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第3話『らしい生活』

 昼時、窓から日が差し込む一軒の家。

 二人の家族が暮らすその家の食卓で、日光を反射して白い髪が元気に揺れた。


「今日も公園行きたい!」


「じゃあ、ご飯食べ終わったら行こうか」


その髪の持ち主のキバと、家族であるアイシャが会話をするようになってから約1ヶ月がたった。


 現在のキバはというと、ちょうど1週間前に9歳になり、誕生日を祝ってもらったところだった。

 そのお祝いの甲斐あってか、だいぶこの家の生活にも慣れ、アイシャとも親しくなったようだ。

 さらに、近くの公園に遊びに行くほど、活発になっていた。


 先程の会話のような調子で、わがままも言うようになった。

 アイシャはそれに文句も言わず、ただ嬉しそうに眺めている。

 キバはほぼ毎日その公園に通っていて、そこは遊具が充実していた。

 ブランコや滑り台はもちろん、簡単なアスレチックゾーンなどもあってキバみたいな子供が体を動かすにはいい場所だ。



ーーーーーーーーー

 ご飯を食べ終え、遊びに行く準備をして2人で玄関を出た。


「最近は毎日のように公園行くよね。好きなの?」


「うん! 体動かすの好きなんだ」


 アイシャの何気ない質問に対して、キバはそう返す。

 彼は特にアスレチックゾーンがお気に入りである。


「子どもの体力は計り知れないね」


「アイシャさんは遊ぶの嫌い?」


「いや……」


 そう言うとアイシャはキバの前を走り出した。


「実は私も。運動大好きなの!」


 ジョギングするアイシャの背中を追い、公園までそのまま向かった。




 家を出て、走って5分ほど。二人が公園に着いたとき、そこは相変わらずの賑やかさで、同じくらいの歳の子供、その保護者、少し上の人達も、年代関係なく集まっていた。


「今日は何するの?」


「今日もアスレチックやる!」


 そう言ってキバは真っ先にアスレチックゾーンに向けて走り出した。毎日運動しているキバの体力は遊ぶだけでは底をつかなくなっていた。


「私も運動しながら見てるね〜!」


 アイシャはキバにそう声をかけ、アスレチックゾーンを見渡せる位置にある鉄棒に向かった。

 毎日だいたいこんな感じで、各々で遊んでいる。

 たまに一緒に遊んだりもするが、さすがに子供用アスレチックゾーンはアイシャには小さいらしい。


 「あ!」


 遊んでいると、キバは3人くらいの少年たちが公園に訪れるのを見つけた。


「また一緒に遊ぼうよ〜!」


 少し遠くから声を掛けると、その少年たちは振り向いた。


「キバ!」


「キバ君だ!!」


 声の主、キバに気づいた途端にキバに向けて走ってくる。

 この3人の少年たちはキバが遊びに来るときに大体毎回いて、一度声をかけたのをきっかけによく一緒に遊ぶようになったんだ。

 少しやんちゃそうなぽっちゃりはタク。

 髪が目にかかりそうでヒョロくて弱っちそうなのに運動神経がいいのはヒロヤ。

 短髪で眉毛に傷があるのはシンヤ。

 俺は毎日と言っていいほどこの3人を誘ってアスレチックで魔物ごっこをしていた。


 魔物役と人間役に分かれ、人間役は魔物役に捕まらないよう逃げる。

 魔物役は人間役を捕まえるために追う。そんな遊びだ。


 これは昔から伝わる遊びで、実は冒険者……いや、人類を貶す内容のものであったが、世の子供たちはそんなことを気にせず元気に遊んでいる。

 内容がどうだったからと言って、無邪気に遊ぶ子どもたちを罰するほど世界は腐っていない。

 素晴らしい。


「今日もやる?」


「やろやろ!」


 いつも通りの会話をしたあとじゃんけんをして魔物役を決める。

 魔物役はシンヤだ。

 キバ達はシンヤに捕まらないようにアスレチックに取り掛かった。



ーーーーーーーーーー

 日も沈んできて、空がほんのり赤く染まるころ、四人は解散の挨拶を告げ帰路につく。

 アイシャはというと、鉄棒近くのベンチで休んでいた。


「アイシャさん、帰ろ!」


「ん、もう遊び終わったの? じゃあ帰ろっか。」


 そう言ってアイシャは立ち上がる。

 と、同時に少しケホッと咳き込んだ。


「風邪引いた?」


「ううん……。そうじゃないの」


 アイシャはそれ以上は何も言わず、ただ優しく手をつないで一緒に歩いて家に帰った。


 このとき、キバは気づいてしまった。

 彼女が咳をするとき口を覆った方の手が赤く塗れていることに。

 この1ヶ月間で、キバは周りよりも学があることを自覚した。

 この吐血が、何を意味するかもわかってる。


 アイシャは……病気であった。



ーーーーーーーーーー

 アイシャは家に着いた後いつも通り夜ご飯を作り始めた。

 いつも通り。

 鼻歌を歌ってご飯を作る姿。

 これも無理してるのかな。とキバは思う。


 夜ご飯ができて、一緒に食べ始める。


「「いただきま〜す!」」


 いつも通りにいただきますを言って。


「……アイシャさん」


「なぁに? キバ」


 吐血までするってことは、きっともう今の生活を続けるのは限界が近くなってきている。

 キバは言葉を選ばず、まっすぐアイシャさんに質問を投げかけた。


「アイシャさんは……病気なの?」


「風邪なんてひいてないよ。」


 そう返すアイシャだが、キバの真剣な目を見てすぐに白状する。


「……鋭いね……。キバは本当に九歳の子供?」


「答えてよ」


 キバがそう言うとアイシャは自分についてぽつりぽつりと話し始めた。


「私、風邪はひいてない。それは本当なの。……ただ、二十歳を超えたあたりからずっと、身体の調子が悪いの。」


「……うん」


 普通の九歳の子供相手に基本こんなことを話すものではない。

 でも、生まれがアクロセス家で教養が周りより深いキバなら、少しぐらい話を受け止めることができるかもしれない。

 それがアイシャ自身の運命を変えると、彼女もそんなことは思っていない。

 ただ、話しておかなければいけないことだと、判断した。


「私、運動が好きなの。でも……もう普通の人と同じように動けなくなってきちゃった。二十歳を超えたあの日から、一年、二年と経っていくうちに、私の身体能力はずっと急落しているの。」


「……」


「でも私、あなたに……。キバに、歳相応のらしい生活を送ってほしい。九歳というまだまだ子供の今だから体験できる世界を存分に楽しんでほしい。」


 アイシャが胸の内に秘めていた気持ちを、思いを吐き出していく。

 彼女がキバと一緒に過ごした日数で言えば一ヶ月と少し。

 たったそれだけの時間。


(なんでアイシャさんはここまで俺を受け止めてくれるんだろう。なんでこんなに優しい人が病気になってしまうのだろう)


「俺も、アイシャさんに……俺の、母親であるあなたに、母親として、それらしい生活を送ってほしいよ。……だから、もう無理しないで。俺なら一人で公園ぐらい行ける! 何して遊んだか毎日話したげる!」


 アイシャの言葉の一部を借りて、キバそう返答した。

 キバにはこれくらいしか言うことが見つからなかった。


 自分を大切にしてくれる愛車に言ってあげられる言葉は、『母親』という、キバ自身が思う、アイシャの立場の名称だけ。


 たったそれだけ。アイシャを形容した、言葉だけ。


 それでもアイシャには充分で、目を潤ませながらありがとう、とキバを胸で抱いた。

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