 リビドーはどうしても成長する。

 妊娠させたかったリビドーは妊娠されたいリビドーに変化していると分析する無責任な専門家もいる。

 でもそれは山手線の内側だけの話だ。

 つまりこの山手線から内側の東京メガロポリスドームを眠らずに走り続ける、その電車こそリビドーの境界線だ。


 

 もしかしたらメガロポリスを覆うドームは処女膜かも知れない。

 中に住むのは神の子だと言う話だ。

 人工雨しか知らない内山手人うちなーやまんちゅは処女懐胎された希望そのもの。

 ならばアウターヤマンチュに対する差別も頷ける。

 

 つまり外側の俺たちは原罪。要するに涙だ。

 そうやって内山手人たちの祈りは叶えられた。

 俺は電車の窓に張り付いた人工雨の水滴を眺める。

 幾重にも張り付いた人工雨の汚れに沿って新しい水滴が流れていく。



「もう疲れたろ」

 生首が訊く。

「疲れているってなんだっけ」

 俺は尋き返す。

 髪の毛を掴まれたままの生首は欠伸をする。

 口から涎と血が垂れる。

 でも誰も気にしない。


 車両に備え付けられた自動清掃ロボットは充電器にたどり着けないままだ。

 それは家に帰れない俺たちより悲惨な光景だ。でも

 誰も気にしない。

 パーツを抜き取られた自動清掃ロボットの穴には埃が積もったままだ。


 電車はゆっくりと東京メガロポリスドームの外壁に沿って走る。

 縦長の歪な円状に敷かれたレールは大陰唇に似ている。

 ドームの外側に降る雨はしばらく降り続いた雨が久しぶりに止むらしい。

 だが晴れ間はありがた迷惑だと言われる様になって久しい。


 空いた座席に滑り込む。

 俺は生首を抱えて眠るんだ。

 東京の首はどこにあるのだろう。


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