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第42話『不燃』

「はぁっ、はぁ……ふっ!」


 ガシャン!

 もう何体壊しただろう。

 ハナさんのバフがあるおかげで、だいぶ楽にはなってる。

 それでも、さすがにこの数は……。


「うぐっ……」


 時折、ズンと体が重くなる感覚に襲われる。

 ハナさんは五分に一回、バフの更新が必要、これが原因だ。

 昔はもっと長かったらしいが……。


「ハナさん!」

「わかりました!」


 二度目のバフ更新。

 休む暇もなく動き回り、止まることはない。

 ずっとこっちを傍観するだけの少年は、かすかに微笑んでいる。

 俺達が勝つなんて、微塵も思っていないんだろう。


 確実に、人形の数は減ってきた。

 それでもまだ多い、が……あの少年が割り込んでくるならそろそろだろう。

 ほら、やっぱり。


 俺に向けて、二本の槍のように尖った物体が放たれる。

 速いけど、警戒してたから避けるのは……簡単だ。


「ふっ!」


 その二本の槍を避けた直後、着地と同時に踏み出す。


(攻撃直後、この瞬間を待ってた……!)


 立ちはだかる人形を避ける。

 目の前に迫り来る攻撃をかわす。

 そうして、ついにその少年のもとへたどり着いた。


 ――ブシュッ


「――か、は」


 背中のあたり、腹のあたりが熱くなり、じわじわと痛みが広がっていく。

 ふわふわとした意識で下へと目を向ける、と……。


「あ、痛え……あれ、なんだ、こ、れ」


 さっきと全く同じ見た目の槍が、背中側から俺の腹を貫通していた。

 グレイとの戦い、あの日の失血による気絶。

 それに近いような、何かがすぐそこへ迫っているような、そんな気がする。


 グラグラ、と視界が揺れる。


「ボクの左側には人形を多数配置。後ろも同様。右前方に二体配置。これで君がボクへたどり着くまでの道はある程度限られます。先程放った二本の槍を操作して、その道へ突き立てれば、そのどちらかにかかってくれる」


 俺がコイツに攻撃しに来るタイミングすら……読まれて……。

 嵌められた、……か。

 熱い。眠い。寒い。

 腹に力を入れると痛みが増す気がした。出血がひどくなる気がした。

 だから、動けない。

 

 動かずとも、深く貫かれた腹からは大量の血が溢れていく。


 ――あれ、地面が……近い、な。


 目を、閉じた。


ーーーシュン視点ーーー


『こちらシュン班。作戦通り一人撃破』


 短くそう連絡を入れて、また歩き出す。

 撃破後は無線に連絡、忘れるとこだった。


「戦った痕跡はあるけど……会わないわね」

「別の場所までぶっ飛ばされたりしてんだろ。とりあえずは奥に進むべきだ」


 なるべく痕跡のある方へ。

 雨の中調査してきた俺たちは、ほぼ全員の靴底には汚れがついている。

 そして、白い空間ではそれが目立つ。


 若干薄れて見えなくなってきたその足跡を辿り、時折ある分かれ道を運に任せて……いや、勢いに任せてくぐり抜ける。


 リーダーはそういう人だ。

 そして、キバもきっと急いで走るはず。

 なるべく行きやすい方を選ぶだろう。


 オレとあいつの直感が一致して欲しくもないものだが、オレが行きやすい方へと進んでいく。


「げ……」

「なによ。着いたんだからいいじゃない?」

「……まぁそうか。……そうだな」


 分厚そうな扉を開けると、そこではちょうど……。


「あれキバか?」

「そう、でしょうね」


 俺はちょうど地面へ倒れたキバのもとへ跳び、回収してシズクのもとへ戻った。


(息は……まだあるな。気を失ってるだけだが出血がひどい。あと一、二分遅れたら死んでいた)


「……なるほど、使えない研究員の誰かがやられた、と」


 倒れていたキバの近くに立っていたガキが俺たちに向けて……いや、独り言のようにそう呟いた。


「言うほど使えないわけじゃあなさそうだったけど」


 実際少し苦戦している。あれで使えないならこのガキはどんだけ……。


 いや、そんなことよりもなんだこの人形の数……。

 キバをシズクに任せ、ハナという女を回収し、その二人のもとへ。


「確かバッファーだったよな。オレに頼む」

「あ……は、はい」


 オレの方をちらっと見て少し触れただけで、ハナはキバのことをじっと見つめていた。

 涙ぐみながら必死に、静かにキバの名前を呼んでいる。


(この女……)


 その瞬間、地面が揺れるような感覚とともに、遠くから凄まじい音が響いた。

 どっからだ……? いや、今はどうでもいい。


 オレは行くとしよう。

 系統の違う可愛い女二人の前で、かっこつけさせてもらおう。


「……ソイツは頼むぞ」

「意外と仲間思いなのね」

「うっせ」


 跳んで、攻撃して。

 跳んで。避けて、攻撃して、跳んで。


 そんなことを繰り返しながら、人形の関節部分を正確に狙って壊していく。


「……シュン、さん! 魔力の感じ……! きっとその人形の主はあの少年です! 雨からもおんなじ感じがするので……! その元凶も彼だと、思います!」


 ハナが精一杯、震える声を張ってそう伝えてきた。

 魔力の性質を読めるのか。

 バッファーだから……? いや、ランクがオレ達よりも高いのかもしれない。


 まぁ。だからといって対策できるわけじゃない。対策できないからここへの調査任務が出てるんだからな。

 その言葉を軽く受け取り、また攻撃を再開した。





ーーーキバ視点ーーー


「――! ――て! 起きて!」


 ゆっくりと、ぼやける視界がはっきりとしていく。

 シズク……? なんでここに……。

 意識がはっきりしてくると、気を失う前の景色が、感覚がよみがえる。


「……キバくん! お腹、大丈夫ですか?」


 ハナさんが俺の腹に手を当てる。その手に吸い寄せられるように、俺も自分の腹を見る。


「あぁ、うん……あれ? ……腹の穴……塞がって……。あぁ、そっか。ありがとう」


 まだズキズキと痛みはあるが、腹の穴はほぼ完全にふさがっていた。

 それに失血の症状もない。かつてチームだったチルドとは違い、失った血の回復もできるヒーラーのようだ。


「感謝なら後にして。今……シュンが抑えてくれてるから!」

 

 シズクが向く方へと視線を向けると、派手髪の男が消えては現れを繰り返し、押されながらも人形を片付けながら少年を攻撃していた。


 行かなきゃ。二人いるなら何とかなるかもしれない。さらには両者がハナさんのバフ付きだ。

 

「ハナさん!」


 言わなくても意図は伝わる。

 ハナさんは俺の背中に手を当て、押し出す。


 その勢いに加え、俺はさらに踏み込んだ。

 一瞬にして派手髪のもとへたどり着き、合流する。


「ありがとう、えっと……シュン。こっからは二人だ」

「おっせぇよノロマ。もうオレは魔力切れちまうぞ!」


 そんな長い時間寝てたとは……。

 寝てた俺へ人形を近づけない動き方も苦労しただろう。素直に感謝しなきゃだな。


「……なんとかするよ」

「どうもできなかったからああなったんだろ?」


 うぐっ……。

 なんで頑張っていこうって時にこうもグサグサと刺せるんだ。いやまぁ、正論なんだけど。


 一旦戦闘をやめて、人形達から距離を置く。


「まずはこの人形が優先か?」

「……そう、だな。アイツに近づいたとしても能力がイマイチ分からないし……だから、先にコイツらだろう」


 俺は拳を差し出した。

 シュンは俺の拳を一瞬、驚いたような顔で見た。


「……誰がやるかよ」

「行こう」


 帰ってこなかったグータッチのことはお構いなしに、俺たちは各々動き出す。

 シュンが飛んだ先でシュンに気を引かれる人形たち。

 俺へと突っ込んでくる人形は全て片付け、シュンに気がいっている奴等も処理していく。


 人形の残りはだんだんと、少なくなっていく。

 横目で常にあの少年の動向に注意しながら動く。


 人形が壊れて、少なくなっていくのと反対に……あの槍みたいな攻撃の生成速度が、鋭さが……上がっていく……?


「うわ!? っぶねぇ!」


 足元に向けて二本、頭に向けて一本の槍が飛んできた。

 シュンの方も似たようなもの……計六本。


 目で飛んでいった槍の行方を追い、軌道が変わって俺めがけて飛んできたところでその槍を上へと蹴り上げる。

 今分かっているのはこの少年の能力が槍の射出ではなく、生成、操作の過程を踏めること。


(ここでまた追加の槍かよ!?)


 追い込まれていく。

 人形の配置が悪い。気絶する寸前の発言からして、おそらくこれもあの少年が意図したものだ。


(人形の統率を取れるのはアイツの能力か、また違う理由か?)


 グランベリアより歴史は圧倒的に少ない割に、ネオン街の発展はすさまじい。

 それを考慮しても能力以外で人形のような物体を動かす、というのは未だ出来ないはず。

 それなら前者である可能性が高い、な。


 槍の飛んでくる位置が悪い。

 足元にとんできたのを跳ねて避け、空中にいるところでさらにもう一本が飛んでくる。

 ……追い込まれていく。


「おい! 人形優先なんじゃねぇのか!?」

「……想定外だ」


 人形を壊せば、少しは楽になると思った。

 逆、とまではいかないが……苦しいままだ。


 この戦闘から考えられるものとしては。

 人形を動かしているのも、槍を創って飛ばしているのも、全てあの少年の魔力……ということ。

 もしくは……最初の少年の戦い方は全て、こっちが勘違いするように魔力を温存したものだった、ということ。


「チッ! バフが切れた……!!」


 ここでシュンの、ハナさんによるバフの効果時間が切れる。

 まずい。

 突破口が思い浮かばない。


 人形をすべて壊すことができれば、あの槍に集中できる。少しは戦いやすくなるか……?


 いや、その代わりに攻撃パターンが増えたりすればそれこそ対処のしようがない。

 どうする……。

 どうする……?


 考え、見て、感じて、避けて、壊して。



「うお……っと」


 瞬間、すべての人形の動きがピタリと止まる。

 二秒、三秒、過ぎていく時間の中で、コイツらは動くのをやめた。

 いや、震えてる……動こうとしてる……?


「チャンスだろ! 今のうちにやるぞ!」

「あ、あぁ」


 シュンは魔力切れが近い、急かすように俺の背中を叩いた。

 二人で動かなくなった人形を壊していく。

 さっきよりも圧倒的に速く、そして効率的に。


「チッ」


 少年の方から、舌打ちの音が響いた。

 そして、思わず二度見する。


「んだよその数……!?」

「掴め! チビ!!」


 シュンがこちらに差し出した手を、踏み込んで掴む。

 間一髪。迫りくる大量の槍を避けることに成功した。シュンが俺を一緒に跳ばせてくれたみたいだ。


「くそっ……。今ので魔力切れだ。お前が自分で避けてれば……」

「悪いな、ありがとう」


 ブツブツ言うシュンを横目に、あの少年の方に向きなおる。

 あれだけの槍の数だ。一括操作は難しいらしく、全てが壁へ突き刺さっていた。


(生死がかかってる……魔物との戦闘と何も変わらない……!)


 分かっていても、思い切りアイツに踏み込むのに躊躇いが生じる。


「動けよこのバカ足……!!」


 自分の両足を拳で叩き、俺はようやく踏み込んだ。


 その間に生成された槍のすべてを避けながら、少年の懐に入り込む。


「歯食いしばれ……!!」


 ドプンッ……


「……え」

ズバッ!!


 左目のすぐ下、頬のあたりに激しい痛みが走る。


「うっ……いってぇ……!!」


 その血を拭うように左手で左頬を覆ってから一瞬、手を離すと俺の左手は血塗れになった。

 傷を負った直後からなくなっていた感覚は戻り始め、じんわりと、ヒリヒリと焼けるような痛みが広がっていく。


 さっきの俺の拳は液体のような、固体のような。少年の身体を守るように張られたバリアのような、壁のような何かに阻まれた。

 そうして動きが止まった俺の頬をかすめるように、その壁のようななにかから一閃。尖ったなにかが飛んできた。


「お前……一人でも強いのか……!」

「戦闘向きではないですから。あなたが弱いだけですよ」


 息が切れた。動きを止めたせいか? それとも流血のせいか?

 

(次はあの壁に捕まらないように……捕まっても避けれるように……!)


 パチパチっ!

 覇力を発動して、強く踏み込む。


 ガクッ

「……!? うおあっ!!」


 俺の体は地面に強く激突した。

 何だ……! 何も問題はなかったはず……!

 息切れが強くなっていく。


(もう一回……! ここで止まるわけには……!)


 立ち上がろうと、右膝に力を込めて……。

 パヂッ!


「けほっ……はぁ、はぁ……」


 何で……?


「これで限界ですか?」

「んなわけ……ねぇだろ」


 『発動しない』。

 いや、発動した直後に、能力が解除される。

 火のつかないライターみたいに。


 普段と同じなはずだ。

 興奮によるもの……? いや、今までもそれは経験してきた。

 だったらなんで……!


「魔力切れのようですね」

「……!」


 この一ヶ月、俺はライさんから魔力の補給を受けていない。

 俺は自分で魔力を生成できない、だからあの人に頼ってきた。


(……あぁ、なるほど)


 『詰み』だ――。

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