第33話『おい、この任務は三人一組だぞ!』
本日は2話投稿します。
1話目です。
飯を済ませ、何手かに分かれての調査任務が開始された。
日によってこの班は違う人で構成される。
一日目の今日、俺の班はハナさんとシロという女だ。
「よろしくお願いします」
「よろしく……キバくん」
「……よろしく」
このシロという女は内気な訳では無いのだろうか。
なにか、周りに興味がなさそうな目をしていた。
軽くあいさつした後すぐ、シロは俺たちに背を向け歩き出した。
「手分けしましょう」
「あっ、シロ!」
その呼びかけには何も返事をせずこの場を立ち去っていった。
「この任務は三人一組だぞ!」と言いたいところだが、もう彼女は曲がり角を曲がっていった。
「もう、聞こえてないと思いますよ」
声に漏れてたか。やべ。
「……あれ、追ったほうがいいんでしょうか?」
「うぅん……いや、それはいいでしょう。向こうから去っていきましたし、俺たちは単独行動してるわけじゃないですから」
そんな会話をして、俺たちは二人でこの調査任務を行うことに決めた。
一日目からこんなことになるとはな。
「調査任務と言っても……、それは何をやればいいんですか?」
こんな大掛かりな調査任務を受けたことがないため、何をすればいいのか全く分からない。
でもそれはハナさんも同じなようだった。
「どうでしょうか……。私も今回、初めてこんな任務を受ける……ので」
周りを見渡しながら、自分が何をすればいいか探しているようだった。
俺も同じように見渡すと、後ろで店の人に質問している様子のレイラの班が見えた。
「俺たちもインタビュー的なことは――」
そこまで言うとハナさんの顔が曇った。
「……まぁ、もうやってる班がいるのでやらなくていいでしょう!」
軽く理由をつけて、俺たちはまた振り出しに戻ってきた。
響く雨音が二人の沈黙をかき消す。
それは心地良いようでどこか気まずいものがあった。
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結局、俺たちは建物や路地などを見て回ることにした。
その最中に気づいたことと言えば、やはり人の少なさだ。
ほとんどの人がこの有害の雨で引きこもっているのか、それとも何か理由があって人が少ないのか。
「入りましょう」
「……そうですね」
先程珍しく路地を歩いている街の人を見つけ、さすがに声をかけた。
その人が言うには、この建物……もともとはカフェだった場所はもう使われていないらしく、それでも人が出入りしているのを見るらしい。
俺達は壊れたドアをくぐり、中に入る。
「おじゃまします……」
内装は特に汚れているわけではなく、ところどころに壊れた何かが散乱していただけだった。
ホコリなどは見られない。
なら人が出入りしてるのは本当なんだろう――。
「キバくん」
「はいっ!?」
俺のフードは強く引っ張られ、俺は尻もちをついた。
ハナさんは自分にバフをかけて俺のことを後ろに引いたようだった。
「えっと、何かありましたか……?」
その不可解な行動にそう質問すると、ハナさんは上を指さした。
天井には穴が空いていた。
よく目を凝らせば、そのあたりが赤く光っているような気もする。
「おそらく……、嵌められましたね。……私達は」
小声でそう言って、地面に落ちている瓦礫をその赤く光っている部分に向かって放り投げた。
すると上からドンッと音がなったと同時に、地面に小規模の穴があいた。
「うおぉ……」
踏んできた場数の差を見せつけられた感じがするな……。
「でも、罠があるってことは何か手がかりがあるかもしれませんよね。奥に行きませんか」
「そう、ですね。……気をつけて進みましょう」
俺達は進む先を警戒しながらこの建物の探索を始めた。
あのホテルより広くはないが、十分な大きさだ。
もし何の手がかりも得られず、建物一つ一つをみていくことになれば、全員でやってもかなりの時間を要するだろうな。
地面に落ちた瓦礫をどかしたり、壁をたたいて空洞がないか調べたり。
地道な作業だが、必要なことだ。
俺はふと、壁をコンコンと叩くハナさんの横顔を見る。
「ハナさん……なんかうれしいことでもありました?」
「……どうしてですか?」
どうしてと聞かれたら、自分でもよくわからない。
なんかあの日に比べて表情が柔らかい気がする、それだけだ。
「なんとなく、です。忘れてください」
「そうですか……」
また作業に戻ったハナさんを横目に、俺も瓦礫をどかす作業を再開した。
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六時間ほど経った。
昼飯は最小限、この建物の中で持参した補食を食べただけ。
ここまでして建物全体を調べたが特に何もなく、俺たちの六時間は無に帰した。
「結局何もなかったですね」
「調査一日目……それも一つ目の建物調査で成果が出る、と、思っちゃいけませんよ。……この街は広いんですから」
それもそうだな。
グランベリアほどではないが、ネオン街は間違いなく大都市と言っていい。
こんな街の問題調査……。
街の人に聞こうにも、どうやら一筋縄には行かないらしい。
おまけに建物には罠なんてはってあると来た。
どんだけかければこの任務完遂できるんだか。
「この後はどうします?」
ハナさんは少しあごに手を当てて考えたあと、自分の考えを話した。
「同じように使われていない建物を探索しましょう。今日の任務終了まで……あと六時間ほどありますし、同じくらいの大きさの建物なら探索しきれるはずです」
そう言い終えたあと、ハッとしたように手の平をこちらに向けて顔を隠した。
「あの! 私の意見なんて取り入れなくてもいいですから! ……キバくんの自由でいいです……!」
自分のことを低く見すぎだよな。この人は。
少し笑ってしまうほどに。
「ふはっ……。いえ、それで行きましょう。一回経験して探索速度も速くなってると思いますし、早めに終わらせて帰りましょうか」
「……はい……!」
控えめに笑って、嬉しそうに俺の後ろについた。
歩くときは俺が先頭、それは譲れないらしい。
「でも、使われてない建物……多いかもしれませんね」
俺は周りを見渡してそういった。
現在営業しているのはあのホテルに加え小さな飲食店ぐらい。
人が住む気配のある建物もあるにはあるが、その数は少ない。
この中には人の少なさが原因で潰れた店もあるだろう。
それがこの街に活気が感じられない理由か。
目に悪い照明で誤魔化しているが、明るさ的にも雰囲気的にもこの街は暗い。
「じゃあ、そのすべてを探索するとなれば、本当に……すごく時間がかかりそう、ですね」
「そうですね」
長期任務か。
少し楽しい気持ちもあるが、心構えをしておけばよかったな。
「あの建物、さっきのと同じくらいです。使われてなさそうですしあそこにしましょう」
「……そうですね」
俺達はその人の気配がない建物へと入り、探索を始めた。
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「また収穫ゼロですね〜」
「そうですね……」
ハナさんもさすがに疲れたのか、ちょっと元気がない。
普段が活発か、と言われればそうではない。些細な違いである。
結局この建物には何もなかった。
さっきと同じように、ところどころに罠があるだけ。
普通の街中に罠があるのはおかしい気もするが、この街の発達方向はどこを目指しているんだろうか。
ハナさんは持っていた街全体の地図の2つの建物にマーカーでバツをつけた。
これは任務開始、出発前に全員に配られたもので、自分が探索したところを分かりやすく印をつけて、と言われた。
「そう言えば、シロはもう戻ってるんでしょうか」
「シロさんは知り合いじゃないのでわかんないです……」
申し訳なさそうな顔をしていたが、当たり前なことなので「やめてください」と言っておいた。
控えめすぎることで何かトラブルでも起きるんじゃないかと心配になる。
「あ、もうホテルに向かってる班も見えますね。俺たちも戻りましょう」
細い路地の隙間から、ホテルに入っていく冒険者たちが見えた。
俺達は少し遠回りをしてホテルへ向かった。
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「シロ……」
地図をリーダーに提出したあと、シロを見つけたので名前を呼んでみたが、見事に無視されてしまった。
人間、悲しかったら泣くけどな……
「はぁ……」
ため息をつくと、隣にクロムとサキがやってきた。
「どうしたんすか? あんまり調査うまくいかなかったとか?」
「まぁ、そんな感じだ……」
「でも、私たちも同じだよね! っていうか、こんな大きな街の調査なんて、一日で成果出るわけないって!」
バシッと背中を叩かれ、少し気分が晴れたような気もした。
「……おう、ありがとな。少し元気出たかも」
「ほんと!? 良かった良かったぁ!」
続けてバシバシと背中を叩かれながら、食堂への道をたどる。実はちょっと痛い。
「ずっと『コレ』着てるのもなんか嫌っすよね〜。防水全振りなのは分かってるっすけど、さすがに着心地悪いっす」
クロムはそう言って手に持つ厚いパーカーのようなものをパンと叩いた。
これはここにいる全冒険者に配布されたもの。
完全な防水性を誇っていて、この有害な雨にはうってつけというわけだ。
……クロムの言う通り、着心地は悪い、悪すぎるが。
「早く飯食おうぜ!」
すでに食堂に着席していたレイラに隣の席をペシペシと叩かれたので、そこに座る。
やがてあの八人が集結し、俺たちは夕食にありついた。
ふと横を見ると、やっぱり一人で飯を食べているハナさんがいる。
ハナさんはあまり人付き合いが得意な方じゃない。
一人のほうが心地良いとか、そんなことだろうか?
「なんか成果はあったかよ?」
正面に座るカラスがこの八人全員に問いかける。
もうすっかりこの八人には馴染んでるみたいだ。
「こっちは全く」
俺はそう答えておく。事実だからな。
「私たちもだよ! 建物の中に罠張ってあって調査しにくい割に、調査し終えたあとの成果は全くなし。嫌になっちゃうわ!」
クロムの肩に手を置いてそう話すサキは、もう片方の手をヒラヒラさせながらだるそうにしている。
「あたしも、です……」
「俺もだな」
次々と成果なしの報告が飛んできて、カラスはため息をついて、「どこも同じか」とつぶやいた。
その様子からカラスの方も成果なしだったことは容易に想像できる。
「こりゃ、長い夜になりそうだな」
レイラはふざけたようにそう言った。
「カッコつけてない?」とサキに耳打ちされ、その声が聞こえてしまったレイラはサキの頭にチョップをかました。
耳打ちの声は大きくこの八人全員が聞き取れていて、一連の流れを見ていた、俺を含めた全員がサキの「あう」の一声で一斉に笑い始める。
……いいな、この雰囲気。
この八人全員、もう俺の友達だ。
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「ごちそうさまでした」
俺は手を合わせ、食器を片付ける。
周りの冒険者の中には俺の十分前には食い終わってる奴もいて、その速さに驚愕して顎が外れかけた。
「あ?」
ふと俺が座っていたあたりを見ると、シズクに近づいている髪色が派手な男とそれを制止するリョウの姿があった。
シズクは美人だ。
俺より五歳年上であり、それ相応の美しさを持っている。
ナンパというやつだろう。
「あれって……」
その髪色が派手な男は、入団試験で喧嘩していたうちの一人……。あのときは一方的に煽っていただけのように見えたが。
「やめて、リョウ」
「でも……!」
「その美人さんの言う事を聞いておくべきだぜ? 俺はB級冒険者。あんたじゃ勝てないさ」
「くっ……」
リョウはB-級の冒険者。
あの派手髪の男はリョウよりランクが一つ上らしい。
ランク一つの差で、圧倒的に実力が違うこともある。
そんな相手に挑む危険さも、メリットのなさも、リョウは理解している。
だからこそ、シズクを庇うことができない状況に腹を立てているのだ。
ここで、意外にもシズクから強い言葉が出る。
「こんな人の多い場所でナンパとか、よっぽど自分のことを高く評価してるみたいね」
「はぁ?」
「他のことを見下すようなことしかできない人だから、入団試験前にトラブルを起こすんじゃないかしら? 自分を改めてみてはどう? そのカラフルに染めた髪を目立たない色に戻せば少しは変わるんじないかしら?」
「……言うねぇ……!」
男は一瞬目をギラつかせたが、ここで力を行使することのメリットのなさを理解したようで、すぐに部屋に戻っていった。
「ダサいね」
「そうだな」
今度はサキのその言葉に乗り、あの男をダサいと評価した。
シズクはB+級のヒーラー。
サポート役の貴重さを考えても、高ランクのヒーラーは数少ない。
シズクに嫌われただろうな。あの男は。
そんな騒動を経て、俺たちは調査一日目の夜を終えた。




