閑話1『かつて人を助けたかった少女』
今でも、あの日のことを夢に見ます。
私はあのとき、どうするのが正解だったのでしょうか。
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「コタローくん!」
「ハナ! 今日も遊ぶぞ〜!」
十歳になってすぐくらいでしょうか。
私には好きな男の子、コタローくんがいました。
とっても優しくて、頼りになる男の子でした。
私は自分の力を好きじゃなかったんです。
生物の補強をするだけで、自分では戦えないですから。
それでも彼は、私の力を優しい力だと言ってくれたんです。
その性格のおかげか、コタローくんを好きになる女子は友達の中でたくさんいました。
それは良いことですが、悪いことでもあります。
子供の頃の人間関係なんて、難しいものですよ。
コタローくんを好きな女子がまたコタローくんのことを好きな女子と喧嘩して、挙句それをコタローくんのせいにして、ということが起きたんです。
難しいですよね。本人にはどうすることもできないんですから。
彼はそれを優しく受け入れていました。
そのせいなんです。彼がいじめられているのは。
「コタロー! ちょっと来て!」
「……ごめん、ハナ。ちょっとまっててよ」
こんなやり取りは、もう何度も見てきました。
そのたびにコタローくんは傷ついて帰ってきます。
それは体の外側、内側。その両側の話です。
私はボロボロになって帰ってくるコタローくんをもう見ていられませんでした。
だからついていくことにしたんです。
「助けなきゃ……」
私がコタローくんの助けになれば、彼も私を好きになってくれるかな、なんて。
そんな浅はかな考えでした。
……結果的に、この行動は間違っていました。
目の前で何も抵抗せず殴られるコタローくんを見て、私は怒りを抑えられませんでした。
「コタローくん……。いや……! もうやめて……!」
この頃の私も、性格は内気でした。
コタローくんにだけ、少しは軽く話しかけることができていました。
私は声にならない叫びを魔力に込めて、コタローくんの『体の内側』に使いました。
私の能力は『補強』です。
人にバフをかけるだけの能力。
でも、これを使ったのも間違いでした。
殴られる拍子にコタローくんの足がいじめている女子、ミコちゃんの足に当たってしまいました。
普段ならなんの威力も持たないそれは、私のバフによって強化されていました。
そう、私のバフのせいで、コタローくんはミコちゃんを傷つけてしまったのです。
「いたい! いたいよぉ!!」
わんわん泣くミコちゃんを見て、私はざまぁみろ、と思ってしまいました。
でも、コタローくんは違いました。
彼は優しすぎるんです。
痛いのは自分のはずなのに、自分が少し傷つけてしまったミコちゃんのことを過剰に心配していました。
コタローくんもまた、目に涙を浮かべていました。
痛いからではありません。
自分が人を傷つけたという、責任から来るものでした。
やがて私が能力を使ったからだというのが露呈します。
「コタローくん……」
「ごめん……。俺、ハナのこと、嫌いだ」
目に涙をため、その下には大きなクマを作り、私に吐き捨てるようにそう言いました。
普段は優しい彼から、そんな言葉が飛んでくるなんて思っていませんでした。
――私が人を助けようと思って使った力は、その人を壊してしまった。
いじめの標的はコタローくんから私へと変わりました。
そこから今までの間、私は抵抗することもできずいじめられ続けていました。
ミコちゃんは今、冒険者をやっていて、私と同じ小隊に所属していたんです。
その他にも私の態度を気に入らない冒険者たちが小隊に集まってしまって、私の味方は一人もいませんでした。
そんな日です。彼から声がかかったのは。
「ハナ。少し付き合ってもらえるかな」
金髪に黒のメッシュ、左頬に爪痕のような傷跡。
S級冒険者のライさんでした。
どうやら一度だけ任務を共にしたのを覚えてくれていたようです。
今回声がかかったのは、ライさんの弟子に教えてほしいことがある、という理由からでした。
結果的に、この誘いを受けたのは正解でした。
ライさんの弟子、キバくんは、私に大きな影響を与えています。
この出来事は、
自分の能力について考えるきっかけ。
私が人とまともに会話する場所。
そして、私の心のありようが変わった日。
私は彼に『恩人』と言われて、嬉しいと同時に、自分を見つめ直すきっかけとなりました。
少し、自信がついたんです。
これまで、力を使うのさえ怖かった私は、少しいなくなったかなと思います。
彼にとって私は恩人。
それは彼からしたら、です。
私からしたら……。
私はミコちゃんたちに言い返し、喧嘩をしました。
今まで溜まっていた分、その喧嘩に遠慮はありませんでした。
ミコちゃんは能力を使わなかったけど、私の貧相な体では勝てるものではありませんでした。
もちろん、少しは抵抗しましたけどね!
この件をきっかけに私はこの小隊から脱退。小隊配属からやり直すことに。
私としてももうあそこにいるのは耐えられないと思いました。
ネオン街の調査任務が今回、小隊配属戦の代わりとなっているらしく、私もそれに出向くことになりました。
そして私は今日、このネオン街で、キバくんと再会しました。
再会に驚きましたが、それ以上に彼の魔力の使い方の上達具合に驚きました。
手を掴まれてびっくりしましたけど、それによって私は自覚することになりました。
私にとって彼は……。
ネオン街、この明るくて暗い街で、私は少し元気が出ました。
知り合いがいたからではありません。
紛れもなく、キバくんがいたからです。




