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第40話『災害に隠れた脅威』

ーーーセン視点ーーー


 ギィイインッ!

 大男が殴りつけた俺の剣からなる音は、拳がぶつかったソレではない。

 なにか硬いものが当たった時のようだった。


「オイオイ!防戦一方かよォ!!」


 俺の能力はギア。

 長期戦向きの能力だが、過酷な戦闘の際は早く疲労がたまり、筋肉が活性化するため、ギアを上げやすい。


 ――はずなのに。


「テメェもテメェも、さっきから有効打の一つありゃしねぇ! 何やっても無駄だぜ阿呆ども!!」


 俺とリョウに、ほかの身体能力系冒険者。

 コイツはそのすべてを力でねじ伏せ押さえつける。

 あの日は調査段階、きっとコイツも全力じゃあなかったんだと、今になって気づいた。


 あのときは、咄嗟の判断で防具を投げ捨て、白髪の坊主を救った。

 そのために反射神経を、戦闘経験を、すべて注ぎ込んだ一手を使ったつもりだ。

 だが、そんな一手を引き出したコイツにはまだ上があった。


 ……ひでぇ話だぜこりゃ。


 リョウがコイツの頭に向かって拳を振るう瞬間、俺はコイツの胴体に大剣を振るう。

 それら二つは見事に弾かれ、逆にこっちが一撃を食らわされる始末。


「がっは……」

「ぐふっ」


 二人の鮮血が宙を舞い、床に落ちるまでのほんの刹那に何度も拳を交え、剣を振るう。

 そのたびにカウンターをもらい、それをギリギリでかわし、当たり……。


 そんなことを繰り返して数分が過ぎた。


 俺達はボロボロだった。

 顔から、口から、腹部から出血し、四肢は赤く腫れ上がり。

 リョウも同じで、膝をついて肩を上下させて呼吸を整えている。


 ヤツの呼吸も少しは乱れたが、流した血は少量。


(バケモノが……!)


 戦闘は困難を極める。

 一段階、また一段階とギアが上がり、すでに四段階目にさしかかった。


 自分でもわかるほどフラフラと立ち上がり、力なく地面を蹴りつけ、前へ加速する。

 それでも四段目のギアのおかげで、さっきより早く、ヤツのもとへ到達し、素早く剣を振った。


 シュピッ!

 腹部に剣をかすめ、切り裂いた感覚があった。

 見るとヤツは腹部から出血し、苛立ちの表情を浮かべている。


「こっからだぞ……リョウ、俺たちの役目は……コイツを倒すことだ。その後のことは任せてある」


 単純な実力なら、敵幹部の中じゃコイツが圧倒的に一位だろう。

 面倒さで言えばグレイとやらが勝っているだろうが。


「もっと楽しもうぜェ!? 血が混ざり合う戦場……あぁ、あの日以来……! 久々の感覚だァ!!」


 こっちの戦力はもう俺と、動くことすら辛そうなリョウだけ。

 その他の冒険者たちはとうに吹き飛ばされ、壁に埋まって、地面に倒れ込んで。

 戦意を喪失したものもいた。


「こっちもギアが上がってきた……こっからが本番――」


 そういった直後に目の前に褐色の手がかざされ、反応はしたが体が思うように動かず顔をつかまれた。


「ぐっ」


 ガガガガガガッ!

 何枚もの壁を突き抜け、背中を、後頭部を打ち付けられる。

 俺をドリルのように扱う怪力さには少し……恐怖を覚える。


「……ぐ、ぅあ」


 声にならない声が戦場に虚しく消えていく。

 意識が落ちる寸前にその手は離された。


「リーダーばっか見やがって……俺もいるっつってんだよ!」


 ガァン!

 拳と拳がぶつかり、衝撃波で付近の壁が、床が崩れる。

 好機。

 コチラを向いていないヤツの足元に剣先を滑らせ、その筋肉を両断する――!。


 ビシッ!

 その鋭利な刃は片足を切り落とすに至らず、異常なほどの筋肉の密度によって失速し、やがて止まった、

 骨までも到達していないであろう様子を見て思うのは一つだけ。


 ――勝てない。

 俺達がコイツに勝つことは不可能だ。

 弄ばれ、失血によって死んでいく未来が頭をよぎる。

 軽く放った一撃で絶命する俺達の未来が頭をよぎる。


 いくつもの未来を想像し、そのなかに俺たちの勝利はない。


 鬱陶しいほどに浮かぶネガティブな未来。

 

 それらすべてをかき消すかのように。

 ……空間に、轟音が鳴り響いた。


ーーーシュン視点ーーー


「あなたと一緒なんて、気に食わないわね」

「フン、言っとけよ」


 オレがナンパした女性、シズクと話す。


「今度は逃さないよ、僕の毒で今度こそ仕留める」


 目の前の男は、あの日襲撃を受けた際に一度戦った毒使いだ。

 男にモテても仕方ねぇんだがなぁ。


「気をつけて。私がいるとはいえ、一度あの男に負けてるんでしょ?」

「まぁな」

「行くよぉ?」


 オレの顔の真横を一本のチューブが通り過ぎ、首を狙うように戻っていく。

 首の後ろにチューブの紐が当たった瞬間にオレは能力を発動した。


「なっ――」

「ここだよバーカ」


 男の頭上へ身を滑らせ、頭に一撃をたたき込む。

 着用していたヘルメットのようなものに衝撃を吸収され、一旦シズクの近くへ跳んだ。


 男が操るチューブのようなものは、男の背中から『生えている』。

 触手……。そう形容しても違和感はない。


「ヒヒッ! やっぱり速い……でも、それだけだね」


 そう、オレはあの装甲を破る手段を持っていない。

 怪力でもなければ、鋭利な刃物を持っているわけでもない。


「シャアッ!」


 そんな声とともに、六本ほどの毒を持つ触手がこの空間を切り裂いた。

 ヒュガッと音を立てて壁を切り裂き、地面を砕く。


「チッ」

「わわ」


 シズクを抱きかかえて『跳ぶ』。

 その軌道はヤツが予想できるものではなく、そのすべての攻撃を避けることに成功した。


 ったく、やっぱ他人も跳ばせると魔力を食うな。

 思えばあの時も――いや、この話はやめておこう。


「テメェこそ、速度が足りてねぇぞ? バレバレな軌道で俺に当たると思ってんのか」

「あのときは当たったんですが? 現状を見れていないのはソチラです」


 その言葉の途中で男の背後へと跳び、割れたヘルメットにさらに一撃を刺す。

 指先をピンと伸ばして刺した一撃はヘルメットを貫通し、内部の装甲に到達した。


「フン、コレは割れないようですね」


 振り回される触手を避け、弾き、掴み。

 そんなことをしている間に横からの攻撃に当たってしまった。


「ぐっ……」


 意識が遠のき、自分の声が他人から聞いたように聞こえる。

 自分が苦しんでいるはずなのにその感覚はなく、上から観ているような感覚に陥った。


 ――パッと世界は明るくなり、オレは正気を取り戻した。

 シズクの治癒によるものだ。


「さっきから私を庇ってばっかり……。もしかしてあの日負けたのも……?」


「……わりぃかよ。俺のガラじゃねぇから黙っとけ」


 そんな会話を鼻歌を歌って聞き流す目の前の男は、ソレが終わるとこっちに向き直した。


 相手は毒使い。

 俊敏さも怪力さも持ち合わせていない。

 食らわなければどうってことはないが……。


「お前の身はお前で守れよ」

「え、うん……?」


 シズクの返事を聞いて俺は跳んだ。

 奴の背後へ。一撃を入れてこっちを振り返ったときに、さらにその背後へ。


 オレの能力は瞬転。

 高速移動とは違って、自分が飛ぶときは自身の全ての魔力を『跳ぶ』先へ凝縮し、そこに自分をペーストする、そんなイメージ。

 同時に、その置いた魔力は回収することができるから、一度で全ての魔力を消費するわけじゃない。

 だが、自分がそこに到達するまでの間、そのタイムラグで若干の魔力ロスはある。


 つまり――。

 オレは毒使いの足元に自分の魔力を置いて、ペーストする瞬間にしゃがみ込む。

 目の前の景色が瞬時に切り替わる、つまりペーストされた瞬間に飛び上がり、毒使いの顎めがけて拳を突き上げた。


 ガァンッ!

「ぶべっ……」


 かろうじて自分の意識を保った毒使いが、触手をこちらへ向けて伸ばしてくる。

 さっきと同じように背後へ跳ぶ。


「はっ……」


 オレの飛ぶ軌道を予測できないながらも、あらゆる手を予測し、その触手を不規則にぶん回していた。


 背後へ跳んだオレに向けて、跳んだその瞬間にはすでにチューブが迫ってきていた。


 だが。


 ドゴッ!

「ぐあっ……!」


 コイツの背後にいたオレからはありえない、コイツの右側からの、顎への攻撃。

 この一撃の後、静まり返ったこの空間にはドサッと、倒れる音だけがした。


「っし、成功、か」


 置く魔力量を少なくすればするほど、跳ぶまでのラグが長くなる。

 その使いにくさから、普段は全魅力を跳ぶ先へ置くことで、そのラグを限りなくゼロに近づけている。


 今オレがやったのは、五割と五割に分けて魔力を置く方法だ。

 自分の魔力の半分をコイツの背後へ置き、その一秒後にコイツの右側へ、残りの魔力を置く。


 置いた魔力が同量だから、ラグの時間も同じになる。それを利用した動き方だ。


「……怪我は?」

「ねぇよんなもん」


 この後の役目は……。

 ほかのチームのとこへ加勢、か。


「行くぞシズク」

「分かったわ」


 毒使いをそのままに、オレたちはこの研究所みたいなとこの最深部へ歩き始めた。


ーーーサキ視点ーーー


 目の前にいるのは、グレイという男。

 以前、戦った……いや、一方的に撃った事がある。

 その短い時間で、この男の能力は見当がついた。いや、見当をつけた子がいる。


「また私に撃たれにきたわけ?」

「あれは……まあ、不意打ちでしたからね」


 あの日は後ろからの、いきなりの射撃だった。

 それでも現状、それくらいしかこの男の能力を突破する方法はないと言える。

 だから縋るしかないのだ。


「俺は何をすればいい?」

「あぁ……会ったことないんだっけ? とりあえず、サポートかな」


 今は冷静にカラスに指示出し出来ているものの、この作戦を聞かされたとき、正直私が一番驚いた。


 『サキちゃんはメイン攻撃役』


 これが彼女、ハナちゃんに聞かされた、私の役割。


「頼むよ、カラス」

「……こっちの台詞だ。こんな近接戦でどうやって戦うつもりだ?」


(まぁ、見てなって……!)


 魔力を込め、銃を作り出す。

 この近接戦では通常用いられない、狙撃用の銃。


 ダァァン……

 爆音の銃声は長い通路によく響く。

 作って構えて、撃つまでの時間は約一秒。

 この近距離だ。放たれたとほぼ同時にグレイに着弾する。

 それでも、私の銃弾は弾かれた。


 やっぱり、正面からじゃ効かないわけね。


「無駄ですよ」

「それはどうかな?」


 カラスに合図して、グレイの足元に影の沼を作ってもらった。

 私は壁に向けて、その銃を撃つ。


 ギャンッ!

 音を立てて壁を抉ったかと思えば、その弾は四、五回跳ねてグレイの背後側から足に命中した。


「なっ――!」

「これでも、テクニックは第三支部長から認められてるからね」


 やっぱり威力は落ちちゃうな……。

 でも、壁の硬さは、材質はなんとなく分かった。

 だから次はもっと完璧に……。


 二本目の銃を創り、その両方から、完璧な角度で壁に向けて射出する。

 壁の材質、硬さ。弾の速度、形状、硬度……。

 それらすべてを考えた上で、最短、最速、高威力を実現できる一手。


 縦横無尽に、自由に駆け巡るように見えるその二つの銃弾は、やがてグレイに吸い付くように命中する。

 できる限り目で追ってたようだけど、意味ないよ。


「うぐっ……」


 それぞれ肩、脇腹に命中し、そこから鮮血が飛び散る。


「これで分かった? あなたが一番厄介だから、対策してきたってこと。いくらやっても無駄なのはそっちよ」

「……この私が……。フフッ」


 グレイは不気味に笑いだした。

 そして、口を開く。


「まさかここまでとは。これまでも調査で来ていた冒険者はいましたが……そのどれも、私達のことは見抜けなかったのに。……いい機会、かもしれませんね」

「……何が言いたい?」


 カラスが口を挟んで、グレイは待っていたように、続ける。


「この計画が終わるときが来たってことですよ。良い意味でも、悪い意味でも……ね」


 不気味な笑みを顔に貼り付けて剥がさない。

 グレイは何を思っているのか。

 計画が終わるって……コイツにとっては悪いことだけじゃないの?

 


「……だんだん、第一ラウンドが終わったようですね」

 

 グレイは耳のあたりに手を当て、そうつぶやいた。


「……なにそれ」

「知らなくていいんですよ。どうせ――」


 そこで口を閉じ、緩んでいた顔を引き締め直した。


「さぁ、こっちも戦いの続きをしましょうか」

「なんなの……やっても意味ないでしょ?」


 大地が揺れ、地鳴りのような音がした。

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