01ここまで連れてこられたのにお飾り番になれと脅迫される
フレージュは憤っていた。なぜなら、番と言われたからこそ、喜んで向かった相手の家にはなぜか相思相愛の恋人が住んでおり、女主人の部屋へ移れなかったから。
意味が不明過ぎて相手に何度も何度も説明を求めるものの、全く要領を得ない。そればかりか、こちらが悪いという風に嵌めようとしている節がある。
こんなことならば番だからと近寄らずこっちを無視して、通り過ぎればよかったのではないのかと思うわけで、そう問いかけた言い分がこれ。
「番の僕のために、耐えてくれないか?」
「はっ?なぜあなたごときのために我慢しないといけないの」
「如き、なんて酷いんじゃないか……し、仕方ないだろ。だって、恋人のことが好きなのに……番と出会うし、母たちは番と合わせろ、婚約しろって言ってとてもじゃないけど、恋人を紹介も出来ない僕の方が可哀想だと思わないか?はぁーあ」
どちらが酷いのかというと第三者が見た場合、断然彼が悪いので百パーセント悪い。それなのに、こちらのせいにばかりする曲がった性格が大嫌いになる。
番だからと思って甘く見ていたけれど、相手がそのつもりならばこちらだって何事にもやり合うつもり、争うまでだ。
何故か自信ありげに、こちらを説得できると思っているけれど失敗しそうと思っているのか、目尻を上げて脅すように言う。
「君はもう僕の婚約者だ。婚約を白紙になんてしないよ?破棄してしまうと経歴に傷が付いて、番でもない相手となんて結婚できないからね?婚約している限り、契約は絶対だ」
フレージュは転生者なので、法律とか人権についてもしっかり勉強していて、異世界だろうと同じだと頭に入れている。
こんなことになるだろうかと、前もってファンタジーだろうが、関係なく法律関係は知っているのだ。
彼の両親も厳格と聞いているのにその息子は真実を知られた場合、とんでもない目に合うとわかる。
こちらの両親も普通の感覚で、普通の常識人なので恋人がいましたなんていうことが知れた場合、辛辣になるだろうし泥沼になる裁判が、今からとても楽しみだと笑う。
笑顔の意味を諦めの笑顔だと思ったのか、急に甘く優しい声で囁く。
「君の両親も番が見つかって、あんなに喜んでいたのに、すぐに婚約をなくして帰ったりしたら、親不孝になるんじゃないのか」
「は?」
よりにも寄って、騙した方がそんなことを言うなど、卑怯すぎると気持ち悪くて仕方ない。
確かに婚約したし番だからと大喜びした両親の顔を思うと、簡単に言い難いことではあるけれど、恋人がいる相手に騙されて結婚すると言うよりも随分とマシなのでは?
絶対に破談になるような大事になっていくとわかるし、番の男はこのままストレートに結婚できると思っているけれど、そんなわけがない。
普通の恋愛や番結婚っていうのは、お互い好意があってから成立しないといけない、この流れ的にお互い好きでも嫌いでもないだろうから、結婚しなくても問題ないと思う。
問題なのは、男の方が公的に番結婚詐欺と婚約詐欺となることだろうから、訴えたら一発で終わるような残念なやり方。家名が一瞬で廃り腐るくらいが最低限の関の山な醜態。
証拠も証言も一度咲くと、ザクザク集まるだろうということも安易に予測できる。
「そうですか帰りますね」
まともに話していられるか、となるのは当然なので持ってきたバッグを自室に置いたままなので、持ち帰ろうと考えてから踵を返す。
しかし、呼び止める声に焦りが出始めて、名前を呼ぶ不愉快さとなるとイラッとなる。腹が立つから、やめろと思う。
睨みつけるように振り返るとこちらを観てすくみ上がる番。怖いのなら恋人を作ったあとにツガイをここへ連れてこなければいいのにと呆れる。
フレージュは早く帰りたいと頭を振る。フレージュとて、普通の女性。ツガイに憧れてあれやこれやと憧れを胸に抱いてこの家に来た。
それを踏みにじる、この男はもう番なんてものではない。ただの婚約、結婚詐欺師だ。さっさと裁判でも引き起こして永遠に関係を断ち切りたい。
なにをもって、そんな真似をしたのかはわからない。親を言い訳にしていたが番のある世界にだって色々ルールがあって、番と一緒にならなくてもいいという話がしっかりあるのだ。
つまりは、フレージュもベスベランも共にいる必要はないということ。無理やり一緒になってもダメなことは歴史で証明されている。なので、恋人がいるから番を見つけたけれど、共にいられませんと明文化すればそれで済む。
それをしなかったくせに親に不幸を言えるのか、親が連れてこいと言ったからといって親親親とうるさくて敵わない。そんなに親を気にするのなら、ベスベランは親を説得するべきだ。
騙し討ちという、完全なる犯罪行為をする前にな。
いい加減、こんな茶番は終わりにしてほしいと、再度何用ですかと他人事に問いかける。婚約者だがカモフラージュなのだから赤の他人の態度になるしかあるまい。
フレージュは飽き飽きしている仕草で相手の言葉を待つけれど「僕のこと好きなんじゃないのか」というふざけた名セリフだった。
監督クビにしろと言いたくなるくらい主演がなっちゃいない。
男はこちらを見ては瞳を潤ませて何事かと、腹の立つ顔つきしかしない。何を言わせたいのか一瞬でわかり、瞬間湯沸かし器並みに、カッカッとなる。
さっきの今で、なにを己に言わせようと!?
叫びたかったけれど、相手がこちらをなんとも思っていないことも知れてよかったと、冷静になっていく。こちらの態度に首を傾げて何か言おうとするから、走るように去る。
普通に言えばいいのに、何か言う度に性悪な性格がボロを出すのはなんなのだろう。
恋人がいるから一緒になれないんだごめん、の一言で済むことをここまで拗れさせる必要なんてなかった。
「ハァッ!」
走ったから息が乱れて整えていると、横から声が聞こえてパッと顔を上げた。
「あれ?もしかしてあなた……」
「え、あ、はい?」
彼の親族が何かだろうかとみていると相手は、こちらを上から下まで不躾に見るという失礼な態度を取りながら、どこか侮る目で笑う。
クスクスと笑うのを見て、直感する。
この女が彼のいわゆる恋人かと。お似合いの、性悪カップルだったことが知れてよかった。こんなのと、唇姉妹になるなんて死んでも嫌である。
番というのは結婚を当然、視野に入れるのでキスなどをするだろうが、そのキスをこの人ともしていると思ったらめちゃくちゃ気持ち悪い。
オエッとなるわけで、そんな男を共有するほど自分は男選びでもう少しで、ミスを仕掛けているわけだから危なかったなと額を拭うと女はまだ言い足りないのか口を開こうとしたから、その前に早足で私室に向かう。




