閑話2『将来の夢は、人をたくさん救うこと』
「僕の将来の夢は、この世界の人をたくさん救うことです!」
「みてみてお母さん! この人形はね――!」
「あなた、なんてことしてくれたの……!!?」
「はっ――」
夢……。
知らない天井……。
そうか。僕は捕まったんでしたね。
「調子はどうだ? 天才研究者」
「……見てわかりませんか?」
「うなされてたからな。聞いて分かったよ」
僕はその言葉を無視して、過去を思い出す。
どんなに結果を出そうと、どんなに完璧を追い求めようと。
僕はまだ、あの自分へ向けられた鋭い目線に縛られている。
「クマがひどいな。もう少し寝たらどうだ」
「……そうですね。お気遣いありがとうございます」
もう一度布団をかけ直し、僕は眠りについた。
ーーーーーーーーーー
「レオくんすっげぇー!」
「どうやってこんなの作ったんだよ!」
「……これは」
またこの夢……。この景色は……。
僕が初めて、自動人形を作った時のものですか。
「勝手に動く!! すごいすごーい!」
「握手してくれたぜ!!」
こんなにはしゃいでいたくせに。
こんなに僕を褒めてくれたくせに。
ーーーーー
「お母さんみて!!」
「なぁに? これ」
「これはね――」
みんなに褒められたこと、嬉しかったこと。
僕がどれだけ周りと比べて優れているか。
このときはそんな比較するようなこと、無意識にやってしまう年頃でしたね。
「すごいじゃない。レオは天才ねぇ。将来はきっとかっこいい英雄になるでしょうねぇ」
「うん、英雄になる! みんなを助ける!」
魔石の魔力を消費して動くようにその魔力の性質を完全に解析し、僕の能力『創造』の魔力性質と呼応させ、互いに反応し合うシステムが完成させた。
その時点で僕はこの世の誰も成し遂げたことのない『無指示で動作する人工物』を作り出すという偉業を成し遂げた。
さらにはかぎりなく意志に近いものを持つ、人間と同等の判断を下せる人形を作り出し、僕は天才として謳われるようになる。
みんなが僕を認めてくれる。みんなが僕を褒めてくれる。
ただ、気分が良かった。
「でもそれって、勝手に暴れ出したりしないの?」
「あり得ないよ。人間と同等の判断を下せるんだ。理性みたいなのだってある」
「ふーん」
思えば、この時に気づくべきだった。
人間が自分の感情を抑えられなくなるように、それを模倣して作られた人形もまた、そうなる可能性があるということに。
自分の感情が爆発する、なんて経験が僕にはなかった。
だから、その世界を知らなかったんだ。
いつの間にか、その人形はみんなのお世話をするものへと変わった。
掃除、かわりに物を取ってきてもらう、さらには移動までその人形に任せるようになったとき、事件は起こった。
その人形は雑務に対するストレスに耐えられず、おんぶしていた一人の子供を突き落とした。
「大丈夫!? レオくん、どうしよう!?」
「こういうときは……えっと……」
冷や汗がすごい。
なんで血なんて出てるんだ?
なんで人形はこんな事をした……?
物を創ることしか頭になかった僕には、人の怪我の治し方なんてわからなかった。
……結果、その子は死んだ。
頭を地面に打って、頭蓋骨が粉砕されたようだった。ひどい怪我。頭は変形し、直接的には失血による死だった。
「なんてことしてくれたの!! うちの息子を返して!!」
「す、すみませ――」
「謝って済むと思ってるの!?」
僕が悪いなんて、そんなことはわかってた。
いや、この時の僕は人形のせいにして。何とか逃れようとしていたかもしれない。
「お母さん……」
ずっと僕の夢を応援してくれていた人。
その人なら……。
実の母親は、涙があふれる僕の目に、決して視線を送らなかった。
「……あなたみたいな子、うちの息子じゃない」
「……え?」
「人殺しなんて生んだつもりはないわ。なんて出来の悪い子なのかしら。いったいどこの家の子なんでしょうね」
「……うっぷ」
気持ち悪い。あんなに褒めてくれたくせに。
気持ち悪い。実の母親が自分の子供を見捨てているという事実が。
気持ち悪い。人を殺してしまった自分が。
気持ち悪い。こんな状況でもまだ、どうにかしてみせると思っている自分が。
ーーーーー
お母さんは家には住まわせてくれた。
一言、二言会話する程度。
その言葉も冷たく、非情なもので、とても家族のそれではなかった。
「僕が……悪い……」
僕が作り出した人形で人が一人死んだ。
偉大な発明の代わりに、一人が犠牲となった。
必死に言い換えて、良い方向に考えようとしていた。
そんなとき、あの災害は起こった。
ゴォォオオオッッ!!
炎が僕の住む街を焼き尽くす。一瞬にして街全体は崩壊。死者はその街の人口の九割を超え、人の命は容易く踏みにじられた。
正直、ココだと思った。
ここで人を助ければ、あの一件すら飛び越えて英雄になれると思った。
「動いて、僕の人形たち」
三体の人形を稼働させ、人を助けるように指示した。
僕の人形はそれ以外の指示を必要とせず、人を背負い、安全地帯へ避難させた。
問題だったのは、この三体の人形が人を助ける冒険者をモチーフに作られたものであったということ。
人を抱えて竜のもとへ走り、その近くで人を降ろして竜に戦いを挑んだ。
結果、背負っていた何人かの命は焼き尽くされた。
僕の人形も同時に。
『救う』という行為において、それは必ずしも一つではない。
例えばピンチにある人を助太刀する、または逃がす。
例えば元凶となるものの排除。
そんな二つの救うが重なってしまって起きた事件だった。
「お母さん……」
「……最……低、ね……」
人形に背負わせていた実の母親、その焼死体になる様を目の前で見た。
結果だけを見て、救けようとした過程は認めてくれなかった。
世の中は結果が全てだ。
すべてがうまくいく世の中にしなければ。
赤竜は角を折られ力を失い、僕のもとで優秀な戦力として育て上げた。
同じような目標を持つ人間を集め、僕の手下にした。
いい世の中を作るのを、邪魔をする奴は悪だ。
だから、殺さなければ。
護衛用の人形を殺戮を目的としたものに創り直した。
そうして五年後、新しい街『ネオン街』を発展させた。
そのまちの規模はみるみる拡大し、やがて大陸全体に広がる僕の理想のまちとなるはずだったのだ。
しばらく、外に出ていない。
僕の研究はまた、人に迷惑をかけてしまっていた。
雨が降っていたらしい。
一ヶ月もの間。世に悪影響を及ぼす雨が。
この世界はどうしても、僕を主役には……英雄にはしてくれないらしい。
誰も僕を認めない。
いつも結果だけを見て、僕を評価する!
僕がどんな思いで、どんなことをしてるかも知らないくせに!!
バチバチッ…………。
「もったいないと思ったからだろうな」
その人は僕に聞いた。
人形、雨、街、槍。
ここのいろいろなものは、すべて僕の能力によるものなのか、と。
それらすべては彼ら冒険者に迷惑をかけていたはずなのに、その人は僕の能力を便利だと言った。
きっとこの人は、結果を見ていない。
僕が何をできるかを考えて、もったいないと言ったのだ。
すごく褒められたわけでも、認められたわけでもない。
ただ、自分を正当に評価する人間に出会った。
そうだ。
これから、僕は僕を正しく使ってくれる人のもとで働こう。
そうすればきっと、道を間違えないはずだから。
そうすればきっと、自然と、みんなが僕をみてくれるはずだから。
第三章、終了です。
第四章の開始をお待ちください。




