第34話『突如鳴り響く轟音』
本日二話目の投稿です
調査二日目が開始した。
俺達は昨日のように地図を配布され、またあんなふうに印をつけて帰ってくることを命じられる。
「おお」
地図上ではネオン街、そのいくつかの建物は青く塗りつぶされ、そこが探索済みであることを示されていた。
でもこのペースだと……二ヶ月とかかかるんじゃないのか……?
「よろしく」
「よろしくね〜!」
「あ、はい! よろしくお願いします!」
今回の班メンバーである2人に声をかけられ、俺も同じように挨拶を返す。
一人はカラス、もう一人はまだ知らぬ陽気な女性。
それぞれ自己紹介を済ませた。
この女性はアイという名前らしい。
「昨日はどこも成果なしだったみたいね! 今日も頑張りましょう!」
俺たち二人はそう励まされ、今日もネオン街の奥へと入っていった。
ーーーーーーーーーー
「じゃ、俺は建物全体を見る。二人は壁の中や地面の下、空洞がないか探索してくれ」
そう言ってカラスは影に潜っていく。
この能力……便利すぎるか。
「昨日よりもいいペースで探索できそうです」
「そうね! 昨日は探索向きの能力者と同じ班では無かったから……」
アイさんも同じだったようで俺の言葉に賛同した。
ーーーカラス視点ーーー
「――」
外の世界から、キバやアイさんとは違う声色の言葉が聞こえる。
俺は頭だけを出して移動し、その言葉の出どころに近づいていく。
「この街――変革は――。あの人――天才だ。この雨――」
そこまで聞こえたところで、俺が耳を近づけている壁に激しく爪を立てる音が聞こえた。
(うるさっ……!)
「おい! そこに誰かいるのか!」
「やべぇ……」
小声でそう漏らし、息を潜める。
「こんなところに入るようなやつは居ないはずだがなぁ!」
声が近づいてくる。
待てよ、マズイ……!
キバとアイさんのことを考えてなかった!
俺は急いで影に潜り二人の元へ体を滑らせる。
「二人とも、足音を立てないように上に来てくれ」
小声であることを強調し、伝えなくとも今がピンチであることが分かるように説明する。
二人は一瞬戸惑ったが、特に詰まることもなく上へと走っていった。
先ほど聞いた。アイさんの能力は『バウンド』だ。
簡単に言えばボールを落としてバウンドするように、魔力を反発させる能力者。
足元に魔力を集中させることで地面と反発させ、足音を消す。
……この人がいてくれてよかった。
「隠れてねぇで出てこいよ!」
俺たち三人と奴ら以外に誰もいないこの建物内には、その呼びかけはよく通る。
まだまだ下にいることを確認して、俺たちは屋上の扉を開ける。
俺は周りを見渡し、屋上に身を隠せる場所がある建物を発見する。
「あっちに飛べるか? キバ」
「いいけど……静かにしてほしいんじゃなかったのかよ」
「そこも私の能力で何とかしてみせる。 なるべく足元に魔力を集中させて!」
「やってみます」といったキバは稲妻を放出し始め、それがだんだんと足元の方に寄っていく。
「つかまって、今、飛ぶ!」
アイさんを抱えるために少し腕にも魔力が偏り、足の魔力が減った。
これによってアイさんの能力では威力を反発させることをしきれず、少し音がなってしまう。
だが、ヤツらはその音の行く先を追えるはずもないだろう。
……でも、『俺たちがいる』という情報は渡ってしまったかもしれないな。
ーーーキバ視点ーーー
「ふぅ……」
俺たちはビルに乗り移り、そこにある障害物に身を潜める。
「なんだったんだよ? 見つかっちまったとかか?」
そう言うと、カラスは首を振った。
「確実じゃない。だが、気づかれはしたかもしれないな……。その代わり、こっちも情報はゲットした」
そう言ってカラスが話し始めたのは、この街の異常について。
この街の異常。周りにも影響を及ぼすこれは、どうやら人の手によるものかもしれないということ。
そして、その声色から、この雨にはその異常を引き起こしている側も困っているようだということ。
「人の手によるもの……か」
「それが確実なら……今回、私たちの相手は……」
カラスは真剣な目で先ほどのビルを見つめながら答える。
「はい、おそらく人でしょう」
小隊配属戦……。
元々人同士の戦いの予定ではあったが、こんな形で再現することになるとは。
俺たちはしばらく身を潜めて、また作業を再開した。
今日一日の成果はこの情報のみで、他には何も得ることができなかった。
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地図提出のときに、今日調査した範囲を塗りつぶし、その裏面の情報記載スペースに今日のことを書いた。
それがまだ確実ではないこと、それでも気をつけておいたほうがいいことを強調した。
明日からの任務では、方式が変わるかもしれないな。
「ここの飯は上手いな」
「そうだねぇ」
二日目になって疲れが出てきたやつもいるようで、昨日よりは元気がない。
そりゃそうだ。
俺たちは二日に渡って成果が出ない作業を延々と繰り返してきた。
俺の班では成果も出て、この八人にそれを共有した際は盛り上がりを見せた。
相手もこれから、二度とボロを出さないように立ち回るだろうな。
だとしたら、これからはこの成果なしの作業を成果が出るその時まで繰り返していくことになる。
長く続くであろうその苦行に嘆く冒険者も、なぜかそれに燃えてくる冒険者もいたようだ。
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やがて飯を食べ終え、自分の部屋へと帰る。
風呂に入る準備をして、服を脱いで浴室の扉を開ける。
「やっぱデカいな……」
三日目になっても慣れないこのデカ風呂に浸かり、拳を握って視界の中で照明に被せるようにつきあげる。
(相手は人間……か)
魔物を殺して、それで解決。
今までの俺の戦闘はそういうものだった。
試験では対人戦もしたが、それはあくまで試験。
これはしっかりとした問題で、解決のためには避けられない衝突だ。
この問題の解決は難しいものになるだろう。
想像よりもずっと……な。
手を下ろし、湯船にジャポと音を立てる。
風呂で今日の疲れを取り、その1時間後、俺は眠りについた。
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調査三日目、四日目……。
二日目のカラスの功績により、調査方針は変わった。
街に潜む人が敵かもしれない、その可能性がある以上、迂闊にその言葉を信じるな。
常にこの街のすべてを疑え、など。
この街に住む人の中で、今回の件に全く関わりのない人がどれだけいるかは分からない。
敵の数も、その規模も、到底想像することはできない。
だからこそ、俺たちは自分自身で考え、見抜く力を必要とされている。
それに加えて、あの二日目から街を歩く人が少なくなったように思える。
今まで外を歩いていた数少ない人間の中でも、俺たちのことを敵と認識した者がいるのかもしれないな。
そんな中、調査十二日目を迎える。
「よろしくな、坊主」
「あ……お願いします!」
俺はこの調査任務のリーダー、『セン』さんと同じ班になった。
この人はB+級の冒険者で、メイン攻撃役。
持っている大剣を振り回して戦う大胆な戦闘方法だが、それを盾にしたり地面に突き立てて相手の攻撃を避けたりと、冷静なところも見られるらしい。
もう一人の班員はシズクである。
「調査、こんなに行き詰まるとは思わなかった……。何日も成果なしが続くとみんな、気分が下がっちまうよな……。どうにかしてやりてぇんだが」
プライドが高いと思っていたが、センさんは弱音を吐き始めた。
「……気長に行くのがいいと思いますよ。 こんな大都市の調査なんですから。……まぁ、早めに済ませられるならそうしたいんですけどね」
俺はただ相手に寄り添うだけでなく、ちゃんと自分の本音も語る。
センさんはそれを聞いて「十五のガキとは思えねぇな……」といって、重そうな足取りを緩めた。
「ありがとよ! 坊主!」
俺の頭を撫で回し、調査に入ろうと瓦礫をどかしたその時……。
屋上の方から激しく轟音が鳴り響き、俺はその瞬間跳ね飛ばされた。
「か、はっ……センさんっ!!」
俺はセンさんの方を見る。
そこには頭上に盾のように大剣を構えるセンさんと、それに拳を突き立てるセンさんよりも体格のいい男がいた。
瞬間、俺は理解した。
今、俺はセンさんに救ってもらったのだと。
「キバくん!!」
シズクがこちらに寄ってきて俺に治療を施そうとするが、それを手で制止する。
「大したケガじゃない。それより、アレと戦ってるセンさんを見ててくれ。……俺は何もできそうにないから」
包み隠さずそう伝える。
轟音が鳴り響き、1秒もしないうちに、アレはこの建物のすべての階を貫いてこの二階に到着している。
センさんに庇ってもらわなきゃ、あの時に死んでいた。
「芯のあるやつがいるじゃァねェか!」
大きく豪快に笑いながら、センさんと肉弾戦を始める。
彼が大剣を用いても、その男の鋼のような肉体とその威力に押し負けているような感じがした。
「何事だ!!」
後ろから声が聞こえた。別の班が聞きつけてやってきたようだ。
「セン…!?」
その気の強そうな耳の長い女はセンさんとよく喋るのを見かける女だ。
その後ろに隠れるようについているハナさんも見えた。
「お前、大丈夫か!」
その女が近づいてきて、俺にいろいろと確認したいことを聞いてきた。
それに答えながら、俺はあの戦闘を眺める。
センさんが丁度こちら側を向いたとき、ある人間の存在に気づいて、天井を落として瓦礫でヤツを封じ込め、こちらに走ってくる。
「ハナ嬢ちゃん、確かあんたはバッファーだったよな、一人じゃ勝てそうにねぇ、頼んだ……!」
「……すみません、触ります」
そう言ってハナさんはその男の皮膚に触れ、バフを施す。
何も、することができない。
だめだ……こんなんじゃ、この任務で足手まといだ!
「何やっても無駄なんだよォ!!」
この建物内に、瓦礫から脱出したヤツの声が轟く。
その言葉通り、戦いに戻ったセンさんはまだ押されている。
「私のバフが弱いから……」
ぶつぶつと、ハナさんは自分を責め始める。
(おかしい……俺が修行してたあの日、ハナさんのバフはこんなに倍率が低かったか……?)
俺は違和感に気づき、ハナさんに告げる。
「二人同時が可能なら、俺にもバフください!」
「でも、キバくんじゃ……!」
「試したいこと、それを試すだけです!」
ハナさんは俺の背中に触れる。
その瞬間、俺の内側に強く力が漲る。
(倍率が低いどころか……あの日よりも……バフが強い気がするが……)
センさんはこちら側にふっとばされ、俺の隣に立つ。
首をボキボキと無らしながら近づいてくるヤツをみて、次に俺はセンさんの目を見る。
「俺も戦います。足手まといにはなりません、戦闘経験豊富なあなたが合わせてくれませんか?」
「ぉ……ははっ! 威勢のいい坊主だなぁ! ……だが、キバはE+級じゃなかったか?」
「表面上、です。ランクの更新をしてないだけっ!」
俺は覇力を発動して強く踏み出す。
バフと能力の併用は初めてだが、なんとかしてみせよう。
「そうかよ! 足引っ張んじゃねぇぞ!」
センさんも走り出した。
その速度は同じ程度、俺のほうが若干早いぐらいで、ヤツのもとに先に到達したのは俺だった。
「なんだァ? テメェはァ!!」
この戦闘でヤツへの有効打は見込めない……。
だったら、できる限りのことをしてみせる。
「ふっ!」
一撃目をギリギリでかわすことに成功し、その腕を掴んで相手の重心をこちら側へずらす。
そのタイミングでセンさんが追いつき、男に一撃を入れることに成功する。
「いい仕事するじゃねぇか! よく分かった立ち回りだなぁ!」
「頭の良さにはっ、自信があるんでね!」
そんな会話をしつつ、俺はその腕を離し、今度は少し浮いた側の足を蹴り、さらに相手のバランスを崩す。
またもセンさんが攻撃を当てて、男は唸り始めた。
「こっちが反撃しなけりゃ、ずいぶん調子に乗りやがってェ!!」
その男の肘が俺の腹をかすめ、それだけで俺は吐血する。
(威力が半端じゃない……! かするだけでこれなら……避け優先だな……!)
痛みを堪え冷静さを崩さず、自分の立ち回りを改善する。
相手の肩の動き、目線。そのどれもが……
「ライさんのほうがわかりにくかったさ!」
俺はS級との戦闘で培った技術を最大限に発揮し、センさんの足を引っ張らないように動く。
「がぁぁあぁ!」
ヤツの叫び声が轟いた瞬間、二階であるここの床が崩れる。
「きゃ!」
「うおっ!?」
「くっ……!」
驚き、戸惑い、焦りを含んだ声が同時に響いて、俺たちは一階へ落とされた。
「嫌ぁな戦い方すんじゃねぇか……白髪!!!」
ドンッと音が鳴り、それが聞こえた頃にはもう目の前に拳が迫っていた。
世界がゆっくりになっていく。
……それでも、体は動かない。
――死……
脳裏にその言葉がよぎった瞬間、金属音を立てながらその男の腕を突き飛ばした。
それを見ると、センさんが着ていた防具、剣。
そのすべてを俺の命のために投げたようだった。
「……判断力、マル……っと」
目の前のヤツはそうつぶやいてこの建物の柱の数カ所を蹴り、いとも簡単にここを崩落させた。
降る瓦礫と発生した土煙が晴れ、気づいた時にはヤツは姿を消していた。
「はぁ……はぁ……」
一瞬の出来事。死が頭をよぎったあの瞬間から、滝汗が止まらない。
荒い呼吸をそのまま、周りを見渡した。
俺の防水の服は破けて、センさんもそれは同じ。
雨に濡れないように別の建物へと移動した。
「助かった。坊主」
「すみません。最後、足引っ張りましたよね」
「……そうだな、だがまだ強くなるぜ、お前は!」
バシッと背中を叩かれた。
サキとは比べ物にならないその威力に少し笑いを漏らして、この十二日目の調査は終了した。




