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第37話『進む計画』

ーーーグレイ視点ーーー


「あのセンとかいう野郎と違って、昨日のやつは芯のねぇやつばかりだった」


「こちらには頭が切れるやつが一人……一昨日お前が言ってた白髪の子だ」


 最近になって、このネオン街をうろつく輩がいると、うちの頭である『天才』から報告を受けた。

 その天才『レオ』からの報告は必要最低限。

 私たちに心を開くことをせず、ただここに引きこもって研究を続けている。


 こちらとしても外のこの雨には困ったもので解決すべきなんだが……どうやらレオにとってこれはどうでもいいらしい。


 彼はある過去に縛られ続け、持ち前の頭脳を生かして研究を続ける。

 私たちはどうでもいい、彼一人の世界で。


「テメェのその初見殺しみてぇな能力、見破られかけたって言ってたか?」


「えぇ……実に頭のいい子でした」


 昨日の戦闘を思い出し、殴られた背中の痛みを噛み締める。

 僅かな視線の動きと情報だけで、私の能力の大まかな部分を見破ってみせた。

 油断できない相手、ですね。


「そちらはどうでしたか?」


「あぁ……こっちは特に。アタシの炎で全員焼いてやったよ」


「こ、こっちには特に強い奴はいなかった……。でもたぶん、ヤツらは死者を出していないと、お、思う……」


 炎を操る半竜の女とびくびくして話す毒使いの男がそう話す。

 昨日腹を切ったあの男も、きっと生きているだろう。


 幸いこちらは痛手を負っていない。

 全員が大した怪我をせずにここへ帰ってきている。


 さぁ、ここからはゆっくり、じわじわと……君たちを刻んでやりましょう。


ーーーキバ視点ーーー


「ヤツら、顔出さないな」


「そうですね……」


 今日は調査十四日目。

 班のメンバーは副リーダーのアリエルさんと派手髪の男。


「昨日の俺の強さを見て、みーんなビビっちゃったみたいだね」


「貴様はものすごい毒を食らって運ばれてきただろう」


「……なんで見てるんだ」


 二人のそんな会話を聞きながら、俺は周りを見渡す。

 敵の気配も無く、民間人の気配もまた、ない。

 ヤツらは方向性を変えたのか……?


「まぁ、好都合じゃないですか? 昨日のグレイってやつを見た限り、アジトに帰れるテレポートの紙のようなものを持っていたみたいですし」


 どんな原理かは知らないが、入団試験の時のテレポートする床、それを紙にして持ち運んでいるような感じだ。

 味方勢力を削るだけ削られて、相手には逃げられる。

 士気も下がり、戦力も削がれるのが嫌なところだ。


「現れないなら、街の調査を進めるのみだな」


「そっすね〜」


「頑張りましょう!」


 俺達は三人で手分けして建物を回り、特に成果なく今日を終えた。



 そうして一日、二日と経っていき、ついに調査は二十日目を超えた。

 あと二、三割でこの街のすべての建物が青く染まるほど、この街の調査は進んだ。

 この間は敵からの襲撃は一回。俺とセンさんが戦ったヤツによるものだけ。

 好都合、このまま敵のアジトを見つけ出してやる。


ーーーーーーーーーー

「ずっと成果なしだね〜」


「もうすぐすべての調査が終わるけどな?」


「そうだな。この調査が済めば見つけられるさ」


 サキとカラスと一緒に、俺たちは天井がガラス張りの中庭で休んでいた。

 雨はどんどん強くなり、ここでの雑談も少し声を張らなければいけなくなってきた。


「てか、今日の夕食一緒に食べたあの子、キバの恩人って人だっけ?」


 サキからそんな質問が飛んでくる。

 調査二十日目の今日、いつも通り夕食を取ろうとしているときに、ハナさんが俺の隣で食べていた。

 性格的に、彼女にとって大きな一歩だろう。


「うん、あの人がいなきゃ俺は聖裁ギルドに入れていないし、すごく感謝してるんだ」


「……そんなすごい人だったのか」


 カラスには恩人としか伝えてなかったな。

 二人は目を丸くして驚いていた。


「じゃあ、感謝しないとね……」


「サキが?」


「い、いや! その……キバが、その人に、だよ!」


 頭をブンブンと振ったり身ぶり手ぶりを大げさにしたりして、サキは訂正する。


「お前らと出会えたのも、恩人の三人のおかげなんだ」


 俺はそう言ったが、実際は六人だったかもしれない。

 ライさん、ザンギさん、ハナさん。

 その他に、俺のことを最初に拾ってくれたキラトさん、戦い方を教えてくれたファイバ、そして俺に、チームとして一歩踏み込む瞬間をくれたチルド。


 そのすべて、どれか一つでも欠けていれば俺はここにいないかもしれない。


「あ」


「なに?」


「……いや、なんでもない」


 ライさんが俺の任務出発前に言っていた、『まだ早かったかもしれないけど』って……サキとカラスのことじゃなくて、ハナさんのことだったかもしれない。

 いつか肩を並べて戦えるようになったらハナさんたちに会って、もう一度感謝を伝える。

 ……これはライさんにも話していたから。


 確かに、まだ少し早いかもしれない。

 伝えておいて損はないかもしれないけど……もう少し、後回しにしよう。


ーーーーーーーーーー

「ふはぁあ〜」


 相変わらず照明以外に明かりがないこのホテルで、調査二十一日目の朝を迎える。


「やべ、いつもより五分遅ぇ……」


 急ぎ目で支度をして、食堂へと降りる。


「ハナちゃんはさ――」


「サ、サキちゃんこそ――」


 目の前で起こる、なんとも不思議な光景に、思わず驚いた。


「いつの間に?」


「今朝だよ! ね! ハナちゃん!」


「う、うん……!」


 ハナさんの顔を見る限りだとまだ少し遠慮気味だが、嫌がってはいない。

 人に怯えているって言ってたけど、こういう底の部分から明るいやつとは……仲良くなれそう、か……?

 俺はグイグイと距離を詰めるサキと少しずつ距離を離すハナさんを見て、苦笑いした。



「ごちそうさまでした」

「……ごちそうさまでした」

「ごちそうさま!!」


 朝食は左にハナさん、右にサキが座っていた。

 俺越しでたまに会話したりして、少しずつ二人の距離が詰まっていた。


「キバくん……あの子は……」


 昨日の夜はそうでもなかったのに今日になって自分に話しかけてきたことに戸惑ってるようだった。


「ハナさんのこと、少し話しました。俺の恩人だって。……サキが俺のことを大切な友達って思ってるなら、友達の恩人だから気になったんだと思いますよ」


「え? サキちゃんは……いや、そうですか」


「サキについて気になることでもありましたか?」


「そういうわけじゃ、ないんですけど……」


 ハナさんはくすっと小さく笑った。

 サキと仲良しになれそうで良かったですね。

 一応この言葉は心にしまって、気合を入れなおした。

 そろそろ調査任務が始まる頃だからだ。


「今日は二十一日目。この地図に――」


 いつも通りのセンさんからの説明を受け、耳に無線機を着用する。


「よろしくお願いします」


「はい、よろしくお願いします」


 今日はハナさんと同じ班。

 昨日なぜか雨を浴び過ぎて体調を崩したやつがいて、今日は俺の班が二人ということになった。


「最初と同じですね」


「あのときは、シロさんが勝手に抜け出しただけです」


「そうでした」


 自分勝手に行動する女は今もそれが続いているらしい。

 何をしてるんだかな。


 俺達は歩き、街の真ん中を中心としてホテルの反対側の方へとやってきた。

 やはり今となっては、こっちの方まで来ないとなかなか未調査の場所がない。


「ここにしましょうか」


「はい……!」


 あまり大きさはない建物を選び、中に入る。

 見飽きた罠が仕掛けられていて、それ以外には変わったところがない。

 瓦礫をどかし、壁や床に空洞がないか調べる。

 いつも通りの作業を続け、三階へと進んだ。


「また会いましたね」


「――は?」

「キバくん!」


 ハナさんが俺の腕を後ろから引っ張ったおかげで、その男の間合いに入らずに済む。

 聞き覚えのある声は、あのグレイの声であった。


『こちらハナ! 敵と接触しました! 名はグレイ、前にキバくんが接触した敵です!』


 無線機越しにもハナさんの声が聞こえた。

 こいつの攻略法はなんとなくだがわかってる。

 でも……二人で、しかも片方はバッファーで……勝てる相手じゃない。


「今だけ、私の言う事聞いてくれますか!」


「は、はい……!」


 ハナさんが珍しく自分から指揮を取り、俺たちは建物を出ることに。

 グレイも俺たちを追ってきていて、逃がす気はないようだ。

 ハナさんは耳の無線機を押さえ、何やら喋っている。


「個人無線ですか?」


「はい、試したいことがあるんです」


 ハナさんの指揮のもと、速度を保つため俺はハナさんを抱え、このあたりをぐるぐると回る。

 ヤツからは全力で逃げるほどではなく、俺の覇力の使用は距離を詰められた時のみ。

 あの建物から遠ざかることもせず、本当にただこのあたりをぐるぐると回る。


 そんなことを繰り返していると、上空から銃声が轟いた。


「今の……」


 後ろを見ると、肩を押さえているグレイがいる。


「サキちゃん、呼んだんです」


 ハナさんの個人無線の相手はサキだったらしく、気づかれないようどこかの建物の上からグレイを狙ってほしいと頼んだ。


 だが今のでグレイはその射線に気づき、サキの位置の特定は済んでいるようだ。

 それでも、ハナさんはもう一度個人無線でサキへ指示を飛ばす。


「サキちゃん、私が、今だって言ったら……もう一度撃ってください。移動する必要はないです」


 かすかに『わかったわ』と音漏れし、俺はもう一度走り出す。

 多少速度を緩め、怪我を負ったグレイが俺に追いつけるように走れ、とハナさんに指示された。

 意図が分からないが、何かの作戦のうちなんだろう。


「今!!!」


 ハナさんは声を張った。

 無線が繋がったままだというのに、わざわざ大きな声で、この辺り一帯の空気を震わせた。

 グレイはサキがいた場所を振り返り、その弾丸を弾き飛ばす。


 それを見てぶつぶつと、ハナさんは何かを呟いた。

 それが済むと「逃げましょう」と、俺にバフをかけるから、覇力を全力発動するように、と言った。

 サキを撤退させたあと、俺はできるだけ魔力を足に集め、覇力を最大出力で発動。

 それと同時にハナさんは俺にバフをかける。


「きゃ……!?」

「おっ、うわぁ!?」


 凄まじい速度が出て、あっという間にグレイは見えなくなった。

 顔に当たる空気が、感覚的には普段の数倍重い。

 それでも走り続け、俺たちは一時間ほどかけて来た道をわずか十分以内に完走した。

 あの日の夜、ハナさん自身が言った言葉である。


 「キバくんへのバフ倍率は上がってしまったかもしれません」。その言葉通り、ハナさんのバフ倍率は上がっていた。

 バッファーが高ランクへ上がりやすいという話、ようやくしっかりと理解できた。


 こんなの、バフかけられた経験のない奴からしてみれば、ズルだと思えるだろう。

 それほどに強力な、強化手段だ。


 グレイにサキが一発を与え、こっち陣営は無傷。

 俺はセンさんと話すというハナさんをホテルに送り、近くにいたリョウの班のもとへ。


 ここからは特に何も起こらず、俺たちは一日を終えた。


ーーーーーーーーーー

ーーーセン視点ーーー


「思ってた……通りでした」


 目の前で紙に何かを書き連ねるのは、ハナの嬢ちゃん。

 白髪の坊主がグレイと交戦した日の夜、飯の前。

 俺達二人は一度、こうして話し合いの機会があった。

 今回も前回も、ハナの嬢ちゃんから持ちかけたものだ。


 その内容は……。


「なるほど……な。嬢ちゃんの予想は完璧だったってわけか」


「はい。……これで、グレイという人の能力について、ほぼ完全に無力化することができるはずです。……その、まだ彼が何か隠してる可能性も……ありますけど……」


 そうして、こちらに紙を見せてくる。


「はは……こりゃあすげぇ」


 グレイとかいう野郎の能力がわかりやすく絵にまとめられ、その概要について説明される。


「まず、グレイ……さん、の能力は視線によるものです。彼の視界に映っているものに対して発動する、おそらく彼は目に捉えるすべてに向かって微弱な魔力を発しています」


 絵に描かれたグレイとやらの目から、わかりやすくその視界が描かれている。


「この魔力でおそらく、自分へ向かうもの、もしくは危険と判断されるもの、それらを検知し、斬撃を浴びせています。この瞬間彼の手元が動くので、……えっと、自分の意志とは関係のない自動の反射によるもの……かと」


 完璧な説明。

 視界内の微弱な魔力での検知、これは魔力放出系……例えばS級のライさんがやるような周囲の探知方法の応用。

 だが……ここまでは坊主が言っていた能力の詳細を説明する理論、それの解明に等しい。


「だが嬢ちゃん、それならあの日の夜嬢ちゃんが言ってた、物によって間合いが異なる理由が――」


「そう、この人の能力は目から発する魔力での認識によるもの。なら、小さくて認識されにくいものはどうですか? ……人のように大きいものは、感知するための微弱な魔力密度がまばらでも、動く範囲が大きいので感知しやすい、とか」


 紙に、グレイの目から、魔力を表す点を打っていく。

 それは意図的に、目から離れるにつれて、だんだんと密度が薄く描かれていく。

 そこで俺は初めて、この嬢ちゃんが考えているものを感じた。


「――小さいものは動きが速くても遅くても、その範囲が小さいから……魔力密度が濃くならないと感知できないってことか……!?」


「そうです。だから小さいものは懐に入りやすいですし、感知してからのラグも大きくなる、どうでしょうか?」


 キバの坊主はこう言っていた。

 金属片と唾、それに人間とで、それぞれグレイとかいう野郎の間合いが違ったような気がする、と。

 そして、この嬢ちゃんが言うには、その全てを検証するためにわざとサキという少女の狙撃にグレイが気付くように仕向けたらしい。

 この検証で、銃弾が弾ける間合いを確認した。


「完璧だ……! あの日キバの坊主が言ってた、すべての証言に当てはまる……」


 正直、ハナの嬢ちゃんがあの日、この話を俺にしてきたとき、天才だと思った。

 その日にはすべてを話さず、「グレイの能力が分かったかもしれない」から始まり、その軽い概要だけ伝えられたもんで。

 今日この話を聞いて、さらにこの嬢ちゃんを天才だと言わざるを得なくなった。


「だからセンさん、リーダーであるあなたに……頼みたいことが、あるんです」


 自信は持ってるはずなのに終始声を震わせていた嬢ちゃんは、目つきを鋭くして言った。


「私に――!」


「……ははっ! そうだなぁ! それなら嬢ちゃん、俺に任せてくれや! こりゃリーダーである俺の仕事、まぁ……俺としちゃあ嬢ちゃんの手柄でも全然構わねぇが、頼まれたんならやるしかねぇなぁ!」


 二十一日目である今日、俺達はやっと、ヤツらに勝つための一歩を踏み出した。

 紛れもない、この嬢ちゃんの天才的な頭脳による、分析によって。

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