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第38話『敵の本拠地』

 今日は調査二十八日目。

 サキがグレイに大きな一撃を与え、それ以降はヤツらの顔を見ていない。

 その間にどんどんと街の調査は進み、残りはもう一割もないほどとなった。


「これ、人が住むところも調査したほうがいいんじゃねぇの? その住人たちに頼み込んでさ」


 朝食時、レイラが言っていたそのセリフを思い出す。

 ……まさか、な。

 俺は地図に書かれた住人アリの文字とそれが記載された建物、目の前に広がるそれを照らし合わせ、ただ眺める。


「……キバ?」


 アリエルさんに呼ばれて意識を取り戻した。

 無理して住宅に侵入する必要はない。

 この街すべての調査が終わったとき、そこにも手を付けるようにすればいい。


「なんでもないです」


「そうか」


 俺とアリエルさん、そしてもう一人の鎧をつけた冒険者と三人で、雨の中を歩き出す。


「アリエルさん」


「アリエルでいい」


「アリエル……さん」


「……なんだ」


 前々から気になっていたことを聞いてみよう。

 アリエルさんもセンさんと同じB+級の冒険者。

 この人たちの能力の詳細について、だ。


「センさんとかアリエルさんとかの能力って、なんですか?」


「僕も前から気になってました」


「む……そうか。センの能力は『ギア』だ。動くと体があったまってくるような感じで、自身の魔力消費や運動量などに応じて段階的に身体能力を上げる。そんな能力だ」


 聞く限りじゃ、長期戦向きの能力か。

 俺がセンさんと一緒に戦ったとき、あの人動き始めたばっかりだったよな……?

 あの人の全力、どんだけバケモンなんだよ。


「私の能力は『コンボ』。説明するのは難しい能力だが……そうだな。簡単に言えば戦闘中の動き方で自分の身体能力とかが変わるみたいなものか。」


「面白そうな能力ですね」


「まぁ……不便だがな。お前の能力は?」


「俺は――」


 会話をしながら街の調査を終わらせていく。

 残りはもう一割を切っているというのに、いつまで経っても手がかりは見当たらなかった。


ーーーーーーーーーー

 その日の夜、いつも通りご飯を食べ終えた頃。

 俺はある二人に声をかけられる。


「坊主、ちょっといいか」


「センさん……と、ハナさんも」


 断る理由もないのでついていき、センさんの部屋に五人が集まった。


「調査、これで順調って言えるか?」


「……いや、お世辞でも言えませんね」


 ここに集まる五人はリーダーであるセンさん、副リーダーのアリエルさん、ハナさん、それにカラス。

 最後に俺だ。


「明日からは調査を取りやめ、少し強引に行こうという話を出してな」


 センさんではなくアリエルさんが話し始めた。

 今日の調査で俺の能力派の詳細を聞き、少し試したいことができたそうだ。


「おそらく、戦闘時ではなく普段の状態ならセンよりお前のほうが破壊力がある。ハナもお前に対してはバフ倍率が高いようだしな」


 破壊力が何の関係があるんだろうか。

 ……おい、街全体を破壊するとか言わないよな……?


「どうやらカラスがレイラとやらの発言を受けて人の住む建物付近を調査したところ、それらしいものを見つけたらしい」


「……なるほど。ってことは――」

「地下だ」


 カラスが口を挟んできた。

 その口ぶりは少し自信がないようにも見えたが、少しでも手がかりを見つけることができたのなら、今となっては上出来だろう。

 現に誰も何も見つけることができていないしな。


「俺は影に潜っているとき、外の世界につながる目印……『光』のようなものが見えるんだ。うっすらと、地下にそれが見えた気がしてな」


「俺とハナさんが協力してそこを掘る……ってことか」


「あぁ」

「話が早くて助かるぜ」


 その手段では不安要素もあるよな。

 そう、それだと街の人の動向が少し心配ではあるが――


「街の人の心配は要らねぇぜ? ソイツらは避難させればいい。そして不審な動きをするヤツがいるなら、そこで俺らの出番ってわけだ」


 だから、この五人なわけか。

 今、調査方法を変えるのは賢明な判断だ。

 ここまで来て何の手がかりもなくなるとは思えない。

 唯一俺が行ったときから気にかけていた『昔ここにあった建物』も直接的なつながりはないようだった。


「わかりました。作戦決行のときに呼んでください」


「あぁ。悪いなこんな時間に」


「構いませんよ」


 各々が自分の部屋へと戻る。

 任務開始……つまりあの竜車に乗った日から、ちょうど一ヶ月が過ぎようとしている。

 この長期任務は明日で終わるのか、それとも……。


 終わると信じたい。

 最近はこの雨が強すぎて空気だけでも体調が悪くなりそうなほどだから。


ーーーーーーーーーー

 調査二十九日目。

 先日話し合った通り、俺たちはカラスの案内のもと怪しい場所とやらに向かっている。

 人が住むところは調査が進んでいない。

 いくらそうだといえ、こんなに近いとこにあったとは……。


 俺達が宿泊しているホテルから歩いて十分。

 周りは調査済みの建物で囲まれていてるが、ぽつんと存在するこのマンションのような建物だけはやはり調査されていない。


「ちょっとまっててください」


 カラスは影へと潜っていった。

 おそらくその『光』のようなものとやらを探しに行ったのだろう。

 見えた気がしたってことは見えにくいってことだ。

 少し時間がかかるかもしれないな。


 この間に残りの四人でこの建物に住む人を外へ出し、ホテルへと避難してもらった。


「このマンションに何をするつもりだ!!」


「落ち着いてください。またすぐ戻れますから」


「お前ら――」


 男が何かを言いかけた瞬間、声が響き渡る。


「見つけた! ここだ!」


「行きましょう、ハナさん」

「今バフかけます!」


 二人で走り出し、カラスのもとへ。


「うおっ! おめぇ!!」


 後ろからセンさんの驚いたような声がする。

 予想はついた。きっとさっきの住人が暴れ始めたに違いない。

 この一件に関わりのあるやつなのか、単にこの家に思い入れが強いやつなのか。


「こっちは気にすんな! やれ坊主!!」

「はい!」


 覇力を発動。

 魔力が活性化し、体が熱くなる。


「深さは!」

「深い! 一撃じゃ足りないかもしれないぞ!」


 最大出力――。

 あんなにスピードが出せる状態だ。

 ものすごい威力が出るだろう。

 拳を思い切り引いて地面に叩きつけて――!


 ドンと一気にこの街中に響く轟音は激しい雨音すら全てかき消して轟いた。

 それとともにこのマンション前の地面が消し飛ぶ勢いで地面が割れ、沈む。

 瓦礫は飛び散り建物への二次被害を出していて、俺が殴った場所は見事に地下を貫通、目的の場所へと到達していた。


「ぉあ……!?」

「へぅっ……!?」


 近くにいたカラスとハナさんは同時に奇声を発して、地下へと落ちていく。


(カラスは潜れるからともかく、ハナさんはまずいか……!)


 空中で飛ぶ瓦礫を足場にハナさんのもとへ跳躍し、その小さな体を拾い上げた。


「……っ怪我は?」

「ないよキバくん……!」


 全員が着地に成功し、ここにいた五人はその空間へと侵入することとなった。


「デケェなぁ〜……!」

「そう……ですね……!」

「地下にこんなのがあったとはな」


 この街の半分くらいの規模はあるんじゃないか?

 地下に大都市の半分ほどの規模の空間があることなんて……。


「センさん」

「分かってるさ嬢ちゃん」

 

 二人は目配せして、センさんは耳の無線機に手を当てる。


『全員、今から俺が言うところに集まるように!』


 この規模だ。全員で入るのは当たり前。

 そしてこれなら敵の規模も相当なものと考えられる。

 厳しい戦いになりそうだな……!


 この近くを調査するように、と念の為事前に伝えていたのですぐに全員が集まるまではそれほどかからなかった。

 ついに来た決戦の時を心待ちにするもの、顔が引きつっているもの。

 各々の心境はそれぞれだろうが、全員が一つの目標

へと向かっていた。


 『この雨を終わらせる』。


 任務内容と一致するその覚悟が全員にあり、全員がそこを向いている。

 こういう目標は人の成長のために欠かせないことだと思う。


「こっちの主力メンバー、組み合わせを発表する!」


 センさんは準備されていたようにスラスラと名前を読み上げていく。

 そのペアはこうだ。


『キバ、ハナ』班

『カラス、サキ』班

『リョウ、セン』、複数冒険者班(身体強化系)

『アリエル、クロム』、複数冒険者班(魔力放出系)

『シュン(派手髪の男)、シズク』


 他にはシロの名前が挙げられたが、協力するつもりはないらしい。

 こいつの実力は未知数だ。

 不確定要素を入れないのは手堅い判断で良い。


「全員で奥へと進んで行く! 敵と遭遇したら俺が指示を出す!」


 リーダーはすうっと息を吸って、胸を張ってたたいた。


「――行くぞ!」


「「はい!」」

「「おう!」」

「うっす」


 こちらは万全な状態。怪我人はなし。

 全勢力を注いで、この研究所のような場所を渡っていく。

 ここが本当に敵の本拠地なら、敵勢力もほぼ全てがここに集っているだろう。

 『新人冒険者+付き添いのベテラン』対『害雨の原因集団』の全面戦争が、今始まる。

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