第39話『あの日の強敵たち』
敵の本拠地へと侵入し、数分が経過した。
俺達は堂々とこの場所を歩く。
外の暗さは嘘のように明るく、壁、床、天井一面の白が目に刺さる。
「急いだほうがいいんじゃないですか?」
「そうですよ! 敵に見つかったら――」
「焦んなよ、新米共」
列後方から出た不満に笑ってそう返すセンさんには、何か狙いがあるようだった。
リョウとセンさんを先頭に置き、サポート能力を持つ者は後ろへ。最後尾に俺とハナさんだ。
前後を強い破壊力を持つ人で固める編成。
「決戦前、焦るのが普通なのに一瞬でこれを考えたのか……? すごくないですか?」
「あ――。そ、そうですね! ……すごいです」
パタパタと顔をあおいでハナさんはそう答えた。
こんなに完璧なら焦ることないと思うんだが。
敵らしきものは姿を見せないし、このまま敵勢力の意表をつければ――。
「貴様らのようなヤツが、この場所に足を踏み入れていいとでも思ってるのか!? 人間共!!」
「アリエル班はヤツと戦闘、それ以外は進め!」
低い女の声と同時にセンさんの声が空間に響く。
もとからこの襲撃を知っていたように立ち回り、華麗に衝突を回避、最小限の人数での対峙。
「逃がすかよ」
「シュン班はコイツと戦闘、ほかは同じように進め!」
「う〜っす」
横から参戦したヒョロい男にも対処し、俺たちは進んでいく。
ここにきてから、俺たちに準備する時間はなかったはずだ。
この全てを、冒険者が全員揃うまでのあの一瞬でやったってのか!
センさんと共闘したあの日、ほんの一瞬だけ俺も肩を並べられるって思ってしまった。
けど――。
「行くぞ坊主」
「はい」
壁は分厚いな。
ただ、実力差なんて今はどうでもいいんだ。
そう、今はただ、この雨を止めるために。
ーーークロム視点ーーー
「ちょっ! アリエルさんっ!! 俺周りに金属無いとろくに戦えないっすよ!!」
「そうか。なら――」
「そこのデカ女! 五月蝿い口閉じな!」
「む」
目の前の半竜みたいな女とアリエルさんは一瞬で三回、四回と拳を交えた。
半竜の方は力が強く、それに任せている感がある。
アリエルさんは力では勝てないものの、捌いて攻撃してを一連の動作で、その滑らかな動作一つ一つの繋がりで対抗している。
流れるように敵の攻撃を受け流し、半竜に対しては一撃じゃ効果が薄そうな攻撃を積み重ねていく。
「話じゃ炎を使ってあたりを焼き尽くしたって話だがな」
「雑魚共相手にわざわざ動く必要もなかったからな!」
アリエルさん、押されてる……。
だんだんと壁へ壁へと追いやられ、逃げ道を失っていく。
このままじゃまずいっすよ――。
「お前、金属があればっ、戦えるんだろうな」
「……え? そうっす……けど」
「なら、今からお前もこの戦闘に参加しろ。私一人じゃ抑えれそうにない」
アリエルさんの背中は壁へ密着し、半竜から繰り出される一撃を何とか避ける。
その威力は壁一面を削り取るほどで、抉れた壁から鉄の支柱が顔を出す。
「――あ」
そう、鉄の支柱が顔を出した。
アリエルさんは最初からこれを狙ってわざわざ逃げなかったんすか?
だとしたら……。
「頭いいっすね!」
「ふん」
魔力を体の外へ放出、それを鉄部分へと接続して持ち上げる。
この戦いが終わっても、まだ続くかもしれない。
長期戦に備えて少し温存気味で戦うとしますか。
「魔力食うので激しい動きはしないで欲しいっす!」
「あぁ」
アリエルさんはまた走り出した。
さっきよりも速度が上がっていて、その動きのキレも……。
彼女の能力がコンボであることはさっき知った。
彼女は長期戦向きの能力を持っている。
アリエルさんが左へと飛ぶ。
半竜はそれを追い、体の左側をこっちに向けた。
なら――。
俺は浮かせた鉄の支柱を空中で魔力に滑らせ、半竜の背中へと導線を描く。
その導線を描いた魔力とは別に鉄の支柱へ含ませた魔力で導線を辿るように押し出し、速度を上げていく――。
(できれば……アリエルさんは後ろに飛んでほしい……)
ヒュ!
血が宙を飛んだ。
俺は見事に半竜の肩を支柱で打ち抜き、一撃を与えることに成功した。
「――ぐあッ」
叫び声を上げた刹那、半竜はこっちを振り返り、ほぼ同時に地を蹴りこちらへ翔んできた。
「うわぁ!?」
大きく開いた半竜の口が赤く光り、そこからは熱を感じる。
もう一回、さっき壊れた壁から三本の細い鉄柱を取り出し魔力で導線を描き、押し出して速度を上げる。
いや、間に合わな――
トンッ
横からの衝撃で、俺の身体は右方向へ移動した。
もといた場所を、ここからでも熱いほどの熱が、炎が、焦がす。
「アリエルさん!」
「無事だ!」
放射される炎の中から、炎の音を遮って声が響いた。
微かに聞こえる足音は半竜へ近づいていき、ついにそこへ到達する。
アリエルさんが積み重ねたコンボにより熱への耐性を獲得したのか、それとも単純に防御力が上がったのか。
はたまた、やせ我慢か。
それは俺には知り得ないこと、彼女は半竜のもとへ到達した後、その拳でヤツの鼻を叩き潰した。
鉄柱が刺さったままのその体からさらに血が外へと出ていく様を眺め、俺は少し安堵した。
「ふぅ〜、案外――余裕っすか?」
小声でそうつぶやいた。
半竜が何を意味するかなんて、詳細も知らない俺はまだ知る由もなかった。
ーーーセン視点ーーー
「ったく、デケェにも程があるぜ……」
俺達はこの敵のアジトを、走りぬけてた。
分かれ道のすべてを手分けすることなく、全員で同じ道を。
「ついてこれてるな?」
「「はい!」」
何度目か、後ろからの元気のいい返事を聞いて、安心する。
あの二つの班と別れてから、俺達は先を急ぎ始めた。
未だにこの場所の重要そうな場所にはたどり着けちゃいねぇ。
相手の幹部のような役割を持っているであろう、強者たちもあの二人以降参戦していない。
街の地下に存在しているとは思えない広さを誇るこの白い要塞は、俺たちの目を狂わせるかのように眩しい光を反射している。
(こんだけなんもねぇと気が狂いそうだ……)
ドンッ!
一度鳴った、世界が揺れるような振動に構えを整える。
その轟音から続き、どんどんと、地面が抉れるような音が、振動が近づいてくる。
「なんだ!?」
「地鳴り……?」「いやこれは……!」
脳みそごと揺れるような感覚に陥る、この振動と爆音の正体。
そういえば、あの日もそうだったな。
上から音を立てて貫通させて降ってきたと思えば、一撃目から白髪の坊主を殺そうとした大男。
「俺たちの出番だぜ?」
「……うっす」
隣の体格のいい男、リョウは頬をペシッと叩き、それを合図とするかのように壁を貫通させて褐色の大男が、ダァァンと地を震わせこの場所へ参戦した。
「さァて、芯のある奴ァどいつだァ!?」
俺達を舐めるように見て、やがて俺を見つけてニヤリと笑みを見せる。
そうしてもう一度見回し、やがてキバを見つけ口を開いて豪快に笑う。
「二人ィ揃ってンじゃねェかァ!」
こっちとしちゃ、ここでキバを消耗させるわけにはいかねぇ。作戦が崩れちまう。
「テメェの相手は俺だわ!」
リョウの自身を鼓舞する雄叫びとともに、俺は一段階身体のギアを上げ、足裏に力を込めた。
「進めぇ! ここの最深部まで!!」
「はい!」
キバの威勢のいい返事を受け取ってから、その後の返事すべてを振り払って、地を蹴った。
アイツらなら、最後までやってくれるだろう。
なぜならアイツらには――。
ーーーキバ視点ーーー
最初は二人、次に一人。
敵から送られる兵はこちらに都合のいいようにまばらに来る。
奴らの目的が奴らの間で一致していないのか、それとも少数で止めれると思ったか。
奴らとは以前から戦いを交えている。後者の可能性は薄い。
しかし、センさんがいなくなった今、誰が戦闘する班を指定し、仕切るのだろうか。
この班分けも、敵に合わせて出動させる班も、すべて彼の作戦あってのことだっただろう。
だとしたら、彼が抜けた今、この集団はピンチに陥っているのかもしれない。
「さっきと同じぐらいのペースで敵が来るなら、きっと五分以内にやってきます」
「あと五分じゃ対策のしようがねぇな。せめてこの班分けになった理由だけでも知れれば――」
そう、あと五分以内にやってくる。
思えば最初の二人は立て続けに俺達のもとへ到着したんだったか。
そう、俺達は考慮していなかった。
これだけの主力を送っても止められない侵入者が来たとき、奴らが取るであろう行動を。
「先日は随分とやられてしまいましたね」
「……」
二人の刺客がやってきた。
そのうちの一人は顔を合わせたことのある人物、グレイであった。
まだあの大男が参戦してからは間もない、センさんが抜けた直後に準備ができているはずもない。
「おい、どうすんだ」
「あたしたちの役割は……?」
レイラ、サキにコハクが口を揃えて現状への疑問を抱く。
俺だって聞きたい。
どうすればいい。
グレイに対処する方法を知る俺がここで戦闘するべきか?
それとも、また別の役割があるのか?
いったいどうすれば――
「サキちゃんの班はグレイの対処、その他はもう一人の男の対処! お願い、します!」
声を震わせながら、一人の少女が吠えた。
聞き覚えのある声に、最近じゃよく馴染んできた緊張気味の声色。
そう、ハナさんが大きく声を上げたのだ。
「お……おう!」
「まかせて! ハナちゃん!」
頼まれた二つの班は戦闘すべく前線を張り、俺たちを逃がすと言わんばかりに陣形を整えた。
「進みましょう、私たちは……大役ですから!」
「は、はい」
普段の様子と違って随分と頼もしい、覚悟を決めたような表情がそこに張り付いていた。
特に拒否する理由もない、なんなら頼もしい存在だ。
俺達はここの最深部を目指して走りを続けた。
きっとそこに、この害雨の原因となるものが存在していると信じて。
ーーーーーーーーーー
「それにしても、ハナさんはこの作戦について聞かされてたんですね」
「え?」
できるだけ急ぐため、ハナさんを抱えて走りながら、俺は意外だったことについて触れた。
その返事は思っていたものとは違い困惑の色が見え、腕の中の彼女は恥ずかしそうに前髪を弄る。
「その……言おうと思ってたんですけど、この作戦考えたの――私です」
「え?」
「……事実です」
一瞬足が止まり、またすぐに回転させる。
意外だったことについて聞き、答える側であるはずのハナさんから出た言葉は意外なものだった。
あの一瞬で、リーダーであるセンさんが考え、即興で創り出したもの、もしくはこの作戦決行が決まった日から考えていたものだと、そう思っていた。
センさんとハナさんが今日、作戦について話し合っていた素振りは無い。
だとするなら、おそらくこの作戦を考えたのは少し前、ソレをセンさんに伝えた、ということだ。
「意外、でしょうか」
「はい、まぁ……そうですね。意外です」
目に入ってくる色の情報が変わらない白い空間で、足音と二人の話し声だけが響いていた。
時折遠くから聞こえる轟音は彼ら冒険者たちの戦闘によるものだろう。
そうしてたどり着いたのは、今までよりもより厳重に、そして重厚な扉に包まれた一つの部屋。
俺は腕の中の彼女を降ろし、互いに頷いたあとその扉を開けた。
ギィイイ……。
深く響く音を発しながらゆっくりと開いていく。
ついに姿を見せた扉の奥の一部屋は想像の数倍は大きく、チラホラと物が置かれているのがみえる。
その広さの割に置かれた棚や机などは小さく、空間を持て余していた。
「最深部で……間違いないようですね」
「そのようです」
「チッ。……随分と早い到着じゃないですか」
変わらず白いこの空間に同化した白衣に身を包んで、一人の男が姿を見せた。
「どうも。君達の存在は以前から目障りだと思っていましたが……ついにここまで到達してみせるとは。一般の研究員の方々にも戦ってもらえばよかったですね。」
「……そいつらを犠牲にしてまで俺たちを止めようってか」
「えぇ」
さて、目の前に立ちはだかった一人の少年は俺より幼そうだ。
とても単独で俺を抑えられるとは思えない。
ヒョロっちくて、背はまだ低い。
なぜこの空間はこれほど広いのか。
その答え合わせは済んだようなものだ。
一人で倒せないなら、協力してくれる存在を創ればいい。そう、前例がある。
あの日、あのビルで壁から湧いて出た無数の人形が、この広い空間の、その壁からも姿を見せた。
「殺す気かよ……?」
「君たちが死んでも何ら影響はありません。安心して逝ってください」
ハナさんが俺の背中に触れ、じんわりと力を流し込む。
覇力も最大出力で発動し、俺たちは万全の状態を整えた。
そうして走り出した。
あの少年を守るように動く、その人形たちに向かって、俺は拳を向ける。
明けない夜はない。
俺達は今日、この害雨を終わらせる。




