表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/46

第36話『行き過ぎた調査』

ーーーセン視点ーーー


「今日もこの地図に調査済みの範囲をマークし、帰ってくるように! それと、何かあったら耳の無線機を通して連絡するように!」


 調査十三日目が開始した。

 昨日は一人の敵兵との接触に成功した。

 その実力は言うまでもなく、高い。

 ハナの嬢ちゃんのバフ付きである俺とあの白髪の坊主が共闘して、やっと互角……いや、それ以下か。


 前回の戦闘を経て先を見据え、俺達は耳にネオン街製の無線機をつけて行動するように義務付けた。

 

「出発しないの?」


「あぁ、分かってる……」


 今日は耳の長くて気の強い、この赤髪の女『アリエル』と同じ班。

 普段から俺と同じ小隊で活躍していて、今回の任務の副リーダーを務めている。


 今回、俺達二人は一応と聖裁ギルド側から派遣された。

 こりゃあ、小隊配属戦のかわりに、新人どもが受けていい任務じゃあねぇ。


 雨雲の晴れない、深く黒い空を見上げて俺は弱音を吐いた。


「参ったな……」


 敵兵の全員がアレほど強いとは思えない。

 だが規模も数も分からない以上、それは警戒すべきことだ。


「置いてくわ」


「……勘弁してくれや」


 全く先の展開が見えない中、俺達は今日も調査任務へと踏み出した。


ーーーキバ視点ーーー


「行くっすよ」


「置いてくぞ」


 クロムとリョウにそう急かされ、俺は焦って歩き出す。

 より一層空が黒く、深くなったように見える今日は調査任務十三日目。


「昨日センさんが言ったように、これからの任務は接敵する危険が高まってるかもしれない。常に気を張っておこう」


「了解っす」


 クロムはそう返事をしたが、リョウは違った。

 「当たり前だろうが」と乱雑に返し、先頭を歩いている。

 そういえばリョウはB-級の冒険者だったか。

 俺が口出しするまでもないかもしれない。


 俺はだんだんと青く染まってきた地図を見て、周りの建物と照合する。


(ここはもう調査済み……ここは人が住む場所……)


 一つ一つ確認しながら進んでいく。


「あのデケェ建物、入るぞ」


 リョウが指を差したのは周りに比べてボロい建物。

 この街は一年ぐらい前にできたばっかりじゃなかったか……?

 妙に使い古されたような見た目の建物へ向かい、俺たちは立ち止まる。


「んだ? こりゃあ」


「封鎖済み……」


「でんじゃーっても書いてるっす」


 テープと板材で入り口らしき場所は閉じられている。


「いかにも怪しそうじゃねェか。こりゃ、収穫アリだな」


 扉周りの金属製の枠組みは歪み、少し焦げているような気もする。

 俺たちはここに入ることを決め、その板材の扉を吹き飛ばした。


「うわ……」


 この建物は密閉されていたらしく、焦げたような匂いがこもっている。


「あ」


 クロムは思い当たったように声を出し、「この場所……」と呟いた。


 詳しく聞けば、このネオン街がある場所はもともと、一つの町が存在していたらしい。

 炎の竜によって壊滅してしまったらしいが、この建物はその時の残りなんじゃないか、と推測した。


「このくっせぇ匂いにも納得がいくぜ」


 足で瓦礫をどかしながら奥へと入っていく。

 この建物は罠の設置が多いな……。


 先程から床の抜けた先に針の山、壁の中からトゲが突き抜けてくるなど、いろいろな罠が設置されている。

 周りには異常なほどの金属片が落ちていて、奥に進めば進むほどそれも多くなっていく。


『侵入者三名、排除します』


 機械音が鳴り、今まで横にあった壁だったものは変形し、人形へ成った。

 多数の壁からその数に応じた人形が出現し、俺たちを囲む。


「なんじゃこりゃ……!」


 迫りくる人形の数に対応できず、俺はレーザーのようなもので頬に傷を負う。

 かすり傷だが、痛い一手……。


 ピンチかと思った瞬間、無数の金属片は浮き、その人形共を串刺しにした。


「ここは俺のテリトリーっす」


 クロムが指を鳴らした瞬間、その金属片は一斉に床に落ちた。


「すげ……」


 これにはリョウも驚いたようで素直にクロムを褒めていた。

 

 クロムの能力は金属操作。

 名前の通り金属の全てを操ることができる。


「うへぇ……魔力半分も使ったっす……」


「お前な……」


 適当に『この辺の金属全て、操作対象っす!』とかやると、その一つ一つに操作の指示が出て魔力を持ってかれ、すぐに魔力が切れるらしい。

 だがうまいようにやれば、確実に高ランクの冒険者へと成るだろうな。

 クロムの今の戦闘を見て、俺はそう思った。


 三分ほどして、耳にある報告が届く。


『えっと、こちらコハク! 敵と接触しました!』


 その報告を皮切りに、無線機に無数の信号が届いた。


『こちらシズク。敵と――!』

『こちら……ハナ――!』

『こちら――!』


 ノイズのようになる無線機に混乱していると、俺たちの前に緑色の髪の人間が現れる。


「この建物は封鎖していたはずですが……少し調子に乗って入ってしまった不届き者たちがいるようですねぇ」


「こちらキバ。敵と接触しました」


 短くそう言って無線機を切る。

 もうすでに数多の報告が届くそれに、何の意味もない。


「まずぁ名乗れや!」


「これは失礼。私はグレイと申します。」


 そう名乗った男は周りを見渡し、ぼそっと何かをつぶやいた。


「聞こえねぇよ!」


「……なんでもありませんよ。あなたたちには少しお仕置きが必要なようですね。ただ、半殺しで済ませてあげましょう」


 その発言に堪えられなくなったリョウは床を蹴って走り出し、俺もそれに合わせて相手へと踏み込む。

 ――グレイの不敵な笑みを見た。


 プシュッ!


「――う、えぁ」

「キバ!!」


 後ろからクロムの声が聞こえ、金属片が頭の上を通っていく。

 ――腹を切られた……。


 もう少し進んでいたら死んでいた。

 隣でリョウも鼻先に切り傷を負っていて、俺より少し手前の位置で止まっていた。


 心臓の音が速くなっていく。

 出血は多くはないが、止まらない。

 ヒーラーはいない。


 クロムは……。


 目の前で無数の金属片がグレイに向かっては弾かれ、向かっては弾かれを繰り返し、やがて力なく床へと落ちた。


「クロムは、魔力切れ……か」


 どうする?

 ハナさんはいない。

 動けば出血が多くなり戦闘不能が近づく。

 このままでもいずれ……。


 長期戦闘は無理だ。

 相手の能力はなんだ?

 間合いは……四メートルほどか。


「もう終わりですか?」


「ふぅ……ふぅ……」

「このままいけば俺達三人とも負けだなァ。どうする」


「ふぅ……とりあえず……分析だ。相手をみなきゃッ……何も、始まらない!」


 さっきの金属片を弾いてたときの動作を見ろ。

 僅かだが、グレイの手元は動いていた。


「お前の手に……何がある?」


「ほう……?」


 また不敵な笑みを浮かべ、こちらへゆっくりと寄ってくる。


 スパン!


 寝癖で跳ねていた髪が切り落とされる。

 ――あぁ、何も考えらんねぇ……

 何も浮かばない。


 金属片は弾かれた。

 俺達も同じ。

 

「ふは……だからなんだよ……」


 こんな情報じゃ何もわかりゃしない。


「チィッ!」


 リョウはグレイに唾を吐き、横にステップを踏む。


 その唾は相手の間合い五十センチないほどのところで弾けた。


 横へと移動したリョウは凄まじい速度でグレイの間合いの外側、グレイが俺を見る視線の真横へと移動した。

 そこでグレイは俺とリョウ、そしてクロムの全員を視界に収めるように、俺とリョウの間を向いた。


 考えろ。相手の能力を、その効果を。

 俺とリョウは同じ方向から向かっていき、二人とも同じような位置で斬られた。

 金属片はグレイの後ろに存在せず、ヤツの前側から飛ばして、弾かれた。

 そして俺たち全員を視界に収めるような、視線の動き。


「……視界に収めたものじゃなきゃ、ソレが発動しないのか?」


「……フン」


 今までの反応とは僅かに違う、苛立ったように爪を鳴らして鼻を鳴らした。


「リョウ、常にグレイを挟んで俺の反対側に回るように立ち回ってくれ」


「ハッ……ナルホドなァ」


 俺の反対側へと走り出し、俺はその陣形を保ちながら横へと動く。

 俺の方を向いているときはリョウが距離を詰め、攻撃できたらグレイがリョウをみるから俺が攻撃する。


 見られてるときは常に四メートルほどの距離を保って動き、相手がこちらに寄ってくればこちらはそれに合わせて下がる。


 間合い管理をミスれば即お陀仏。おそらく切り刻まれて死ぬ。


「初見、殺しがァ……!」


「わかっち……まえば、随分とっ! 楽だな」


 グレイはまたあの笑みを見せて、取り出した一枚の紙を光らせ、姿を消した。


「また……逃げられちまった、な……。くぅ……」


 フラフラの足取りで無線機へと戻り電源をつける。


「ヒーラーをひとり……ホテル、に……。救、援……を……」


 じわじわと狭まる視界はどうすることもできず、やがて暗転した。


ーーーリョウ視点ーーー


「おい! テメェこんなとこで寝やがって!!」


 そう言ったはいいものの、この腹からの出血……。

 仕方ねぇっちゃ仕方ねぇな。


「おいクロム、テメェもいつまでそうやってるつもりだ!」


「足に力入んないんすけど……?」


「魔力切れっつったって超過して命削ったわけじゃねぇだろうが! 自力で立ちやがれ!」


 俺はキバを担ぎ、クロムに向かって一喝する。


 この戦い、コイツの観察眼がなきゃ俺たちゃ死んでたな。

 このE+級を背負う白髪頭を、少し見くびってたかもしんねぇ。


「ほらさっさと歩け! こいつが死んじまうだろうが!」


「友達の心配はするんすね」


「……うっせぇよ!」


 起きたばかりのクロムの足を蹴って、俺達はホテルへと戻る。

 体中が痛ぇ。

 数多の切り傷から出血し、じわじわと俺の体力を削っていく。


 昨日、遠くから聞いていた限り、リーダーの野郎とコイツが戦った奴も相当なバケモノだ。

 そして今日、俺たちが相手をしたヤツも……。


「一体どうなってやがんだこの街は……」


「俺はその出血で歩けるリョウのほうが不思議なんすけどね」


「何が言いてぇんだテメェ!」


 軽口を叩き合い、気色悪ぃ光に照らされた暗闇を歩く。

 ……友達、か。


 やがてホテルについて、シズクと合流し、傷を癒してもらう。


「あなたがそんな顔するなんて珍しいじゃない」


「……変な顔してるか?」


「いえ、良い顔よ」


 小さく笑うその姿を横から眺め、シズクがキバの治療をするのを見ていた。


ーーーーーーーーーー

「ンがっ」


「ンがっ! だってよ! 変な声出しやがる!」


「ちょっと、やめなさいよ……」


 ンがっ……って俺の声か……?

 それにこれは……リョウとシズクの声……。

 そうだ、俺はグレイってやつと戦闘して……それで……。


「ハッ」


 目を開けると、そこはホテルの一室だった。


「起きたぞテメェら!」


「リョウのせいじゃないっすか?」

「鼻つまむから眠りから覚めたのよ!」

「治療したとはいえ一応怪我人よ……? 静かにしてあげて……」


「はぁ……はぁ……」


 周りを見るとそこにはおなじみのメンバーがいた。

 あと……ハナさんと、センさん……?


「大丈夫か坊主」


 そう言って俺のもとへ近づき、意識の確認を行ったあと床にドスッと座る。


「どういう状況……ですか」


「自分でホテルに救援呼んだんだろうが!」


 リョウがバシッと俺の腕をたたく。

 そうだった……。

 あの戦闘は相手に逃げられて……出血で意識を失う直前、ヒーラを呼んで……。


「今回の戦闘、詳しく教えてもらうぜ?」


 俺はあの戦闘をできるだけ鮮明に思い出し、センさんに伝えた。

 それ以外のやつは俺の見舞いに来ていただけで、センさんは接敵した人に情報をもらって今後に備えているんだとか。


 ……で、俺が最後の接敵者と。


「後に戦うときはそいつの無力化はなんとかできそうだな。だが……」


 センさんから聞いた、今回得た情報はあまりに酷いものだった。

 死者はいないものの俺よりもひどい怪我を負った人はいたらしく、接敵した班のうち大怪我を出さなかったところはないんだとか。


 それは大火傷。それは毒による異常症状。骨折。


 昨日姿を見せたあの体格のいい男も……今日出没したらしい。骨折のところがソレと戦った班だ。


「こっちも主力になりそうなやつは数が決まってる。今回情報を得た強者たち以外に強者が存在していれば、戦いは厳しいものになるぜ……」


 顔をしかめて、センさんは悩んでいる。

 力になりたいが、昨日今日と戦闘したことで俺も相手の実力が分かっている。


「もうそろそろ飯の時間だ。今日は早めに全員撤退させたからな。食えるか?」


「腹は減ってます」


「あの……」


 俺達が食堂へ向かおうとするところにハナさんが来て、センさんに話しかけた。

 「先に行っててくれ」とのことだったので、俺達八人は遠慮なく食堂へ向かい、いただきますを済ませ飯にありついた。


「キバ、死んじゃうかと思ったんだけど」


 サキがペシ、と俺の肩を叩く。


「結果、治っただろ? 俺は大丈夫だ」


「そういう意味じゃなくてさ……」


 下から俺を見上げてくる。

 その目は若干潤んでいるような気がした。


「心配したって、不安だったって意味よ。……キバが寝てる間、私……」


 サキの目から涙がこぼれる。

 俺は慌てて謝った。何度謝っても、言い方を変えてもそれは的外れだったらしく、俺の腕をつかんで離さない。


「キバ、なんかサキに思うこととかないのか……?」


 カラスからそう聞かれても、俺は謝ることしかできない。

 こっちだって死なないために救援を呼んだんだ……。一体どうすればいいっていうんだ……?


「キバくん、不安だった子は安心させてあげないと」


 シズクから言われた通りに、安心させようと試行錯誤する。

 なんだろうな……。頭なでるとか?

 サキは泣き止まなくとも、少し落ち着いたようだった。


(サキは子供みたいな部分があるし、これが落ち着くのかもしれないな)


「ごめんな、サキ」


「……うん」


 勝手に納得した様子の俺を見て、なぜだかカラスとシズクはため息をついていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ